香典の表書きは故人の宗教・宗派によって異なります。仏教は「御霊前」、神道は「御榊料」、キリスト教カトリックは「御ミサ料」、プロテスタントは「忌慰料」などと書きます。表書き以外には名前、金額、住所を記入します。香典袋は悲しみを表すという薄墨で書くのがマナーです。
「香典」の読み方は「こうでん」です。 「香典」の意味は「香の代わりに死者の霊前に供える金品」です。 「香典」は「香奠」と書くのが正式ですが、「奠」は常用漢字ではないため「香典」と代用して書くのが一般的です。 「香」には「仏前で焚く香料」という意味が、「奠」には「神仏などへの供え物」という意味があります。
「香典」は元々仏教用語です。仏教以外でも「香典」といいますが、正式には「不祝儀(ぶしゅうぎ)」といいます。 しかし「香典」の方が広く知られているため、仏教以外の宗教でも便宜上「香典」を用いることが多いのです。 弔事で使用する封筒のことを「不祝儀袋(ぶしゅうぎぶくろ)」と言います。「香典袋」と言うこともあります。 また「香典」は通夜・葬儀・告別式にお供えする金品のみのことを指します。 初七日や四十九日などの法要でお供えする金品は「供物(品物の場合)」「供物料(現金の場合)」と言います。
仏教(仏式)」の表書きは、
などがあります。 忌明けの四十九日法要まではまだ御霊(みたま)としてこの世にいらっしゃるという考えから「御霊前」を表書きとして使うことが多いです。四十九日の法要後に「御仏前(御佛前)」を使います。 仏教の一つである浄土真宗に限っては例外です。 浄土真宗では、亡くなった人はすぐ仏様になるという考えから「御霊前」は使わず不祝儀(香典)で「御仏前(御佛前)」を使用します。
表書き | 表書きの説明 |
---|---|
御霊前 (ごれいぜん) |
通夜・葬儀〜四十九日の法要までの期間 ※浄土真宗では使用しない |
御仏前(御佛前) (ごぶつぜん) |
四十九日の法要後〜 ※浄土真宗では通夜・葬儀から「御仏前(御佛前)」を使う |
御香典 (おこうでん) |
宗派、期間問わず使用可能 |
御香料 (ごこうりょう) |
宗派、期間問わず使用可能 |
御供料(ごくうりょう) | 宗派、期間問わず使用可能 |
神道(神式)の表書きは、
などがあります。 仏式のように期間ごとの使い分けは特になく、「御榊料」「御玉串料」「御神撰料」などと書くのが一般的です。
キリスト教は大きく分けるとカトリックとプロテスタントの2つの宗派があります。 それぞれの宗派で表書きが異なります。 カトリックの場合は、
プロテスタントの場合は、
などの表書きを使います。 なお「御花料(お花料)」と「御白花料」は宗派問わず使用可能な表書きです。
宗教・宗派 | 表書き |
---|---|
キリスト教共通 | 御花料(お花料)・御白花料 |
キリスト教(カトリック) | 御ミサ料・御霊前 |
キリスト教(プロテスタント) | 忌慰料 |
故人が無宗教、もしくは故人の宗教が不明な場合は、
の表書きを使うと良いです。 ただし「御霊前」は浄土真宗とプロテスタントでは使いませんので注意が必要です。 そのため「御花料」や「御供物料」と書くのがベターでしょう。
香典袋に表書きなどを記入する時は必ず薄墨を使用しましょう。 薄墨とは文字通り「薄くすった墨」のことです。 「悲しみの涙で墨が薄れる、突然のことで墨をする時間がない」という意味合いが込められています。 最近では薄墨の毛筆ではなく薄いインクを使用した弔事用の筆ペンを使うことが一般的となっています。 弔事用の筆ペンはスーパーやコンビニなどでも購入可能です。手元に慶事用の筆ペンがある場合はペン先を水に浸し薄墨にして使用することも可能です。 基本的には全ての記入事項を薄墨の毛筆や弔事用筆ペンで書くのがマナーですが、金額や住所を相手にわかりやすく書くために中包みはボールペンで書くのも良しとされています。
基本的に香典(不祝儀)は手書きするのが正式なマナーとされています。 しかし最近では表書きなどを印刷したり、スタンプを使ったりする人も増えているようです。 毛筆や筆ペンを使って書くのが苦手、自分の手で書く時間がないという場合は、印刷やスタンプを使うことも可能です。 印刷やスタンプを利用する際は文字の色が薄くなっているかどうかを確認しましょう。 通常の印刷やインクでは黒が濃くなってしまうため、弔事には不向きと言えます。 遺族によっては良い印象を持たない人もいるため注意が必要です。
香典袋(不祝儀袋)に書く名前は、香典を包む人の名前です。送り先の名前(宛名)は書きません。 基本的にはフルネームで記入します。表書きの文字よりもやや小さめの字で書きます。 旧姓や会社名などを添える場合は、「旧姓○○」「○○部一同」「○○会社有志」などと上包みに書きます。 連名は最大3名までが目安です。 夫婦連名の場合は中心より右寄りに夫の氏名を、その左に妻の名のみを記載します。 名前を並べる順番は、目上の人が一番右側です。特に上下の区別がない場合は五十音順で記載します。 連名が4名以上の場合は上包みに代表者のみ氏名を記載し、左側に「外一同」と書き添えます。 全員分の名前は白無地紙(半紙や奉書紙など)に目上の人順に右側から書き中包み(内袋)に入れます。 上包みにも名前は記入しますが、紛失等のトラブルを防ぐために中包み(中袋)にも名前を書きます。 中包み(中袋)に書く名前は中包み裏面縦左半分の左側に記入します。(名前の右隣には住所) 中包み(中袋)に旧姓を書く場合は氏名よりも小さめの字で括弧書きで(旧姓 ○○)と記入します。 代理で不祝儀(香典)を渡してもらう場合は、不祝儀袋(香典袋)には代理依頼人の氏名を記載し、代理人本人の氏名は記載しません。 受付で代理で来た旨を伝え、芳名帳には依頼人の氏名を記載します。 そして氏名の下に配偶者の代理の場合は「(内)」、それ以外の人の代理は「(代)」と書きます。
名前の書き方 | 説明 |
---|---|
個人 | 基本的にはフルネーム。表書きよりもやや小さめの字で書く。 |
夫婦連名 | 中心右寄りに夫の氏名、左に妻の名のみを記入する。 |
連名(3名の場合) | 目上の人が一番右側に来るように、上下関係がない場合は五十音順で右から記入する。 |
連名(4名以上の場合) | 代表者のみ氏名を記入し左側に「外一同」と書き添える。 全員の氏名は白無地紙に目上の人順に右側から書き中包みに入れる。 |
旧姓 | 上包みに現在の氏名を書き左側に(旧姓 ○○)と記載する。 もしくは上包みには現在の氏名を中包みには旧姓で氏名を書く。 |
団体・グループ | 上包みには「○○部一同」「○○会社有志」と書く。 全員の氏名は白無地紙に目上の人順に右側から書き中包みに入れる。 |
金額は大字(だいじ)で書くのが正式なマナーです。 「大字」とは漢数字の「一・二・三…」などの代わりに用いる「壱・弐・参…」など主に改ざんを防ぐ目的で使われる漢字です。 金額を書く際は「お金」という意味を持つ「金」を添えて、また「円」は旧字体の「圓」を使い「金 ○○○圓」という形で書きます。「金」と金額の間は少しスペースをあけると見やすくなります。 例えば、
と書きます。 金額は中包み(中袋)の裏面の上か下に書きます。すでに記入欄が印刷されている場合は枠内に金額を記入します。 中包み(中袋)を使用しない場合は、上包みの裏面縦左半分の左側に金額を記入します。(縦左半分の右側には住所を書きます。) 香典袋の金額を横書きする場合は「金 5,000圓(円)」などと算用数字を使います。 金額を書く際に「金 ○○圓也」と「也」をつける人がいますが、現在は「也」は不要です。 「也」は円以下に銭(せん)や厘(りん)というお金の単位があった時代に、それ以下の端数のないことを示す際に使われていたものです。 主な金額の書き方を下記の表でまとめましたので参考にしてください。
漢数字 | 大字 |
---|---|
一 | 壱 |
二 | 弐 |
三 | 参 |
四 | 肆 |
五 | 伍 |
六 | 陸 |
七 | 漆・質 |
八 | 捌 |
九 | 玖 |
十 | 拾 |
百 | 陌・佰 |
千 | 仟・阡 |
万 | 萬 |
円 | 圓 |
香典袋(不祝儀袋)には送り主の住所や電話番号を書きます。住所を書く理由は、遺族が香典返しを贈るためです。 郵便番号は算用数字を用いて横書きする場合と、漢数字で縦書きする場合があります。「〒」の記号を使ってもかまいません。 住所が長く一行に収まらない場合は二行で書いても構いません。故人と同郷の場合は都道府県名は省略することもあります。 住所は中包み裏面、縦左半分の中心寄りに縦書きで記入します。氏名よりも小さめの字で書きましょう。 中袋を使用しない場合は、外袋(香典袋)の裏面左側に住所を書きます。余白がある場合は電話番号も添えるとより丁寧です。
香典(不祝儀)の金額は故人との関係性や立場、また自身の年齢によって異なります。 自身の年齢が上がるにつれて、また血縁関係が近いほど不祝儀(香典)の金額が高くなる傾向があります。 金額に迷う時は、自分と同じような立場の人と相談して決めると良いです。 金額の相場を下記の表にまとめましたので参考にしてください。 ただしあくまで目安であり、
などの場合は、 相場よりも多めに出しましょう。
贈り先 | 金額相場 |
---|---|
祖父母 | 1万〜3万円 |
親 | 5万〜10万円 |
子供 | 10万円前後 |
兄弟姉妹 | 1万〜5万円 |
子供の配偶者の親 | 3万〜5万円 |
孫 | 1万〜3万円 |
おじ・おば | 1万〜3万円 |
いとこ | 1万〜3万円 |
上記以外の親戚 | 5千円〜2万円 |
職場関係(上司、同僚、取引先) | 5千円〜1万円 |
友人・知人 | 3千円〜1万円 |
隣人 | 2千円〜1万円 |
故人の宗教や宗教に合った香典袋(不祝儀袋)を使用します。 香典袋(不祝儀袋)を選ぶ際の主なポイントは①袋の柄、②水引きの色、③表書き(印字されている場合)です。 仏教の場合、菊もしくは蓮の花が印刷されており、黒白か双銀の水引きが付いている香典袋を使います。 表書きが印字されている場合は、「御霊前」や「御香典」などを選ぶと良いでしょう。 神道の香典袋は無地で水引きは白、黒白、双銀のいずれかのものを使います。 キリスト教の香典袋の柄は百合の花か十字架で、水引きは使いません。 また包む金額に見合った香典袋(不祝儀袋)を選ぶことも大切です。 香典袋(不祝儀袋)は大きく分けると2種類あり、水引きが印刷されている「印刷多当」タイプと、水引きが印刷でなく付属されている「金封」タイプがあります。 金封タイプには4種類があり、違いは袋の大きさ、水引きの種類や色、そして包む金額です。 金額が1万円以下の場合は印刷多当を、1万円以上の場合は金封の袋を使用します。
香典は弔事で渡すものですので熨斗(のし)は不要です。 「熨斗( のし)」とは、贈答品につける飾り物のことを指し結婚などの慶事のみに使います。 熨斗には「伸ばす」という言葉を重ね相手の繁栄を祝うという意味合いがあります。「悲しみを引き伸ばす」ということになってしまうため、香典には付けません。
基本的に弔事では新札は使いません。新札だと前々から用意をされていたようで失礼な印象を与えるからです。 したがって香典では汚れやシワが目立たない古いお札を包むのが正式なマナーとされています。新札の方が清潔で失礼がないという点から新札を使用する人も増えつつあります。 新札を使う場合はわざと折り目を入れて包むと良いでしょう。 香典を包む時、「4」や「9」を含む金額は避けましょう。「死」や「苦」などを連想させるからです。 またかつては「奇数は吉、偶数は凶(数が割り切れることが縁が切れると連想させるため)」といわれていたため、金額やお札の枚数を偶数にするのも避けるべきです。 中袋へのお札の入れ方は、弔事では「顔を伏せる」ように入れるのが一般的とされています。 封筒の「表」に対してお札が「裏」を向くように入れますが、その際人物の顔が底を向くように入れます。 お札の人物像を伏せるように入れることで、故人に対する悲しみやお悔やみなどの気持ちを表します。 奉書紙や半紙などでの包み方は上記のイラストを参考にしてください。弔事では包んだ紙の三角の部分が右下にくるようにするのがポイントです。 上包みの折り方は弔事では「悲しくてうつむいている」という意味で上の折返しが上面にきます。(上の折返しを最後に折ります) 水引きの結び方は「結びきり」の基本の真結びです。水引きの色が2色の場合、右に濃い色、左に薄い色がくるように結びます。 香典袋(不祝儀袋)を持参する際は袱紗(ふくさ)という1枚の布を使います。袱紗が無い場合は風呂敷を代用します。 布を折る順番は右→下→上→左です。
香典(不祝儀)は通夜や葬儀、告別式の受付で渡すのが基本です。 通夜や葬儀、告別式の両方に参列する場合、最初に弔問する通夜に不祝儀(香典)を渡すのが一般的です。 不祝儀(香典)をお供えする際、袱紗に包んだまま渡すのはNGです。 相手から袱紗が返ってくることを「不幸が返ってくる」として捉えられるためです。 受付での不祝儀(香典)の渡し方は下記の通りです。
受付がない場合は、焼香の際に霊前にお供えするか遺族に直接渡します。 遺族に手渡しする時も相手に表書きの正面を向け、「ご霊前にお供えください」などと述べ両手で渡します。 祭壇にお供えする場合の流れは下記の通りです。
焼香の後に遺族が霊前に向けて不祝儀(香典)を置き直すため、お供えする際は表書きの正面を自分に向けて置きます。 なお焼香は不祝儀(香典)を供える前に行っても構いません。 通夜や葬儀、告別式に参列できない場合の香典は、後日直接遺族にお渡しするか郵送で送ります。 後日弔問する際は事前に日程調整を行いましょう。 郵送する際は必ず現金書留で郵送しましょう。お詫びやお悔やみの言葉を添えた手紙を同封するのがマナーです。
いかがでしたか? 今回は香典の表書きの書き方を中心に香典に関する様々なマナーをご紹介しました。 主な内容は下記の通りです。
香典袋の書き方以外のマナーもぜひ参考にしてください。