「羅刹」という言葉の意味と使い方を解説します。「羅刹」はもとインド神話に出てくる鬼を指します。仏教に取り入れされて守護神として語られています。
「羅刹」は「らせつ」と読みます。 「羅刹」の同音異義語に「羅切」があります。 「羅切」は陰茎を切り除くという意味で、全く意味の違う熟語です。
「羅刹」とはインド神話に登場する悪鬼(あっき)の一種です。 「羅刹」の語源は「暴悪で恐ろしい」の意のサンスクリット語「rākṣasa(ラークシャ)」またはパーリ語の「rakkhasa(ラッカサ)」の音写で、「羅刹鬼」「可畏(かい)」「速疾鬼(そくしつき)」「暴悪」「護者」とも訳されます。 「羅刹」は別名「涅哩底王(ねいりていおう)」ともいわれ、破壊と滅亡を司る神です。 羅刹は、水をすみかとし、大力で足が速く空中を飛行し、神通力(じんつうりき)で人を魅了し、または食うといわれる男女の鬼です。闇夜に最大の力を発揮し、夜明けとともに力を失うといわれています。 「羅刹」は獄卒(ごくそつ)を意味する場合もあります。「獄卒」とは「地獄で亡者を責めて苦しめる鬼」を意味します。 『マハーバーラタ』と並ぶインド2大叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』では、羅刹はランカー島(スリランカ、セイロン島)を拠点にしています。 羅刹族を率いているのはラーヴァナと呼ばれる魔王です。英雄ラーマの敵王で退治される伝説が語られています。 『ラーマーヤナ』は馴染みのない方が多いかと思いますが、ジブリアニメ『天空の城ラピュタ』の題材になった、インド人では知らない人はいない叙事詩です。日本で例えるならば万葉集といったところでしょうか。 『ラーマーヤナ』の主人公ラーマはインド神話最大の英雄の一人です。日本で例えるならば桃太郎といったところでしょう。
羅刹はのちに仏教で守護神となります。 仏教における守護神は、「護法善神(ごほうぜんじん)」「護法神(ごほうしん)」「諸天善神(しょてんぜんしん)」などとよばれます。 天部の十二天の一つに数えられ、羅刹天と呼ばれるようになりました。 天部とは仏教における天界に住む神々のことです。 数尊を集めて護法や守護神的な威力を高めたものとして、四天王・八部衆・十二天・十二神将・二十八部衆などの、いわゆるチーム構成があります。 十二天は天部のチーム編成の1つで、この世の一切を守る十二の神を指します。 12とは守る場所を指しており、四方(東西南北)と四維(北西・南西・南東・北東)に天地と日月を加えた12箇所です。 羅刹天は西南を守る神です。 像は甲冑をつけ、刀を持ち白獅子に乗っており、憤怒した形相をしています。 全身黒色で髪だけ赤色です。 右手には刀を立てて持ち、左手は人差し指を立てています。 大きな剣で煩悩を断つといわれます。 羅刹天は四天王の一つである多聞天(たもんてん)に仕えています。 多聞天は、十二天では毘沙門天(びしゃもんてん)といわれます。 四天王にも十二天にも”所属”しているのは多聞天(毘沙門天)のみです。 羅刹天は十二天のチーム編成の場合は西南の守護を担当しますが、四天王の編成の際は多聞天の家来として北の守護をします。
羅刹には男女があり、女の羅刹のことを羅刹女(らせつにょ)といいます。「羅刹斯」「羅刹私」ともいわれます。 これと区別するために、男の羅刹のことを「羅刹娑」「羅刹婆」といいます。 男は醜い一方、非常に美しい容貌をもちます。 羅刹女は西遊記にも敵役として登場します。 羅刹女は10人います。
十羅刹女の一覧
「羅刹」を含む言葉には「羅刹国」「羅刹日」などもあります。 「羅刹国(らせつこく)」は文字通り「羅刹がいる国」という意味で、『ラーマーヤナ』ではスリランカを指します。 「羅刹日(らせつにち)」とは宿曜暦で、何事をなしても成就しないという大凶日を意味します。
四天王の一つである多聞天に羅刹天と共に仕えている鬼が「夜叉(やしゃ)」です。 語源はサンスクリット語「yakṣa(ヤクシャ)」またはパーリ語「yakkha(ヤッカ)」の音写です。 夜叉はインド古代から知られる森林に棲む神霊です。 人を害する鬼神である一方、財宝神としても信仰されました。 仏教に取り入れられた後は、天竜八部衆の一つとして仏法護持の神となりました。 天夜叉、地夜叉、虚夜叉の3つに分けられます。 なんとなく似た言葉に「夜伽(よとぎ)」がありますが、全く意味が違うので注意です。
「修羅(しゅら)」は「阿修羅」の略です。 「阿修羅」の語源はサンスクリット語「asura」の音写です。 阿修羅も古代インドの悪神です。 仏教では、八部衆または二十八部衆の守護神です。 十二天の一つ「帝釈天(たいしゃくてん)」と敵対者として語られています。 阿修羅は常に戦闘を好んだといわれています。
「羅刹」「夜叉」「阿修羅」という言葉は日常会話でも慣用句として使われますので、紹介します。
「悪鬼羅刹」は「人に害を与える化け物のこと」という意味です。類語には「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」があります。 「夜叉」は大変醜い形相だったことから、「夜叉のごとき表情」などと使います。 「夜叉が嫁入り」とは、醜い女が自分の醜さも顧みず派手に化粧しているのをあざけっていう言葉です。転じて、何度出会ってもそのたびに珍しく感じられること、を指します。 「外面似菩薩内心如夜叉」は顔は菩薩のように優しいが、心は夜叉のように険悪で恐ろしいの意味です。 女性が仏道の修行の妨げになることをいった言葉です。 「阿修羅」は戦闘が好きだったことから、「阿修羅のごとく戦う」など激しく戦うさまを形容する時に使われます。 「修羅場」は「戦争などが行われる場所」という意味で、これも「阿修羅」の戦闘好きが由来です。
「羅刹」は悪鬼という意味から、アニメーションやソーシャルゲームのキャラクターの名前として使われることがしばしばあります。 下記などのアニメ・ゲームで使用されています。
「羅刹」の英語は、そのままヒンディー語をローマ字表記して「Rakshasa」とすることができます。 しかしこれではほとんどの英語話者は理解できないでしょう。
「羅刹」は、「鬼」「悪魔」を意味する「demon」と表現するのが一番分かりやすいでしょう。 カタカナでは「デーモン」といいますが、英語の発音は「ディーモン」です。
「怪物」を意味する「monster」を使うこともできます。 ケンタロスやドラゴンなど、伝説上の化け物を「monster」と表現しますので、その文脈では「monster」が一番近い英訳と思われます。