「歯に衣着せぬ(はにきぬきせぬ)」は「思っていることを包み隠さず言うこと」という意味の慣用句です。相手に遠慮せずに思っていることをズケズケいうことは反感を買う場合もありますが、「歯に衣着せぬ」はポジティブな意味で使います。
「歯に衣着せぬ」の読み方は「はにきぬきせぬ」です。 「歯」は訓読みで「は」、「衣」は訓読みで「きぬ」、「着」は訓読みで「きる」と読みます。 「衣」を「ころも」と読むのは間違いなので注意しましょう。
「歯に衣着せぬ」の意味は「思っていることを包み隠さず言うこと」です。 思ったことをずけずけと言って相手を不快な思いにさせるというマイナスな意味ではなく、率直に思っていることをはっきり伝えることができるというポジティブな意味で使用されることが多いです。
「歯に絹着せぬ」は誤記なので注意しましょう。 「きぬ」は「絹」ではなく「衣」です。 「衣」は、衣服・着物という意味です。 「袴(はかま)」に対して上半身に着るものをさしています。 「絹」は「きぬ」のことで、カイコの繭(まゆ)からとった動物繊維のことです。
「歯に衣着せぬ」の語源は「歯を隠さない」です。 「歯に衣着せぬ」は直訳すると「歯に衣服を着せない」という意味ですが、もちろん歯に衣服を着せることなどできません。 「歯に衣着る」は「歯を隠す」ということの比喩です。 「歯を隠す」は、口を閉じはっきりと物を言わない状態を言い表しています。 ここから、「歯を隠さないはっきりとした物言い」という意味で「歯に衣着せぬ」という慣用句が使用されるようになりました。
「歯に衣着せぬ」は、正論や誰もが共感できるようなことをはっきりと伝えることを言い表すときに使用されます。 定型句は「歯に衣着せぬ○○」です。 例えば、「歯に衣着せぬ批判」「歯に衣着せぬ言い方」「歯に衣着せぬ論評」などと使います。 単なる毒舌である場合や無神経な発言に対しては使用しません。 また、「歯に衣着せず」の形でも使用することができます。 例えば、「歯に衣着せぬ批判」を「歯に衣着せず批判をした」としても正しいです。 口語では「歯に衣着せぬ性格」などといいますが、本来は正しい使い方ではありません。 「歯に衣着せぬ」は性格ではなく、あくまでも話し方に対して使う語です。
「歯に衣着せぬ」の例文
「歯に衣着せぬ」と否定形で使用されることがほとんどですが、「歯に衣着せた」と肯定形で使う場合もあります。 「歯に衣を着せた」で、言葉をオブラートで包むようにはっきりと言わないことを言い表します。 本来はこの使い方は誤りなので、「奥歯に衣を着せる(おくばにきぬをきせる)」に言い換えるのがよいでしょう。 「奥歯に衣を着せる」で、「物事をはっきり言わずに何か隠しているような言い方をすること」という意味になります。 「奥歯に衣を着せたような」という形でよく使われます。
「歯に衣着せた」「奥歯に衣を着せる」の例文
「歯に衣着せぬ」は、上述しているように率直な意見をはっきり述べることができるという褒め言葉として使われます。 しかし、「ずけずけとストレートに発言すること」と捉えることもでき、人によっては悪口だと感じる場合もあります。 目上の人などの言い方を「歯に衣着せぬ」と表現する場合は注意しましょう。
「忌憚なく」は「きたんなく」と読みます。 「忌憚」には「いみはばかること、遠慮」という意味があります。 「忌憚なく」は「忌憚」に打ち消しの「ない」をつけているので「遠慮なく」という意味になります。 例えば「忌憚なく意見を述べる」で、「遠慮なく思ったことや感じたことをはっきり伝える」ということを言い表します。
「胸襟を開く」は「きょうきんをひらく」と読みます。 「胸襟を開く」の意味は「心の中を打ち明ける」です。 隠し立てをしないで、心の中に思っていることをすっかり話すことを言表します。 「はっきりと物を言う」というよりは、「心を開いて思いのままに気持ちを伝える」という意味なので、「歯に衣着せぬ」とはニュアンスが異なります。
「舌鋒鋭く」は「ぜっぽうするどく」と読みます。 「舌鋒鋭く」の意味は「ストレートに厳しい意見をいう」です。 相手に対する批判や評論で、鋭い追求の観念や言葉を使い言い表します。 「舌鋒」とは、言葉つきの鋭いことを矛先に喩えた言葉です。
「腹蔵なく」は「ふくぞうなく」と読みます。 「腹蔵なく」の意味は「心に思っていることを包み隠さない」です。 「腹蔵」は「心の中に包み隠すこと」という意味があります。 「腹蔵」に打ち消しの「なく」をつけることで、「心の中に思っていることを、腹を割って打ち明けること」をいいあらわします。
「ざっくばらん」の意味は「遠慮や隠し事のないさま」です。 気取らずに率直に心情を何でも表すことをいいます。 遠慮することなく率直に話すことを「ざっくばらんに話す」などと言い表します。 また、すぐに打ち解けて、誰に対しても率直な態度をとることができる人を「ざっくばらんな人」と言い表すこともできます。
「直言居士」は「ちょくげんこじ」と読みます。 「直言居士」の意味は「良い事は良い、悪いことは悪いとはっきり意見すること」です。 歯に衣着せぬ物言いで、はっきりと意見をする人物を言い表します。 「直言」は「思っていることをはっきりと言うこと」、「居士」は男性を指します。 よって、「直言居士」ははっきりと言う男性に対して使用できる四字熟語です。 ちなみに、似ている四字熟語に「一言居士」があります。 「一言居士」は「何か一言言わないと気がすまない人」を言い表します。 意味が異なるので、混合しないように注意しましょう。
「奥歯に物が挟まる」は「おくばにものがはさまる」と読みます。 「奥歯に物が挟まる」の意味は「思うことを率直に言い切らぬ感じにいうこと」です。 奥歯に異物が入ると発音が不明瞭になることに喩えて、何かを隠しているような言い方をすることを言い表しています。 「奥歯に物が挟まったような言い方」というような使い方をします。 「奥歯に物が引っかかったよう」はよくある誤用なので注意しましょう。 「奥歯に物が引っかかる」という慣用句はありません。
「含みを持たせる」は「ふくみをもたせる」と読みます。 「含みを持たせる」の意味は、「言葉の裏に意味をもたせること」です。 はっきりと言い切らずに可能性を残したり、相手に推測させるような言い方をすることをいいます。 「はっきりと言わない」という点で「歯に衣着せぬ」とは対義語になります。
「意味深長な言い方」は「いみしんちょうないいかた」と読みます。 「意味深長な言い方」は、「ある表現が奥深い内容をもっているさま」です。 また、隠れた特別な意味をもっているさまをいいます。 はっきりと言わず、隠されたニュアンスを含んだ言い方をすることを「意味深長な言い方」または「意味深長な発言」などといいます。 「意味深重」「意味慎重」は誤記です。
「歯に衣着せぬ」の英語には「frank」「honest」などがあります。 「frank」の意味は「率直な」です。 「honest」の意味は「正直な」です。
This magazine gives the frank opinions on sex to the teenagers.
この雑誌は10代向けにセックスに関する歯に衣着せぬ意見を述べる。
ネガティブな意味合いの「歯に衣着せぬ」の英語に近いのは「outspoken」です。 「outspoken」は相手が怒ることを心配せずに強い意見を直接的に表現する、という意味です。
She is an outspoken critic of the present government.
彼女は現政権に対する歯に衣着せぬ批評家だ。
「歯に衣着せぬ(はにきぬきせぬ)」の意味は、思っていることを包み隠さず率直に言うことです。 思ったことをずけずけと言って相手を不快な思いにさせるというマイナスな意味ではなく、率直に思っていることをはっきり伝えることができるというポジティブな意味で使用されます。 単なる毒舌である場合や無神経な発言に対しては使用しません。