「負けるが勝ち」は勝ち負けを争うような場面で、あえて負けることが結果として自分に有利な結果をもたらすということを言い表したことわざです。職場や恋愛の人間関係に対していいます。「負けるが勝ちだ」「負けるが勝ちというから」などと引用して使います。
「負けるが勝ち」は「まけるがかち」と読みます。 「負けるが勝ち」の意味は、「勝ちを譲ったほうが自分に有利になること」です。 勝ち負けを争うような場面で、あえて負けることが結果として自分に有利な結果をもたらすということを言い表したことわざです。 争い事で負けた相手が、ネガティブな感情を抱くことを防ぎ、相手を立てたほうが信頼を得られるということもあります。 相手に嫉妬させないことが、自分にとって有利な結果に結びつくという教訓です。 「負けるが勝ち」は、逆説(パラドックス)の代表例です。 「逆説」とは、真理と反対なことを言っているようで、よく考えると一種の真理を言い表している表現を指します。
「負ければ勝ち」はよくある誤用です。 「ば」は仮定を表す接続助詞です。 「負ければ勝ち」だと、「もし負けるならば、勝つことだ」という意味になってしまい、意味不明です。 「負けるが勝ち」と混同しないように注意しましょう。
「負けるが勝ち」は江戸版「いろはかるた」が出典です。 江戸版「いろはかるた」の「ま」が「負けるが勝ち」の絵札です。 「負けるが勝ち」の絵札には、股の下をくぐっている人物の様子が描かれています。 これは、「韓信(かんしん)」という中国の武将が、町の少年に「お前は背が高く、いつも剣を帯びているが、実際には臆病者に違いない。その剣で俺を刺してみろ、できないなら俺の股をくぐれ」と挑発されたときの様子を描いています。 韓信は、少年の股を黙ってくぐり、それを見ていた周囲の人は大いに笑いました。 韓信は、「ここでこの少年を斬り殺しても何の得もなく、かえって仇討ちにあう可能性がある」と考えたからこそあえて戦わず股の下をくぐる選択をしたのです。 これは「韓信のまたくぐり」という有名なエピーソードで、これが江戸のいろはかるたの「ま」になっています。 この韓信のエピソードが「負けるが勝ち」ということわざの語源になったのではないかと言われています。
主に職場や恋愛などの人間関係に対して使います。 例えば、家庭においても夫婦喧嘩で言い争いを続けるより、片方が折れて相手を立てることで夫婦関係をうまく保てることがよくあります。 納得がいかなくても人間関係をうまく保つのであれば相手を思いやり、折れることが必要です。 ビジネスにおいては企業に対しても使われます。 例えば、競合の会社と目先の小さな利益のために無理に争うことをやめたほうが、結果的に大きな利益を得られることがよくあります。 一度、負けておけば油断するので次の争いで勝ちやすくなるといった場合もあるでしょう。 「負けるが勝ち」という文言はおみくじでも書かれていることがあります。 目の前の良い結果ばかりを追い求めるのではなく、ときには一歩引いて身を守ることが良い結果につながるというその年の教えです。 スポーツやボードゲームなど勝つことが目的の事に対して使うのは不自然で、ただの負け惜しみと捉えられてしまうでしょう。
「負けるが勝ちだ」「負けるが勝ちとはこのことだ」と慣用句を使って状況説明することもできます。 「負けるが勝ちというから」「負けるが勝ちというように」「負けるが勝ちとよくいうが」などと引用して、人を説得したりすることも可能です。
例文
「負けて勝つ」の意味は「あえて負けて、最終的には自分が勝つようにもっていくこと」です。 負けたように見せかけて相手を油断させることで、最終的に自分が勝つように仕向けることをいいます。 「あえて負ける」という意味では「負けるが勝ち」の類語であるといえます。 ただし、「負けるが勝ち」と「負けて勝つ」は意味が微妙に違います。 「負けるが勝ち」の意味は「あえて負けることが有利な結果をうむことがある」です。 「負けて勝つ」は、自分が勝つための戦略を言い表す言葉であり、「負けるが勝ち」は「無意味な争いはしないほうが良い」ということを言い表す言葉です。
「逃げるが勝ち」は、「にげるがかち」と読みます。 「逃げるが勝ち」の意味は「争わずに逃げるほうが勝利に至る道である」です。 戦いを避けて逃げるほうが、正面を切って戦うよりも得策であることを言い表すことわざです。 あえて勝ちを相手に譲るという意味で「負けるが勝ち」と同義であるといえます。 「逃げれば勝ち」は誤用なので注意してください。
「損して得取れ」は「そんしてとくとれ」と読みます。 「損して得取れ」の意味は「一時は損をしても、それを基にそれ以上の利益を得るようにせよ」という意味です。 この場合の「損」は「利を失うこと」、「得」は「もうけ。利益」のことです。 「最初は損することになったとしても投資をして後の大きな利益に繋げるべきだ」ということわざで、目先の利益にこだわることを戒めて使います。
「三十六計逃げるに如かず」は「さんじゅうろっけいにげるにしかず」と読みます。 「三十六計逃げるに如かず」の意味は「困ったときは逃げるのが得策である」です。 多くのことは、形勢が不利なときは身を引き、後日再挙を期すのが最上の策であるという教えです。 「三十六計」は、中国古代の兵法にある三十六種類の計略のことです。 「三十六計逃げるが勝ち」「三十六計逃ぐるを上計となす」「三十六策走るを上計となす」「三十六計」ともいいます。 「三十六計逃げるに然り(しかり)」は誤用です。
「負けるが勝ち」を意味する英語のことわざはありません。 よって、「負けるが勝ち」を英訳する必要があります。
Sometimes you win by losing.
負けることで、勝つことがある。
Sometimes the best gain is to lose.
負けることが最大の収穫であることもある。
などでいえばよいでしょう。
イギリスの詩人ゴールドスミスの喜劇に『She scoops to conquer』というタイトルのものがあります。 これが「負けるが勝ち」と和訳されたことから、「負けるが勝ち」の英語として「scoop to conquer」が紹介される場合があります。 しかし、これは直訳すると「征服のための屈服」という意味で、日常会話で使うのは不自然なので注意しましょう。 「勝たんとて身を屈する」と和訳される場合もあります。
「負けるが勝ち」の意味は「勝ちを譲ったほうが自分に有利になること」です。 勝ち負けを争うような場面で、あえて負けることが結果として自分に有利な結果をもたらすということを言い表したことわざです。 江戸版「いろはかるた」の「ま」が「負けるが勝ち」の絵札で、「韓信のまたくぐり」という有名なエピーソードが元になっています。 「負けるが勝ち」は職場や恋愛の人間関係に対して主に使う言葉です。 類語は、「負けて勝つ」「逃げるが勝ち」などです。