「杯を交わす」の意味は「お酒をともに飲むこと」です。「お互いの仲を深めたり、信頼関係を築くためにお酒を飲むこと」を「杯を交わす」といいます。今回は「杯を交わす」の意味や語源、使い方を例文付きで紹介します。類語や対義語なども合わせて紹介しますのでぜひ参考にしてください。
「杯を交わす」は「さかずきをかわす」と読みます。 「杯」は現代仮名遣いでは「さかづき」も許容です。 もともとは「酒杯」で「さかずき」を読みましたが、現代では「杯」単体で「さかずき」と読むようになりました。 「杯を交わす」の漢字は「盃を交わす」「酒坏を交わす」とも書くことができます。 「盃」は、酒をつぐ器のことで、訓読みで「さかずき」と読みます。 「坏」は物を盛る器の名のことで、音読みで「つき」と読みます。 「酒坏」で「酒を盛る器」を意味します。
「杯を交わす」の原義は「お酒をともに飲むこと」 「杯」とは「お酒を飲む時に使う小さな器」のことです。 この場合の「交わす」は「互いに〜し合う」という意味で使用されています。 したがって、「杯を交わす」は「お互いにお酒を手に持ち一緒に飲むこと」また、「お互いにお酒を注いだり注がれたりすること」を言い表す言葉です。 お酒が入るということはお互いに無防備になるということなので、「お互いの仲を深めたり、信頼関係を築くためにお酒を飲むこと」を「杯を交わす」というようになりました。 また、「お互いに絶対に裏切らないと約束を固めるためにおなじ杯の酒を酌み交わすこと」を「杯を交わす」というようになりました。 「杯」は「杯事」の略としての意味もあります。 「杯事」の意味は「杯を交わして酒を飲むこと」また、「夫婦・親分子分・兄弟などの関係を誓って、同じ杯で酒を飲むこと」です。 「乾杯」「献杯」の「杯」も「杯事」という意味で使用されています。 「乾杯」は、祝福などの気持ちを込めていっせいに杯の酒を飲み干すこと、「献杯」は、「敬意を示して相手に杯をさすこと」です。 「杯を交わす」も「お互いに絶対に裏切らない」という契を交わすための儀式のことを言い表すことがあります。 一般的にはこの意味ではあまり使用されませんが、任侠映画などではこの意味で使用されることがあります。
「杯を交わす」の由来は、「式三献(しきさんこん)」という作法です。 「式三献」とは、酒宴の作法の一つで、客をもてなすための宴会で神仏に備え物をするときに酒を勧めて乾杯することを三度繰り返す作法のことをいいます。 昔は、武士が戦へ出陣するときに従来の約束を誓い勝利を願う儀式として行われていましたが、次第に祝事の場で行われる「三々九度」へと変化していきました。 「三々九度」は結婚式で夫婦の約束を固めるために行われる献杯の礼法です。 新郎新婦が3つ組の杯を用いて、それぞれの杯で三回ずつ合計九回の献杯をすることを「三々九度」といいます。 このように、昔からお酒を酌み交わすことで信頼関係を築き、相手に対して忠誠であることを誓っていたことから「杯を交わす」といわれるようになりました。
「杯を交わす」は、
という場面で使用されます。 例えばビジネスシーンでは、社内の人間同士や、取引先相手と心を許し信頼関係を築くために飲み会を行うという場面で「杯を交わす」といいます。 新入社員やこれから取引をする相手はもちろん、「今後も良い関係でいましょうね」という意味で「杯を交わす」ということもあります。 結婚式では、お互いが相手を裏切らないという堅い約束を守ることを誓う意味や、これからのお互いの家族の繋がりや子孫繁栄を願う儀式として「杯を交わす」という言葉を使います。 任侠映画などでいわれる「杯を交わす」は、その暴力団の組織内における子分間相互の兄弟分の関係になるという「兄弟の契」で互いに杯を交換することです。「兄弟杯」ともいいます。
例文
「杯を交わす」という言葉は一般的によく使われますが、実は辞書には載っていない慣用句です。 おそらく「酒を酌(く)み交わす」の「交わす」と「杯」が組み合わさってできた、比較的新しい表現だと思われます。 誤用ではありませんが、正式な日本語ではまだないため、公的文書などでは使用を避けた方がよいでしょう。
「飲み交わす」の意味は「一つの器を何人かで回して飲むということ」です。 「杯を交わす」は、「お互いにお酒を手に持ち一緒に飲むこと」また、「お互いにお酒を注いだり注がれたりすること」であり、一つの器の酒を飲み回すことではありません。 「飲み交わす」では、「杯を交わす」とは意味が異なってしまうので注意しましょう。
「杯をする」「杯を上げる」「杯を差す」は「杯を交わす」と同義で、「お互いにお酒を手に持ち一緒に飲むこと」また、「お互いにお酒を注いだり注がれたりすること」という意味で使用される言葉です。 「杯を上げる」はそこから転じて「慶事や人の健康を祝して、その酒をのむ。乾杯する。」という意味でも使います。
「杯を貰う」の意味は「酒席で、相手から酒をついでもらうこと」です。 また、人についでもらってお酒を飲むことを「杯をも貰う」といいます。 そこから転じて「子分になる」という意味でも使用されます。 親方の飲み干した杯をうけて飲み、親方・子方の縁を結ぶこという意味で「杯を貰う」ということができます。
「杯を返す」は、「杯を貰う」の反対で「返杯」という意味です。 「返杯」は、杯を貰った人がお酒を飲み干して、その杯を相手にかえしてお酒を注ぐことです。 また、子分が親分に対して縁を切ることを「杯を返す」といいます。
「杯を干す」「杯を傾ける」「杯を重ねる」は「酒を飲む」という意味で使用される表現です。 「杯を干す」「杯を傾ける」の「杯」は「さかずき」と読みますが、「杯を重ねる」の場合の「杯」は「はい」で、「はいをかさねる」と読むので注意しましょう。
例文
「酌み交わす」は「くみかわす」と読みます。 「酌み交わす」の意味は「互いに杯をやりとりして酒を飲むこと」です。 また、飲み会など人が集まってお酒を飲むことを「酌み交わす」といいます。 「杯を交わす」と同じようにお祝いごとや、親交を深めるためにお酒を飲むときに「酌み交わす」と言い表すことができます。 ただし、「酌み交わす」は「夫婦・親分子分・兄弟などの関係を誓って、同じ杯で酒を飲むこと」という意味はありません。
「一献を交える」は「いっこんをまじえる」と読みます。 「一献」は「お酒をのむこと」「ちょっとした酒の振る舞い」という意味のある言葉です。 本来は「一杯の酒」という意味で「一献お受けください」というように使用することもできます。 「一献を交える」で、「一緒にお酒を飲む」という意味になります。 相手に「一緒にお酒を飲みましょう」と声をかけるときに「一献交えましょう」などといいます。
「お互いに絶対に裏切らないと約束を固めるためにおなじ杯の酒を酌み交わすこと」という意味の「杯を交える」では、「契を交わす」が類語になります。 「契(ちぎり)」は「固く約束をする」という意味です。 互いに約束をすることを「契を交わす」といいます。
「縁を切る」は「えんをきる」と読みます。 「縁を切る」の意味は、「関係を絶って、他人同士になること」です。 特に、親子や夫婦、友人などそれまでの関係をなくすことを「縁を切る」といいます。 「杯を交わす」は、お酒を飲むことで相手との関係を深めることを意味して使用される言葉なので、「関係を切る」という意味の「縁を切る」は対義語になります。
「袂を分かつ」は「たもとをわかつ」と読みます。 「袂を分かつ」の意味は「別れる。絶交する。人との関係を断つこと」です。 今まで行動を共にしていた人と関わりをなくすことを表します。 例えば、喧嘩して少しの間距離を置くという場合ではなく、完全に縁を切る場合に「袂を分かつ」を使います。 「袂を分かつ」も、相手との関係を深めるのとは反対に関わりをなくすことを表す言葉なので、対義語であるといえます。
「酒を飲む」の英語は「drink」です。 「drink」は「〜を飲む」という意味の動詞ですが、単体でも「お酒を飲む」という意味になります。 「drink alcohol」などというと逆に不自然なので注意しましょう。 「get drinks」という表現もあります。