「ご多忙の中恐縮ですが(ごたぼうのなかきょうしゅくですが)」の意味は、「忙しい状態に申し訳ないのですが」です。ビジネスシーンなどで相手に依頼をするときのクッション言葉として使われます。例えば「ご多忙の中恐縮ですがご検討願います」などと使うことができます。「お忙しいところ申し訳ありませんが」などと言い換えることも可能です。
「ご多忙」は、「ごたぼう」と読みます。 「ご多忙」の意味は、「非常に忙しいこと」です。 「多忙」は「非常に忙しい」という意味です。 「多忙」についている「ご」は、尊敬を表す接頭辞です。
接頭辞「ご(お)」敬語の種類は文脈によって尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれにもなります。
「ご多忙」の「ご」は、相手が忙しいことに対してつけているので尊敬語になります。
「中」は、「なか」と読みます。 「中」には様々な意味がありますが、この場合は物事が起こっている、その状況下という意味です。 「ご多忙の中」で「忙しい状態のときに」という意味になります。
「恐縮ですが」は「きょうしゅくですが」と読みます。 「恐縮」の意味は、「身も縮こまるほどに恐れ入ること」です。 相手に迷惑をかけることを申し訳なく思ったり、相手からの恩恵をありがたく思う気持ちを表します。 「恐縮ですが」で、「申し訳なく思いますが」という意味になります。 したがって、「ご多忙の中恐縮ですが」で「忙しい状態に申し訳ないのですが」という意味になり、ビジネスシーンにおいて、依頼するときのクッション言葉として使用します。
「ご多忙の中恐縮ですが」は、ビジネスシーンの依頼のクッション言葉として使います。 クッション言葉とは、相手に何かを依頼したり、お断りをする場合などに言葉の前に添えて使用する言葉のことをいいます。 クッション言葉を使うことで間接的な表現になるので、ただ「お願いします」と一方的に依頼をするよりも丁寧で柔らかい印象を与えることができます。 主な使用場面や使い方は下記の通りです。
「ご多忙の中恐縮ですが」は、相手にメールなどの返信をしてほしいとお願いをするときに使うことができます。 返信してほしいと依頼をするときは、「ご多忙の中恐れ入りますが」の後ろに「ご返信」「ご回答」「お返事」などを続けて使います。
例文
「お願いいたします」は、「願い」に尊敬を表す接頭辞「お」をつけて、「する」の丁重語「いたす」と丁寧語「ます」をつけた敬語表現です。 丁重語とは、動作の対象ではなく聞いている相手に敬意を示す敬語表現です。 ちなみに、「いたす」は漢字で「致す」とかきますが、補助動詞で使われる場合の「いたす」は平仮名で書く決まりがあるので、「お願いいたします」の「いたす」は平仮名で書くのが正しいです。 「お願い申し上げます」は、「お願い」に、「言う」の謙譲語「申す」と敬意を表す補助動詞「上げる」、丁寧語「ます」をつけた敬語表現です。 謙譲語とは、自分の動作をへりくだることで相手に敬意を示す敬語です。 「申し上げる」は「申しあげる」と書くのが本来は正しいですが、慣例的に「申し上げる」と漢字で書くことが多いです。 「いただきたく存じます」は、「もらう」の謙譲語「いただく」に「思う」の丁重語「存ずる」と丁寧語「ます」をつけた敬語表現で、「〜してもらいたいと思う」という意味です。 「幸甚(こうじん)」は「ありがたい」という意味があり、「幸甚に存じます」で「ありがたいと思います」という意味になります。
「ご多忙の中恐縮ですが」は、上司や取引先の相手に何かを提案するなどして、検討をしてほしいとお願いをする場面でも使うことができます。 検討をお願いする場合は、「ご多忙の中恐縮ですが」の後ろに「ご検討」「お取り計らい」「ご一考(ごいっこう)」などを続けて使います。 「お取り計らい」は、物事が上手くいくように便宜を計り対処することという意味です。 「ご一考」は、よく調べて一度考えてみることという意味です。 場合によっては「ご考慮」や「ご思案」も使うことがかできます。 「ご考慮」と「ご思案」は、よく考えることという意味です。
例文
「何卒よろしくお願いします」の「何卒」は「どうぞ」の硬い表現です。 「何卒」を使うことで、文章が改まった印象になります。 「〜のほどよろしくお願いします」の「〜のほど」には、「〜してくれるよう」という意味があり、相手に強制することのない丁寧で柔らかい表現になります。 「いただければと存じます」は、「もらう」の謙譲語「いただく」に仮定の接続詞「れば」と「思う」の丁重語「存ずる」に丁寧語「ます」をつけた敬語表現です。 「〜してもらえたら嬉しいと思う」という願望を表す丁寧な言い回しです。
目上の人や取引先の相手に会議や懇親会などに出席してもらいたいと依頼をするときは、「ご多忙の中恐縮ですが」に、「ご出席」「ご参加」を続けて使います。 身分の高い人に対しては「ご臨席(りんせき)」「ご光臨(ごこうりん)」を使うこともできます。 「ご臨席」は、身分の高い人が会合・式典に出席することです。 「ご光臨」は、相手が訪ねることを敬っていう語です。 ちなみに、「参列」にも「出席する」という意味がありますが、「参列」は呼ばれた参加者が主催者に対して使う言葉なので「ご参列いただきたい」などと使うことはできません。
例文
目上の人や取引先の相手に資料や、送ったメールなどの確認をしてほしいとお願いをするときは、「ご多忙の中恐縮ですが」の後ろに、「ご確認」「お確かめになる」などを続けます。 「ご確認」の基本的な使い方は「ご確認ください」です。 「ご確認してください」は誤用なので注意してください。
例文
「ご確認くださいますよう」の「ますよう」は、「〜のほど」と同じように丁寧にかつ柔らかいニュアンスでお願いをする敬語表現です。
質問に答えてほしい場合や、トラブルが起きて対応をお願いしたいという場合は、「ご多忙の中恐縮ですが」に「ご対応」を続けます。 「ご対応」は「対応」に尊敬を表す接頭辞「ご」をつけた言葉です。 「ご対応方(ごたいおうかた)」という言葉を使うこともできます。 「ご対応方」は、「対応のほう」という意味になります。
例文
目上の相手や取引先の相手に、荷物や書類などを送ったときに受け取ってほしいとお願いをするときは、「ご多忙の中恐縮ですが」の後ろに「お受け取り」「ご査収(ごさしゅう)」を続けます。 「ご査収」は、「査収」に尊敬を表す接頭辞「ご」をつけた言葉で、物品・書類・金額などをよく調べて受け取ることという意味です。 単に”受け取ってください”という意味ではなく、「しっかり内容を確認したり、理解してください」という意味で使われます。 相手から注文を受けて商品を発送したという場合は「ご検収(ごけんしゅう)」を使うこともできます。 「ご検収」の意味は、納品されたしなが注文通りであることを確かめた上で受け取ることです。
例文
目上の人や取引先の相手などに、何かを送ってほしいと依頼をする場合は「ご多忙の中恐縮ですが」に「ご送付」「お送り」を続けます。 荷物などを郵送してほしいという場合は「ご郵送」を使います。 また、メールなどと送ってほしい場合や、資料を添付して送ってほしいという場合は「送信」「添付」を使います。
例文
目上の相手や取引先の相手に何かを教えてほしいと依頼をするときは、「お教え」「ご教示(ごきょうじ)」「ご教授(ごきょうじゅ)」を続けて使います。 「ご教示」は「教示」に尊敬を表す接頭辞「ご」をつけた言葉で、知識や方法などを教え示すことという意味です。 学術や芸術といった楽器やスポーツなどの長期間に渡って、訓練や鍛練が必要なものを継続的に教えて欲しいと依頼をする場合には「ご教授」を使います。 また、「ご指導」を使うことも可能です。 「ご指導」は、「指導」に尊敬を表す接頭辞「ご」をつけた言葉で、「ある目的に向かって教え導く」という意味になります。
例文
「ご教示賜りますよう」の「賜りますよう」は、「〜してもらう」の謙譲語です。 「よう」には断定をやわらげる意味があり、「たまわりますよう〜」は「〜してください」とお願いをするよりも柔らかい表現になります。 「賜れますよう」は誤用です。 「幸甚の至り(こうじんのいたり)」は、「非常に幸いなこと」という意味です。 そうしてくれたらこの上なく幸せですという気持ちを表すかなり硬い表現です。
目上の相手や取引先の相手に資料など渡したものを見てほしいと依頼をするときは、「ご多忙の中恐縮ですが」の後ろに「ご一読」や「お目通し」を続けて使います。 「ご一読」は、「一読」に尊敬を表す接頭辞「ご」をつけた言葉で、一度読む・さっと読むという意味です。 「お目通し」は、「目通し」に尊敬を表す接頭辞「お」をつけた言葉で、全体的に目を通すという意味です。 また「ご参照(ごさんしょう)」を使うこともできます。 「ご参照」は、資料などを参考のために見ておいてもらいたいと伝える場面に適しています。 「ご高覧(ごこうらん)」を使うとより硬くなります。 「ご高覧」は、「他人が見ること」を意味する尊敬語です。
例文
【件名】 募集職種についてのお問い合わせ 【本文】 アイウエオ株式会社 ご採用担当者様 突然のご連連絡失礼いたします。 現在○○大学経済学部経営学科の斎藤と申します。 貴社の採用情報を拝見しご連絡させていただきました。 技術開発職を募集とのことですが、応募をする際に必須の資格などはあるでしょうか。 ご多忙の中恐縮ですが、ご回答いただけますと幸いです。 〒123−4444 東京都○○区○○1234 電話番号:090−1111−2222 メールアドレス:chikuwa@chikuwa.com 斎藤一代
「忙しい」は、急いでしなくてはならない事に追われている、する事が多くて休む暇もないという意味です。 「ところ」は、時間的な位置を指し、そのような場面・状況・事態という意味です。 よって「お忙しいところ申し訳ありませんが」で「忙しい状態にすみませんが」という意味のクッション言葉になり、もっとも一般的に使われます。 「ところ」を「中」に変えて「お忙しい中申し訳ありませんが」としても意味は同じです。
「多用」は「多忙」の類語です。 「多用」の意味は、用事が多くて忙しいことです。 「多用」より「多忙」の方が忙しさの度合いが高いですが、特に使い分ける必要はありません。 「恐れ入りますが」は、「恐れ入る」に丁寧語の「ます」と逆説の接続詞「が」をつけた言葉です。 「恐れ入る」は、相手にたいして申し訳なく恐縮している気持ちを表す言葉です。 「ご多用の中恐れ入りますが」で、「忙しい状態に迷惑をかけて申し訳ないですが」という意味のクッション言葉になります。
「お急ぎところ恐縮ですが」は、「急いでいる状態にすみませんが」という意味です。 「急ぐ」の意味は、「早く目的を達するように行動すること」です。 相手が急いでいる状態に時間を割かせたり労力を使わせてしまうことに対して詫びる気持ちをあらわすクッション言葉です。
「お手数ですが(おてすうですが)」は、「手間をかけさせてしまうけど...」という意味です。 「お手数ですが」で、忙しい状態なのに手間をかけさせてしまう相手に対する申し訳ない気持ちを表すクッション言葉として使われます。 「ご多忙のところお手数ですが」などと使うこともできますが、「お手数ですが」にすでに忙しい状態に迷惑をかけてしまうというニュアンスが含まれています。
ビジネスシーンで同じ言葉を何度も繰り返し使用するとしつこくなり、相手に不快な思いをさせてしまう場合があるので注意しましょう。 上記で紹介した言い換え表現を使用したり、親しくなったら使用するのをやめるなどして対応しましょう。
「ご多忙の中恐縮ですが」は社交辞令に近く、謙遜する気持ちを表現するものです。 相手が実際には忙しくなく暇な場合でも「ご多忙の中恐縮ですが」という表現は使うことができます。
「ご多忙の中恐縮ですが」は、上述したように相手が忙しくても忙しくなくても使うことができます。 しかし、明らかに相手に時間の余裕がある場合は、「ご多忙の中恐縮ですが」と言うと嫌味に聞こえます。 そのような場面では使用するのはやめましょう。
「ご多忙の中恐縮ですが」は時間的に余裕がない相手を配慮した表現です。 そのような相手にあまりにも時間がかかることを要求するのは矛盾しています。 よって、「ご多忙の中恐縮ですが」の後に何か依頼する場合は、あまり手間のかからない内容にするのがマナーです。
「ご多忙」の「忙」は「心」を「亡くす」と書く漢字で、「亡くなる」という漢字が含まれていることから、忌み言葉とされます。 忌み言葉は縁起の悪さを連想させるとして敬遠される言葉で、結婚式・出産・お見舞いといった場面では使用することを避けるべきとされています。 ビジネスシーンでの使い分けは必要ないとされていますが、結婚式・年賀状などでは「ご多忙」や「お忙しい中」ではなく「ご多用」を使うようにしましょう。