ビジネスシーンでよく使う謙譲語の「致します」「いたします」。ひらがなと漢字に何の違いがあるのでしょうか? 今回はその「いたします」と「致します」の正しい意味と使い方、2つの使い分けを例文付きで解説していきます。 また同じようにビジネスシーンで使う「お願いいたします」と「お願い申し上げます」の違いも解説します。 敬語表現をしっかりマスターし立派なビジネスパーソンを目指しましょう!
ビジネスシーンでよく使われている「いたします」は、「する」の謙譲語「いたす」の語尾に丁寧語の「ます」が付いた言葉です。 謙譲語にさらに丁寧語がついた「いたします」は、相手への敬意を払う表現となります。 「〜します」「〜させてもらいます」「〜させていただきます」と自ら率先して相手のために何かをする、という意味合いが含まれています。 そのため目上の人や取引先などビジネスシーンなど、相手に敬意を払う場面で使います。 主に、「いたします」を漢字の熟語の後に置くことで、丁寧な表現を作ることができます。また敬意や丁寧さを表す「御」を冠した言葉と組み合わせることで、さらに敬意や丁寧さを表現することもできます。
◯漢字熟語と組み合わせる例
◯「御(お)」を冠した言葉と組み合わさる例
「いたします」はひらがな表記の場合と「致します」のように漢字表記の2通りを見たことがあると思います。 「いたします(=いたす)」のひらがな表記は「補助動詞」であり、「致します(=致す)」の漢字表記は通常の動詞となっています。 他の動詞と付属して使用する補助動詞の「いたす」はひらがな表記で書くという決まりがあります そのため、ビジネスシーンで最も使用する「よろしくお願いいたします」の「いたします」は、「お願いする」という動詞の補助動詞になるため、ひらがな表記の「いたします」が正しい書き方です。 ◯「よろしくお願いいたします」 ✗ 「よろしくお願い致します」 一方で、漢字表記の「致す」は単体でも使える通常の動詞であり、 <1>「そこまで到達するようにする、至らせる」 <2>「する」を丁寧に荘重にいう語 という2つの意味を持っています。 主に、2つ目の意味で使われることが多くなっています。
ちなみに…「いたす」以外でも「補助動詞」は通常ひらがな表記する、という決まりがあります。 例えば
など、様々な例があげられます。 これらの補助動詞も全てひらがな表記するのが原則です。
ビジネスシーンでの「いたします」を使った例文をいくつか紹介します。 ひらがな表記の「いたします」は補助動詞として使いますので、色々な動詞と組み合わせて丁寧な表記を作ることができます。 注意点としては、「いたします」の「いたす」は謙譲語なので、相手の行動に対しては使うことができません。自分の言動を謙って表現するときに使用します。
「ご迷惑をお掛けいたしましたが、来月より出社いたします」 「ご迷惑をお掛けし大変恐縮ではございますが、何卒よろしくお願いいたします」 「それでは後ほどお電話いたします」 「明日4月1日より、貴社のウェブサイトのシステム開発を実施いたします」 「当日の資料は弊社で用意いたします」 「来月のセミナー弊社より3人で参加いたします」 「私は彼の意見に賛同いたします」
前述の通り、漢字表記の「致す」は補助動詞でなく通常の動詞であり、 <1>「そこまで到達するようにする、至らせる」 <2>「する」を丁寧に荘重にいう語 という意味があります。 それでは「致す」「致します」を使った例文を見ていきましょう。
<1>の意味の例文 「いつも激励の言葉をくれていた前部長に思いを致す」 「自分自身のことでいっぱいいっぱいで、他のことに思いを致す余裕がなかった」 「私の不徳の致すところであり、ご迷惑をかけ反省しております」 <2>の意味の例文 「台所から、甘くて美味しそうな匂いが致します」 「今後も努力を致す所存でございます」 「当日の準備は一切こちらで致します」
例えば
この2つのフレーズのどちらが正しいのでしょうか? 正解は、どちらも正しい表記なのですが、ニュアンスに違いがあります。 「させていただきます」は相手が賛同してくれることを前提に相手から許可をもらう表現になります。「してもいいですか?」のように直接的にYes/Noで答えてもらう許可の確認ではありません。 一方、「いたします」は上記で述べたように謙譲語+丁寧語です。 ですから「させていただきます」の方がより丁寧な表現になります。
「させていただきます」を使った例文 「本日体調不良のため欠席させていただきます」 「後ほどメールさせていただきます」 「それではご案内させていただきます」
注意点としては、「させていただきます」はとても丁寧な表現ですので、過度な敬語表現と思い違和感を感じる人もいることです。多用はさけて、シチュエーションごとに「いたします」と「させていただきます」を使い分けることをおすすめします。
「申し上げます」は「言う」の謙譲語「申す」に補助動詞「上げる」と丁寧語「ます」が付随した形になっています。(「申し上げる」で1つの複合動詞とする見方もある。そのため「上げる」は補助動詞とも取れるが漢字が使われている) 「いたします」も謙譲語+丁寧語です。 相手に頼み事をする時は「お願いいたします」の方が印象がいいです。 「申し上げる」という表現は、フレーズが聞き手である相手にかかるニュアンスが強いためです。聞き手にかかるというのは、「申し上げる」という言葉が申し上げる対象である聞き手を連想させるということです。ですから、あまり聞き手を連想させず話者である本人にかかる「いたします」の方がより謙虚なニュアンスが強いと言えます。
◯「いたします」(ひらがな表記)
◯「致します」
しっかりと理解し、正しく使うよう心がけましょう!
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