「一任する」は「すべてを任せる」という意味の言葉です。「一任を取り付ける」「一任を受ける」「社長一任」などの形で、主にビジネスシーンで使用されます。
「一任する」の意味は「すべてをまかせる」「すっかりまかせる」です。 「一任する」は「権限をゆだねる」というニュアンスがあるので、目上の人が目下の者に対して「一任する」という文脈で使われることが多いです。 「社長にこの仕事は一任します」とした場合、主語が目下の存在である自分であるため、上から目線な響きがあり失礼にあたります。 ただし「この仕事は社長に一任された」と受動態で表せば、問題ありません。 また「一任」は「一つの任期」という意味で使うこともあります。
「全てを一任する」は重言(じゅうげん)です。 「重言」とは「頭痛が痛い」「今現在」のように、同じ意味の言葉を重ねている表現のことで、「二重表現」と同義です。 「重言」は強調するためにあえて使用されることもあり、必ずしも誤用とは限りませんが、「全てを一任する」は「一任」にも「すべて」という意味があるので重言にあたります。
「委任」の意味は「ゆだね、まかせる」です。 仕事や業務、物事の処理など一定の行為を人に依頼して任せることを「委任」といいます。 例えば、「自分の代わりに市役所にいって住民票をとってきてほしい」とお願いをするのは「委任」です。 よって、「一任する」は「すべてを任せる」という意味なので、「委任する」よりも意味が広いです。
「一任する」の尊敬語は「一任なさる」「一任される」です。 尊敬語は、相手のことを高めて表現することで相手に敬意を示す敬語表現です。 「一任なさる」の「なさる」は「する」の尊敬語です。 「一任される」の「される」は「する」の未然形+助動詞の「れる」がついた言葉です。 「れる」は「尊敬」の意味があり目上の人の動作を表すときに使用することができます。 「一任してくださる」は、目上の人に何か任せてもらったことを言い表します。 「一任してくださる」の「くださる」は「〜してくれる」の尊敬語です。
例文
上述した通り、目下の存在である自分が目上の人に対して「一任する」のは意味的に不自然です。 よって、自分をへりくだり動作の対象を高める謙譲語と「一任する」を一緒に使う場面は限定的です。 「一任させていただく」の意味は「一任させてもらう」です。 「させていただく」は、謙譲語+許可なので、相手から許可を得てから使う文言です。 文化庁は「基本的に他者の許可を得た上で、自分が行うことについて、その恩恵を受けることに対して敬意を払っている場合」に使うのが適切であるとしています。 したがって、「一任させていただく」は問題ありません。 「一任していただく」の形でも使うことができます。 「一任していただく」は、自分で一任してもらったことを謙譲語を使用することてへりくだって表現しています。 「一任いたす」は謙譲語の一種ですが、厳密には丁重語です。 丁重語とは動作の対象ではなく話を聞いている相手に敬意を示すために使用されます。 例えば、社長がある仕事を部下に一任することを外部の取引先に話す時などに使われます。 社長にとって部下は目下の存在なので「一任」という言葉を使うのは正しく、社長にとっても外部の取引先は目上の存在なので丁重語を使うのも正しい、ということになります。
例文
「一任する」の丁寧語は「一任します」です。 「一任します」は「一任する」に丁寧語の「ます」をつけています。 丁寧語は「です」「ます」を文末につけることで文章全体を丁寧にする敬語表現です。 ただし、丁寧語は相手に対して敬意を示すことはできません。 目上の人など敬意を示すべき相手に使用する場合は尊敬語や謙譲語を使用しましょう。
例文
「一任」はビジネスシーンでは「一任を取り付ける」「一任を受ける」という形で使用されます。 「一任を取り付ける」の「取り付ける」は「自分の思う通りに成立させる」という意味です。 「自分に任せてほしい」と強く思っていることを任されたことを「一任を取り付ける」と言い表すことができます。 「○○さんが一任を取り付けた」という使い方をします。 「一任を受ける」の「受ける」は「自分に向けられた行為をしっかりうけとめる・応える」という意味です。 「一任を受ける」は「すべてを任せてもらう」という意味になります。 「あなたに任せたい」という気持ちに応えることを「一任を受ける」といいます。 例えば「社長から一任を受ける」という使い方をします。 「一任される」という表現も使われます。 「一任される」は尊敬語として上ですでに紹介しましたが、助動詞「れる」には受身の意味もあります。 その場合「一任される」は「全てを任せれる」という意味になり、自分が任せてもらうことを言い表す表現になります。
例文
「一任」は「○○一任」という形でも使用されます。 例えば、「首相一任による決定」「議長一任を求める」という使い方です。 「首相一任による決定」は「すべてを任されている首相によって決定される」という意味です。 意見が割れてなかなか決まらないときなど、どんなに複数の意見があっても、一任されている人が決定権をもち最終的に決断を出すことがあります。 そういう場合に「○○一任」と言い表すことができます。 「議長一任を求める」は「議長にすべて任せることを望む」という意味です。
「一任」は、「投資一委任業務」「一任勘定」など金融業界でも使用されます。 「投資一任業務」は、顧客のおおまかな指示にしたがって証券会社が独自のノウハウで資産を運用することです。 投資についての判断など全てを任せられて業務を行うことなので「一任」という言葉が使用されています。 「一任勘定」は株式など有価証券を販売する際に、顧客が取引をする銘柄・数量・価格の判断などすべてを証券会社に任せることです。
「任せる」は「自分のすべきことを人に代行してもらうこと」です。 また、権限などを人にゆだねてその人の思いのままにさせることを「任せる」といいます。 「お任せする」は「任せる」に尊敬を表す接頭語の「お」をつけた言葉です。 「一任」は絶対的な信頼をおいて相手に委ねる場合に使用される言葉です。 「お任せする」は、自分で考えたり行動するのが面倒で相手にすべてを丸投げするというニュアンスで使用されることもある言葉です。
「委託」は「物事を人に頼んで任せること」です。 例えば、注文を受けた商品を梱包する作業を別の会社にお願いをすることを「委託」といいます。 決定権などすべてをゆだねるわけではありませんが、「任せる」という点においては「一任」の類語であるといえます。
「投げる」は、「すべきことを途中で放棄する・投げ出す」という意味です。 「仕事を部下に投げる」は、自分のすべき仕事を放棄して部下に任せるという意味になります。 「丸投げする」という表現をすることもできます。 「託する」は、「自分のちからではできないことを他に頼み任せる」という意味です。 例えば「子育てを祖父に託する」は、自分が子育てをすることができないから、祖父に子育てを任せるという意味になります。 「付託する」は「物事の処置などを他に委ねること」です。 特に議会で本会議に先立って、議案などの審査を他の機関に委ねることを「付託」といいます。 「頼む」は「あることをしてほしいと相手に願うこと」「依頼をすること」です。 相手を全面的に信頼して相手の意のままに任せるという意味で「頼む」という言葉を使用します。
「任せる」を意味する最も一般的な英語は「leave」です。 「leave A to B」で「AをBさんに任せる」という意味になります。 「すべて」を意味する副詞「entirely」などと併用すれば「一任」というニュアンスになります。 「leave」より堅い言葉に「entrust」があります。 これも「任せる」という意味です。
I'll leave this entirely to you.
この件は君に一任しよう。
I leave everything to you.
あなたに一任する。
My wife is entrusted with the accounting in my company.
妻は私の会社の経理を一任されている。
「give full authority」だと「すべての権限を渡す」という意味になり、「一任」の英訳として使えます。
She has been given full authority over recruitment in the company.
当社の採用は彼女に一任されている。
「let+人+動詞」で「人に〜される」という意味です。 使役動詞「let」を使って、「一任する」を表現することもできます。
I'll let you manage the inventory.
在庫管理は君に一任する。