「致す」という言葉をご存知でしょうか?「致す」は「する」の謙譲語というイメージが強いですが、意味は他にもあります。「致す」はビジネスシーンでよく使われる言葉のため、しっかり理解して使うことで、印象がグッと上がります。そこで今回は「致す」の意味や使い方、「致す」と「いたす」の使い分けについて解説していきます。正しい意味を知って「致す」を使いこなせるようにしましょう。
「致す」の意味は、
となります。 「引き起こす」という意味では、「致し方ない」「不徳の致すところ」という言葉があるように、良くない結果になってしまった時に使います。
「致す」は「する」の謙譲語です。 謙譲語は、自分の動作をへりくだって表現するので目上の相手に敬意を示します。
「致す」を「する」の謙譲語として使う場合は、「いたします」という形で用います。 例としては、「拝見いたします」「参加いたします」「失礼いたします」などが挙げられます。 「致す」を動詞として使用する場合は、「◯◯を致す」という形で用います。
例文
メールや手紙を書く際に「致す」と漢字で表記するのか、「いたす」とひらがなで表記するのか迷ったことはありませんか? 「致す」と漢字表記にする際はそれ自身が動詞になる場合。「至らせる・及ぼす・届ける・引き寄せる・仕向ける・尽くす」という意味で使うときは「致す」にします。 「いたす」とひらがな表記にする際は補助動詞になる場合。「お願いいたします・勉強いたします・失礼いたします」といったように使うときは「いたす」にします。 公用文では補助動詞を使う場合は、ひらがなで表記することが定められています。 ”公用文”とは国や公共団体から出される文や法令に使われる文章のことを指します。 動詞は漢字表記、補助動詞は平仮名表記と覚えておきましょう。
「どういたしますか」「どちらにいたしますか」などと言ってしまいそうですが、これは間違いです。 「いたす」は謙譲語のため、相手が行うことに対しては使うことができません。 「する」の尊敬語は「なさる」になります。「外出なさる」「お大事になさる」「お食事なさる」といったように、相手の行動に「なさる」を使うことによって、敬意を表すことができます。 また、「なさる」の他には「される」という尊敬語もあります。「どうされますか」などと使うことで、目上の人への敬意を示せます。 「いたす」は”自分がすること”に使うと覚えておきましょう。
(正)忘れ物などなさいませんように、お気をつけください。
(正)これから戻りますが◯◯さんもご一緒なさいますか。
(正)アイスとホットのどちらになさいますか。
「いたす」は「する」の謙譲語としてだけではなく、丁寧語として使うこともできます。 ”丁寧語”は、上品に喋りたいときに使う改まった言葉遣いを表します。 使い方としては「いたします」の形で用います。
例文
「申し上げる」は「言う」の謙譲語です。 「いたします」と「申し上げます」に違いはあるのでしょうか? 「いたします」と「申し上げます」の違いは何か?という質問は、「する」と「言う」の違いは何か?という質問に等しいです。 例えば「感謝いたします」と「感謝申し上げます」とする場合。 「感謝する」のと「感謝を言う」に違いはあるのか?と言われると....ないですよね。 「言う」という表現は "聞いてる人がいるのが前提 "で、「する」は相手がしてもいなくても可能なので、「お願いをする」の方が語感的に謙虚だと主張する人もいます。 しかし「いたします」と「申し上げます」の意味に大きな違いはない、と考えるのが自然です。 ただ「申し上げます」は日常会話では使用頻度が低い言葉なので、よりフォーマルな響きがあるのは事実です。 ビジネスシーンで立場が上の人に対しては「申し上げます」と言う方が適切でしょう。ただ目上の人でも親しい間柄の相手には「いたします」の方がむしろ自然で、「申し上げます」と言うと少し堅苦しい印象があります。
「至る」の意味は、
となります。 「至る」は、「ある目的地・場所に到着する」という意味や「ある時間・時点になる」、「ある段階・状態になる」ことを意味します。「至る」は”目的に到達した”というニュアンスになります。 「理解に至る」「頂上に至る」などと使います。 一方で「致す」は「そこまで達するようにする」ことを意味します。 「致す」は、”まだ目的には到達はしていないが、到達するように努力する”というニュアンスになります。 「致す」と「至る」は文字が似ているため迷ってしまいますが、意味は異なるので間違わないように注意しましょう。
最近Twitter上では、オタクの人たちの中で「◯◯を致す」という言葉が流行っているそうです。 本来「致す」は、「感謝いたします」「お願いいたします」などと「する」の謙譲語として使います。 Twitter上で流行っている「◯◯を致す」は、「性行為を致す」「自慰行為を致す」ということになります。 この場合の「致す」は「する」の謙譲語と言うよりも、「全力で事を行う」という意味の方が近いです。 何をしたか直接的に言うのは恥ずかしいため、「致す」を使うことで上手く紛らわせています。 使い方としては、「致す」「(キャラクター名)で致した」「致したので睡眠」といったようになります。
「致す」の類語は非常にたくさんあります。 「致す」の他に「する」の謙譲語はありませんが、類語の中でもよく使われる言葉について紹介します。
「させていただく」は、使役の助動詞「させて」+「もらう」の謙譲語「いただく」で成り立っています。 「させていただく」は、「相手に許可を得て、ある行為を遠慮しながらすること」を意味します。 「させていただく」は、
の2つの条件を満たすときに使用するのが正しい使い方になります。 「させていただく」は、「図々しくて申し訳ないが、相手が許可してくれたから〜する」という意味合いになります。 例えば、相手の資料をコピーしたい時に「その資料、コピーを取らせていただきますか」という場合。これは相手にコピーして良いか確認してからその後行動に移しているため適切な使い方になります。
例文
「行う」の意味は、
となります。 「行う」は”ある動作や行動をすること”を表します。 「行う」は敬語ではありませんが、少々改まった表現になります。
例文
「為す(なす)」の意味は、
となります。 「為す」は「致す」と同様に「する」という意味があります。 「為す」は主に、慣用句的に使われる堅い言い回しです。
例文
「致す」について理解できたでしょうか? ✔︎「致す」には「する」の謙譲語以外にも、「至らせる」「仕向ける」などといった意味がある ✔︎「致す」はそれ自身が動詞になる場合は漢字表記、補助動詞として使う場合はひらがな表記にする ✔︎「いたす」は「する」の謙譲語、「なさる」は「する」の尊敬語 ✔︎「致す」の類語には、「させていただく」「行う」などがある