「失念しておりました」は「うっかり忘れていた」を意味する敬語表現です。「失念」は「どわすれ」を意味する堅い語で相手に誠実な印象を与えることができ、ビジネスシーンでよく使用されます。「おりました」の「おる」は丁重語(謙譲語の一種)で、聞き手に対して敬意を示すものです。
「失念」の読み方はしつねんです。 「失」の訓読みは「なくす」「うしなう」で、音読みで「シツ」です。 「念」の訓読みは「おもう」で、音読みで「ネン」です。
「失念」は「うっかり忘れること」「ど忘れ」「物忘れ」を意味します。 「失念」は「覚えているはずのことをうっかり忘れる」というニュアンスになります。 あくまでも「忘れた」という意味のため、「知らなかった」という意味では使いません。
「失念」は、元々は仏教用語で「正念を失う」という意味です。 「正念」というのは「正気・本心」を表しています。 「失念」は”仏教が教える煩悩のひとつ”で、「物忘れ・気づきを失った心であり、仏法の理論や仏法の言葉を忘れたりすること。また、心を散乱させてしまうこと」を意味しています。 「失念」は、「心の奥にあった大事なことを失う」という意味から転じて「忘れる」という意味になりました。
「失念」は、自分が「忘れてしまった」ということをへりくだっていう言葉です。 したがって、「失念」は自分の行為をへりくだることで相手に敬意を示す謙譲語であるといえます。
「失念しておりました」を品詞分解すると「失念」+「して」+「おる」+「ました」となります。 「失念」は「忘れる」の謙譲語です。 「おる」は「いる」の丁重語です。 「ました」は丁寧語です。 したがって、「失念しておりました」は謙譲語+丁重語+丁寧語の正しい敬語表現であるといえます。 二重敬語とは、一つの語に同じ種類の敬語を重ねて使用してしまうことです。
「すっかり失念しておりました」は二重表現で誤用です。 「二重表現」とは、同じ意味の言葉を重ねて使用してしまうことをいいます。 例えば、「頭痛が痛い」などです。 「失念」の意味は「うっかり忘れること」なので、「すっかり」をつけてしまうと二重表現になってしまいます。
「失念しておりました」は、忘れてしまったことを謝罪するときに使用します。 例えば、
といった場面です。 「失念」を使うことで、”うっかり忘れてしまった”という軽率さを詫び、謝罪の意を丁寧に表すことができます。
例文
「失念しておりました」と謝罪をされたときの返信は「お気になさらず」が良いでしょう。 相手はうっかり忘れてしまっていたことを気にして謝罪をしているわけですから、「気にしなくて良いですよ」と伝えます。 特に目上の人や社外の人に対して「今度からこのようなことがないように...」「今後は〜していただきたい」など上から目線な発言をしてしまわないように注意しましょう。 相手が忘れてしまったということに対して「こちらこそ配慮が足りず...」と自分にも非があることを伝えても印象が良いでしょう。
上述したように「失念」は「忘れた」の謙譲語です。 謙譲語とは、自分の行為をへりくだることで相手に敬意を示す敬語表現です。 したがって、自分自身が「忘れた」と伝える時にしか使用することはできません。 例えば、「部長が失念しており...」など自分以外が忘れたという場合に使用するのは誤用なので注意しましょう。 目上の人が「忘れた」という場合は、尊敬語を使用した「お忘れになる」が正しいです。
「失念」は、忘れ物に対しては使用することができません。 例えば、「傘を持ってくるのを失念しました」といった使い方は誤用です。 「〜することを忘れた」という行動に対して使うことができます。
当たり前ですが「失念」は、最初から知らないことには使用できません。 「失念」は、持っていた情報を忘れてしまうことをいいます。 「知らない」ということは最初から何も情報をもっていなかったということです。 なので、「最初から知らなかった」という状態なのであれば「失念」ではなく「存じ上げませんでした」などが正しいです。
「放念」は「ほうねん」と読みます。 「放念」の意味は「気にかけないこと、心配しないこと」です。 「放念」は「気にしない、受け流す」といった意味のため、「放念する」「放念します」と使えると思ってしまいますが、実はこれは誤った使い方となります。 「放念する」でも意味としては間違っていませんが、ビジネスシーンでは「放念」は相手の動作に対して使う表現です。 例えば、社内の目上の人に急いでいて誤ってメールを送ってしまったときに、「先ほどのメールは誤って送ってしまったものです。どうぞご放念ください」などと使います。
例文
「忘却」は「ぼうきゃく」と読みます。 「忘却」の意味は「忘れてしまうこと、すっかり忘れて思い出せないこと」です。 以前覚えていたことを、すっかり忘れてしまうことを表します。少しだけ思い出せる、一時的に忘れてしまったということではなく、完全に忘れてしまうことが「忘却」です。
例文
「失念」の英語で直訳すると
I'm sorry. I've forgotten about that.
申し訳ありません。忘れていました。
となりますが、「forget」だと、とても無責任な響きがあるので、
I'm terribly sorry. I've made a mistake.
のように「mistake」を使用した方がビジネスメールではよいでしょう。