「劈く」は「つんざく」と読み、「強い力で引き裂く」という意味です。「耳に劈くような」で大きな音を形容する時に使います。「劈く」のさらに詳しい使い方や語源、類語、英語表現を例文付きで詳しく解説していきます。
「劈く」の意味は「強い力で破る。激しく引き裂く」です。 「劈」の漢字を分解すると「辟」+「刀」です。 「辟」は「人をひきさく罰」という意味です。 「刀」はひきさく手段である「かたな」を表しています。 「劈」という漢字の原義は「刀で人をひきさく」です。 「辟」を使った熟語には「辟易」があります。
「劈く」は「つんざく」と読みます。 「劈」は訓読みで「つんざく」、音読みで「ヘキ」と読みます。 「劈」を使った熟語には「劈砕(ヘキサイ)」「劈頭(ヘキトウ)」「劈開(ヘキカイ)」などがあります。 「劈砕」は同じ意味の漢字が2つ重なっており、「粉々にわりくだく」という意味です。 「劈頭」は「頭部で一撃する」という意から転じて「まっさき。第一番。最初」という意味になります。 「劈開」は「ひびがはいって割れる」という意味です。 どれも日常会話では使わないものばかりです。
「つんざく」の漢字は「擘く」が当てられる場合もあります。 「擘く」は「さく」と読む場合もあります。しかし「さく」の漢字は「裂く」が一般的です。 「劈」と「擘」の違いは、漢字の下部です。 「刀」と「手」で、きりさく手段の違いがあります。 しかし、漢字自体の意味に違いはありません。
「劈く」は「ひらく」と読む場合もあります。 しかし「ひらく」の漢字に「劈く」を当て字で、正式な訓読みではありません。 「劈く」の漢字を当てる「ひらく」は、「戸をひらく」などの「ひらく」ではありません。 「包丁で魚をひらく」の「ひらく」であり、「きりひらく」「さばく」の意味をもつ「ひらく」です。
「つんざく」という言葉の語源は和語「つみさく」だと言われています。 「つみさく」が音便化し「つんざく」です。 「つみさく」とは「爪先を用いて植物などを裂き分かつ」を意味します。 「つみさく」とは「爪先(つめさき)」が変化したものと言われています。
「劈く」は「耳を劈く」の形で最もよく使われます。 「耳を劈く」とは「鼓膜が破れるほど大きな音や声」を表した表現です。 比喩言葉を用いて、
などの形でも使われます。 ちなみに「耳を劈く爆音」は二重表現にはあたりません。 「耳を劈く」で「大きな」を意味するので「爆」と意味が重複する気もしますが、 「耳を劈く」は比喩表現なので、「耳を劈く爆音」で「鼓膜がやぶれるくらい大きな爆音」となり、正しい表現といえます。
例文
「耳を劈く」以外にも
などの表現があります。 「大気を劈く」「空気を劈く」「空を劈く」「虚空を劈く」はどれも「耳を劈く」と同じく大きな音を形容するときに使います。 「闇を劈く」は大きな音以外にも強い光に対しても使うことができます。 「胸を劈く」はあまり一般的な表現ではありません。 「強いショックを受ける様子」を表したものですが、その意味では「胸を衝く(むねをつく)」の方が一般的です。 ちなみに「胸をつつく」は誤用です。 「膚を劈く(はだをつんざく)」は厳しい寒さに対して使います。「膚を劈く酷寒(こっかん)」が定型句です。 これは小説などで使われる詩的な響きのある言い回しです。 「鼻を劈く」は悪臭を表すときに時折見聞きする表現です。 しかし「劈く」を匂いに対して使うのは正式な用法ではありません。 耳に使えるのだから鼻にも使えるだろう、という考え方で誰かが始めた使い方です。 正式な文章では使わないようにしましょう。
例文
「劈く」の目的語を食べ物や植物にして、原義の「強い力でひきさく」という意味で使うことも稀になります。 「スイカを包丁で劈く」などということがいうことができます。
原義の「劈く」の類語には、
などがあります。 「破裂」は「勢いよくやぶれさけること」を意味します。 そこから転じて「相談がまとまらない」という意味もあります。 「亀裂」は「(亀の甲の模様のような)ひびが入ること」を意味します。 そこから転じて「人間関係の断絶」という意味もあります。 「寸裂」は「ずたずたにさくこと」を意味します。
例文
「大きな音」を表す表現には、
などがあります。 「轟音」は「ごうおん」と読みます。「轟く」で「とどろく」と読みます。 「轟音」は「大きくひびきわたる音」です。 「絹(きぬ)を裂くような」は「高くて鋭い声」を形容し、特に女性の叫び声に対して使います。 直喩である点も「耳を劈くような」と非常に似ています。 「霹靂」は「へきれき」と読みます。 原義は「急に激しい雷が響くこと」です。そこから転じて激しい音響の形容として使います。 主に「青天の霹靂」の形で使い、「急な出来事で人をびっくりさせる」という意味で使います。 ちなみに「へきれき」の漢字は「劈歴」とも書きます。この漢字からも「劈く」と類語であることがわかります。 「大音声」は読み方が注意です。「だいおんせい」ではなく「だいおんじょう」です。 「大音声」は文字通り「大きな音声」を意味します。
例文
「耳を劈く」を意味する英語には、
などがあります。 「split」は「さく」という意味なので、「earsplitting」で「耳を裂く」という意味です。 「deafening」の原型は「deafen」です。「deafen」は「耳が聞こえない」を意味する形容詞「deaf」の動詞形です。 「deafen」で「耳を聞こえなくする」という意味です。
There was an earsplitting roar at the street.
通りで耳を劈く轟音がした。
「rend the air」で文字通り「空気を劈く」となります。 「rend」は「ずたずたに引きちぎる」という意味の動詞で、「air」を目的語にして比喩的に使います。
Someone's terrifying scream rent the air.
誰からのぞっとするような悲鳴が空気を劈いた。
「pierce the night」で「闇を劈く」という意味になり、音や光に対して使えます。
A few rays of light pierced the night.
いくつかの光が闇を劈いた。
「耳を劈く」と同様に「耳」を含み、一見似ているようだが、実は意味が違う慣用句を最後に紹介します。
「耳を塞ぐ」は「強いて聞かないようにする」という意味です。 「悲しいニュースに耳を塞ぐ」などと使います。 まさに手で耳を塞いで音が入ってこないようにする動作を思い浮かべると意味がイメージしやすいでしょう。
「耳を潰す」は「聞いても聞かないふりをする」という意味です。 「耳を潰す」を文字通り受け取ってしまうと怖いですが、慣用句です。 「耳を潰す」は「耳を塞ぐ」の対義語といえます。
「耳にたこができる」は「何度も同じことを言われてウンザリする」という意味です。 「たこ」は魚介ではありません。 漢字で「胼胝」と書き、角質化した厚い皮膚を指します。
いかがでしたか? 「劈く」の意味と使い方は理解できましたか? 最後に「劈く」に関してまとめたいと思います。 ✔「劈く」の意味は「強い力で破る。激しく引き裂く」 ✔「劈く」の読み方は「つんざく」「ひらく」 ✔「つんざく」の漢字は「擘く」とも ✔「耳を劈く」が定型句 ✔「劈く」の英語は「earsplitting」