「謹んで」と「慎んで」は、どちらも「つつしんで」と読む同音異義語です。「謹んで」は、うやうやしくかしこまるという意味で、謙虚に物事を伝えたいときに使います。「慎んで」は、過ちを起こさないように気をつける、度を越さないように控えめにするという意味で、行動や言動を抑制するときに使います。
「謹む」は、「うやうやしくかしこまる」という意味です。 「謹んで」は元々、「つつしみて」から変化した副詞になります。 「かしこまって〜する」という意味で、敬意を表してうやうやしく物事をするさまを表しています。 「謹」は、「言動に注意してかしこまる」「細かく気を配る」という意味で、相手に敬意を示しています。 「謹」を使った熟語は、「謹賀新年」や「謹啓」などが挙げられます。
「謹んで」は、相手に対して敬意や感謝の気持ちを表すときに使う言葉です。 「謹んで」はお祝い、お悔やみ、お詫び、参加を申し込むとき、新年の挨拶などで使うことができる便利な言葉です。 「謹んで」はあくまでもかしこまって何かをするときに使用する言葉ですが、日常生活やビジネスシーンでも用いることができます。
「謹んで」を使ったフレーズの例を紹介します。
「謹んでお礼申し上げます」は、ビジネスシーンで使われる感謝の気持ちを表す言葉です。 取引先や目上の人に「日頃は格別のご協力を賜り、謹んで御礼申し上げます」と使うと良いでしょう。 また冠婚葬祭では、集まってくれた人たちに対する感謝の言葉として使います。
「謹んでお詫び申し上げます」は、企業が不祥事を起こした場合の記者会見だったり、文書などで見かけることが多いフレーズです。 謝罪の言葉として「申し訳ありません」や「ご迷惑をおかけしました」などがありますが、より丁寧にした表現が「謹んでお詫び申し上げます」になります。 深く反省し、謙虚に謝るという意味が込められています。
「謹んでお悔やみ申しあげます」は、葬儀の際に使われる言葉で、謙虚に申し上げるという意味を含んでいます。 遺族に向けて言う場合の他に、弔電でも使用できる言葉です。 「心よりお悔やみ申し上げます」と言い換えることもできます。
読み方は「あいとうのいをひょうします」で、 意味は「亡くなった方のことを思うと悲しくて心が痛みます」になります。 「謹んで哀悼の意を表します」は葬儀の際に使われ、弔電で使用するのが通例です。 この言葉を口頭で使うと違和感を与えてしまうため、話す際は「謹んでお悔やみ申し上げます」が適切になります。 使い方の例としては、 「◯◯様のご逝去の報に接し、謹んで哀悼の意を表します。ご遺族皆様のお悲しみをお察し申しあげますとともに、故人が安らかにご永眠されますようお祈りいたします」 と使うことができます。
年賀状でよく目にするのが「謹んで新年のお慶びを申し上げます」という挨拶の言葉です。 これは新年の慶びを謙譲語で表した表現です。 相手に対して、へりくだって挨拶をするときに使います。
年賀状でよく使われる言葉に「謹賀新年」と「恭賀新年」があります。 「謹賀新年」は「謹んで新年のお祝いを申し上げます」で、 「恭賀新年」は「うやうやしく新年のお祝いを申し上げます」という意味になります。 2つとも意味は同じですが、「謹」は「相手を尊んで」、「恭」は「自分がへりくだって」という意味合いが強くなります。 相手によって使い分けるのが良いでしょう。
「謹んで参加させていただきます」は、結婚式などに参加する場合の返事になります。 親しい相手や同僚などにも多用できますが、特に目上の相手に使うのが良いでしょう。 結婚式の招待状の返信の例としては、 「この度はご結婚おめでとうございます。謹んで参加させていただきます。当日はお二人の晴れ姿を楽しみにしております」となります。 その他にもビジネスシーンで用いられます。 会社説明会や他社から招待を受けたときなどに、「私もご一緒させていただきます」という意味合いで使うことができます。 「謹んで参加させていただきます」は、「謹んで出席させていただきます」と言い換えることもできます。
取引先や顧客から仕事の依頼があったときに「ご依頼の件、承りました」と言う場合もありますが、同じ意味で「謹んでお受けいたします」と使うことができます。 「謹んでお受けいたします」は、「謹んで承ります」とも言い換えられます。
「慎む」は、「用心する・過ちがないようにする」「度を越さないように控えめにする」という意味です。 「慎んで」は、「過ちを起こさないように気をつける」「相手に失礼がないように気をつけること」という意味になり、相手に対する敬意を表しています。 「慎」は、「注意深い」「大切にする」「控えめにする」とう意味で、失礼や粗相のないように気をつけるさまを表しています。 「慎」を使った熟語は、「慎重」や「慎到」が挙げられます。
「慎んで」は自分自身について使う言葉です。 「慎んで」は空気を読まずに調子に乗りすぎてないようにする、自分自身の行動を律するための言葉です。 相手の気持ちや立場を尊重してかしこまる場合に使い、相手に失礼のないように行動や言動を抑制する場合に使います。 例としては、「口を慎んで」や「身を慎んで」といった使い方をします。
「慎む」の形容詞は「慎ましい(つつましい)」になります。 「慎ましい」の意味は「遠慮深い・気恥ずかしく感じられる」になり、「慎ましい暮らし」や「慎ましい食事」といったように使われます。 ただ似たように「つましい暮らし」や「つましい食事」と言うこともできます。 その場合に使われる「つましい」は「慎しい」ではなく「倹しい」という字が充てられ、「生活ぶりなどが贅沢でない・地味で質素である」という意味になります。 「つつましい」と「つましい」では意味が違うので、使う際には注意が必要です。
「つつしんで」という読みが同じでも、「慎んで」と「慎んで」では意味や使われる場面が変わってきます。
「謹んで」は「かしこまる」「礼を尽くす」「おごそかな態度で振る舞う」という意味で、相手への敬意や感謝の気持ちを表すときに使います。 「謹んで」を使うシチュエーションとしては、お礼やおめでたい場合だけでなく、謝罪やお悔やみなどの場合も含まれます。 「謹んでお詫び申し上げる」など、自分に対して使うことはなく、相手への丁寧な挨拶の一つとして使われることが多いです。 一方、「慎んで」は「抑制する」「控えめにする」「叱られないよう注意深く行動する」という意味で、自分自身について使います。 「慎んで」を使うシチュエーションとしては、行動や言動を控えるときなど、自分または相手を律する必要がある場合になります。 「口を慎む」「身を慎む」など、自分が出過ぎた真似をしないようにする、というへりくだった気持ちを表す言葉です。 「謹んで」と「慎んで」の使い方の違いとしては、相手に対する敬意なのか、自身または相手に対する注意なのかという点です。 敬意を払うべき相手に対する挨拶では、「謹んで」を使用するのが一般的です。
「謹んで」は「謹む」の副詞です。 「謹んで」は副詞になるので、形が変わることはありません。 「謹んでお詫び申し上げる」ならば、動詞「申し上げる」を「謹んで」が修飾していることになります。 一方で「慎んで」は「言葉は言葉を慎んで」といったように動詞として使います。
「謹んで」と「慎んで」の例文を紹介します。
◯「謹んで」の例文
◯「慎んで」の例文
◯恭しい<うやうやしい> (意味:とても礼儀正しく丁寧である様) 「入院中、社長が御見舞いに来られたので恭しくお辞儀をした」 *「恭しい」は使い方を間違えると、嫌味や卑屈のように聞こえてしまうので注意が必要です。 ◯恐れながら (意味:失礼ではあるが・恐れ多いことであるが) 「恐れながら、手紙でのご案内のみとさせていただきます」 ◯神妙に (意味:心がけや行いが立派で優れていること) 「彼は神妙に自分の間違いについて認めた」
◯しおらしい (意味:控えめでいじらしい・遠慮深くて奥ゆかしい) 「叱られてしおらしくなってしまった」 ◯控えめに (意味:遠慮して振る舞うこと・でしゃばらないこと) 「控えめに自分の意見を言う」 ◯自重する<じちょうする> (意味:自分自身を慎んで軽々しい言動をとらないこと) 「そろそろ将来のことを考えて自重したほうが良い」 ◯慎み深く (意味:心を引き締めて軽はずみな言動をしないこと・遠慮がちで控えめである) 「慎しみ深い振る舞いが大切です」 ◯殊勝に (意味:健気なさま・感心なこと) 「彼は殊勝にも兄をかばった」 ◯謙虚に (意味:へりくだって、素直に相手の意見などを受け入れること) 「謙虚に反省することが大事である」
「謹んで」の英語表現は、無理矢理意味的に訳すと「respectfully」となりますが、日本語のような言い回しはしませんので、実質英語は存在しないということになります。 「慎んで」は「慎む」という意味ですから、いくつかの英語表現が考えられます。 簡単な英語ですと「be careful about…」などもそれにあたります。 動詞ならば「avoid …ing」で「…するのを避ける」と表現してもOKです。
You should avoid extreme words to express your idea.
あなたは過激な発言は慎んでください。
「謹」には言動に注意してかしこまるという意味があり、「謹んで」は、相手に敬意を払っていることを表しています。「慎」には控えめにするという意味があり、「慎んで」は、相手に失礼や粗相のないように気をつけるさまを表しています。例えば「つつしんでお祝いの言葉を述べる」であれば「謹んで」、「身をつつんでください」ならば「慎んで」を使います。
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