「業(ごう)が深い」とは「欲深い」「非道徳的」「苦労が多い」「運が悪い」など悪い意味でのみ使う表現です。名詞を修飾する場合は「業の深い」を使い、「人間は業の深い生き物だ」などいいます。「業」の語源はサンスクリット語「カルマ」であり、「来世に善悪の報いを引き起こす行為」という意味です。それでは「業が深い」の意味と使い方、語源について詳しく解説していきます。
「業が深い」は「ごうがふかい」と読みます。 「業が深い」の意味は、
など多岐に渡ります。 「業が深い」は状況や文脈によって使い分けが必要です。 しかし「業が深い」にはなぜそんなにたくさんの意味があるのでしょうか? それでは「業が深い」の語源について解説していきます。
「業(ごう)」は仏教用語です。 「業」の由来はサンスクリット語(梵語)の「カルマ(karman)」です。 サンスクリット語とはインドの古代語で、ヒンドゥー教の経典で使われている言語です。 「業」には以下の4つの意味があります。 ①行為 ②身(シン)・口(ク)・意(イ)が行う善悪の報いを来世に引き起こす行い ③前世での行いの結果として現世で受ける報い(業の果報) ④理性ではどうすることもできない心の働き 「業」の原義は「行為」という意味で、この意味においては善悪というニュアンスは含まれません。(意味①) 仏教やインドの多くの宗教では、善または悪の行為をすると、それ相応の結果となって将来または来世に報いが生じると考えられています。 この「因果応報の法則」「輪廻」という思想によって、「業」は「未来に善悪の報いを引き起こす身体・口・意志による行い」という意味を持つようになりました。(意味②) ちなみに、身(シン)・口(ク)・意(イ)が行う行為を「三業(さんごう)」ということがあります。 また、前世での行いとして現世で受ける結果・報い、つまり過去の業の果報(かほう)のことを「業」という場合もあります。(意味③) 業(原因)⇔果報(結果)なので、本来は対義語なのですが、「業」にはこの意味もあるので注意です。 3つ目の意味から転じて「理性では制御不可能な心の動き」を意味する場合もあります。(意味④) 前世の行いで宿命が決まってしまうわけなので、自分の意識ではどうすることもできないというニュアンスです。 制御がきかず苛立った感情を表現する時に使います。
「業が深い」の「深い」って何?と思う人も多いと思います。 「深い」の基本義は「表面から底までの距離が長い」ですが、「業が深い」の「深い」はその意味ではありません。 この「深い」は「程度が甚だしい」という意味です。 「甚だしい」とは「望ましくないことが過度だ」という意味です。 「欲深い」の「深い」と同義です。 「深い」という形容詞が持つ意味から、「業が深い」をネガティブな意味でのみ使うことが分かります。 「業」には善悪の両方の意味がありますが、「業が深い」とした場合は悪の意味だけで使うことになります。 「業」を意味②と解釈すると、「業が深い」は「来世に悪いことを引き起こす現在行っている行為が甚だしい」という意味になります。 仏教において将来良くないことを引き起こす行為とは「欲深い行為」「非道徳的な行為」「不親切な行為」などを指します。 よって、「業が深い」で「欲深い」「背徳的」「不親切」などの意味になります。 また、「業」を意味③で解釈すると、「業が深い」は「前世で悪いことをしたがゆえに現在発生している悪い報いが甚だしい」という意味になります。 よって、「業が深い」で「苦労が多い」「運が悪い」などの意味になります。
「カルマ」を意味する「業(ごう)」を使った日本語は実は他にもたくさんあります。 代表的な四字熟語には「自業自得」があります。 「自業自得」とはまさに「自分の行いの報いを自分が受けること」という意味で、「カルマ」の性質そのものを指した言葉です。 他にも、 ◯二字熟語
◯慣用句
◯俗語
「業腹」「業が沸く」「業を煮やす」などはどれも「イライラする」という意味ですが、この「業」は4つ目の意味です。 「前世の行いによって現世の宿命が決まっているため、物事が自分の思うように運ばずにイライラする」といったニュアンスです。
「業」という漢字には「ごう」以外の読み方も存在します。 そして読み方によって意味が違う点に注意です。
個々の技術を「技(わざ)」というのに対して、「業(わざ)」は何らかの意図に基づく行為の全体をいいます。 「神のなせる業」「至難の業」「人間業」などと使います。
上述しましたが、「業が深い」は悪い意味でのみ使います。 他人に対して使う場合は相手を否定することを「欲深い」「非道徳的」と否定することになります。 自分に対して使う場合は「運が悪い」「苦労が多い」という意味の場合が多いです。
例文
「◯◯の業は深い」という形で使うことができます。 「業は深い」としても意味に違いはありません。 「山田さんは業が深い」を「山田さんの業は深い」と言い換えることが可能で、「業の深さ」を強調することができます。
名詞を修飾する時は、「業が深い」ではなく「業の深い」を使います。 「業の深い人」「業の深い趣味」といったります。 「業の深い人」とは「欲深い人」を指しますが、性別や文脈によってニュアンスは色々です。 「業の深い男」なら権力やお金に執着する人という意が強いです。 「業の深い女」なら「美容のために大金を使う人」「恋愛で嫉妬深い人」などの意味合いです。 「業の深い趣味」はネット用語です。 「虫を殺す」などの残虐行為や「盗撮」などの犯罪行為を趣味としている場合、「業の深い趣味」といえます。
例文
「罪深い」の意味は「神仏の教えや道徳に反していて罪が重い」です。 「業が深い」は「来世に悪い果報をもたらす行為をしているさま」で、「罪深い」は「道徳に反しているさま」で、どちらも抽象的な表現ですが意味をしていることは同じです。 「業が深い」は東洋哲学で使われる考え方であるのに対して、「罪深い」は西洋の宗教で用いられる思想です。
「業が深い」の意味は漠然としており広いため、その分類語も多岐に渡ります。 「欲深い」という意の類語ならば「強欲」「貪汚」「胴欲」「多欲」などがあります。 「道徳に反している」の意の類語ならば「背徳的」 「不道徳的」などがあります。 「運が悪い」の意の類語ならば「不運」「ついてない」「アンラッキー」などになります。
「業」の対義語は「果報(かほう)」です。 「果報」とは「前世での行いの結果として現世で受ける報い」という意味です。 業(原因)⇔果報(結果)の関係で、対義語にあたります。 上述したように、「業」が「業の果報」を意味する場合もあるので、類語とみることもできます。
「業」は語源である「karma」をそのまま英語で使うことができます。 単に「行為」を意味する場合は、
が使えます。
You must live with your karma.
人間は業を背負って生きていかなければならない。
「業が深い」の同義語である「罪深い」の英語表現「sinful」を使うことも可能です。 「罪」は「sin」です。
She is so deeply sinful that I don't think she can live long.
彼女は極めて業が深いので、長生きしないだろう。
「イライラする」「カッとなる」を意味する「業を煮やす」の英語は、
などがあります。
Her words got on my nerve.
彼女の言葉に業を煮やした。
いかがでしたか? 「業が深い」「業」の意味と使い方はご理解いただけたでしょうか? 最後に「業が深い」についてまとめたいと思います。 ✔「業が深い」の意味は「欲深い」「非道徳的」「苦労が多い」「運が悪い」 ✔「業」の語源はサンスクリット語「カルマ」で、「来世に悪影響を及ぼす行為」の意 ✔「業の深い人」などと使う ✔「業が深い」と「罪深い」は同義 ✔「罪深い」の英語は「sinful」