ビジネスメールなどで「よしなにお願いします」などという表現を見かけます。直接的な表現ではなく、物腰の柔らかい曖昧な表現で、いかにも日本人らしい言い回しと言えます。しかし曖昧さゆえ意味の誤解したり、使い方を誤るとビジネスシーンでは大きな問題になりかねません。そこで今回は「よしなに」の意味と使い方を例文付きで解説します。類語や英語表現も紹介します。
「よしなに」の意味は、
となります。 「よしなに」は「物事が上手く進むように」というニュアンスが含まれます。 「よしなに」は副詞で、「よろしく」とほぼ同じ意味です。 ちなみに「よろしく」の意味は、
といったようになります。 例えば、「よしなにお願いいたします」といった場合は、「よろしくお願いいたします」という意味になります。 しかし「よしなに」は、「よろしく」よりも使用頻度が少ない言葉であり、伝わらないこともあります。
<「よしなに」の成り立ち> 「よしなに」の成り立ちとしては以下の3つではないかと言われています。
「よしなに」の漢字は、「良しなに」か「宜しなに」ではないかと言われています。 「良」は音読みだと「リョウ」、訓読みだと「よい」と読みます。 「良」は「質がよい」「優れている」「愛情がある」を意味しています。 「宜」は音読みだと「ギ」、訓読みだと「よろしい」と読みます。 「宜」は「程よくかなっている」を意味しています。 「よしなに」は「うまい具合に」「よいように」を意味しているので、「よしなに」の漢字は「宜しなに」であると解釈することができます。 ただ「よしなに」は、ひらがなで表記することが一般的です。
「よしなに」は大和言葉(古い言葉)になります。 大和言葉とは、飛鳥時代ごろまで大和国や大和飛鳥を中心に話されていたとされる言葉のことです。 日本語は、「漢語」「外来語」「大和言葉」で成り立っています。大和言葉は意外にも、日常会話やビジネスシーンで頻繁に使用されている言葉です。他の大和言葉には、「心ばかり」「奥ゆかしい」「おおらか」などがあります。大和言葉は、柔らかく温もりがある優しい言葉と言われています。 「よしなに」は大和言葉であって、どこかの地域の方言ということではないので覚えておきましょう。 また、「よしなに」の語源は日本神話に基づいていると言われています。 天照大神の孫:瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)のお妃:木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が炎の産屋で三つ子を出産しました。お祝いに駆けつけた信濃出身の県主4人が「へその緒(胞衣<えな>という説もある)」を祀らせて欲しいと頼みました。*「胞衣」は、胎児が生み出された時に排出された胎盤のこと しかし、へその緒は3つしかありません。そこで3つしかないへその緒を4つに分け与えるために、喧嘩にならないよう「よしなにとりはからって欲しい」と指示を出したことが語源由来だとされています。
「よしなに」は挨拶として用いることができます。 例えば「どうぞよしなに」や「では、よしなに」と言った場合は、「どうかよろしくお願いします」といったニュアンスになります。 「よしなに伝えておいてください」と言われた場合は「よろしくお伝えください」という意味で、一種の社交辞令や軽い挨拶となります。 「よしなに」には柔らかい印象があるため、仕事の話ではなくすれ違いざまの挨拶などで使うと丁寧な印象を与えることができます。
また「よしなに」はビジネスシーンでは、「よしなにお願いいたします」といったように、相手にお願いをするときや何か指示をするときに使用します。 依頼するときの「よしなに」は、「お互いに折り合いをつけながら円滑に物事を進めていく」といったニュアンスになります。また、「よしなにやっておいてね」と言った場合は、「うまい具合にやっておいてね」という意味合いになります。 ただ「よしなに」は、日常会話でもビジネスシーンでもあまり使用することの多い言葉ではありません。
「よしなに」という言葉自体は敬語ではありませんが、「よしなにお願いいたします」などといったように、「よしなに」以外が丁寧な表現になっているので目上の人に対して使用することは可能です。 しかし、そもそも「よしなに」は曖昧な表現であるため、相手に誤解を招き迷惑をかけてしまう恐れがあるため、使用は避けた方が無難です。 ビジネスシーンでは、「よろしくお願いいたします」と使うようにしましょう。
「よしなに」はお願いするときに使用することができる言葉ですが、曖昧な表現になるため注意が必要です。 例えば、「この資料はよしなに作っておいてください」と指示した場合、資料を作成するということは理解できますが、いつまでに作ればいいのか、どういったように作ればいいかという部分が曖昧になってしまいます。 このように「よしなに」を使うと、お願いした内容が不明確になってしまい、頼まれた方も全て自分で判断しなくてはいけなくなってしまいます。 頼まれた方からすると、責任範囲がわからないため、依頼の内容が曖昧になってしまう可能性が大になります。また、何をどこまで進めたら良いのか、どうした方が良いのかわからなくなってしまうので、「よしなに」を使用する際は注意するようにしましょう。
「よしなに」の曖昧さを防ぐためには、具体的に指示をすることが重要になります。 また逆に「よしなに」と言われた場合も、具体的な指示を受けるように気をつけましょう。 具体的に指示をする場合は「5W1H」を使いましょう。また、指示を受ける場合も「5W1H」を把握出来るように質問をしましょう。 5W1Hとは、「When・Where・Who・What・Why・Hou」で、「いつまでに・どこで・誰が(誰に)・何を・どうしたらよいか」ということです。
例:「この資料をよしなに作成しておいてください」と指示する場合
先程も説明しましたが、「どうぞよしなに」や「では、よしなに!」と言った場合は、「どうかよろしくお願いします」と挨拶として使われます。 日常でもビジネスシーンも使うことができます。
「よしなにする」は「良い感じにする」「うまい具合にする」といった意味があります。 そのため「よしなにしてください」と言われた場合は「良い感じにしてください」「うまい具合にしてください」といった意味になります。 また、「そちらのよしなにしてください」と言われた場合は「そちらの都合の良いようにしてください」といったニュアンスを含みます。
「よしなにお願いします」は「よろしくお願いします」ということです。 「よしなに」と「よろしく」に意味の違いや使い分けはりません。
「よしなにお伝えください」は「よろしくお伝えください」といった意味で使います。 相手の同僚や家族に「よろしくお伝えください」という場合などに用います。
「よしなに頼みます」は「適切に頼みます」となります。 これは適切な判断や対処をしっかり頼むよ、といったニュアンスが強くなります。 そのため、「よろしくお願いします」といった意味合いで「よしなに頼みます」と使うと、何か指示をされたと思ったり何かを求められていると誤解を招く恐れがあるため注意しましょう。
「よろしくお願いします」を丁寧な古文にすると「何卒よしなに願い申し上げ候」となります。 ただ現代で使うとやや嫌味に聞こえたり、お願いをしているのにふざけていると思われてしまう恐れがあるため注意しましょう。
よく検索されている言葉に「よしにはからえ」がありますが、これは間違いです。 よく似た言葉の「よきにはからえ」の誤用となっています。 「よきにはからえ」は漢字で「良きに計らえ」と書きます。 意味は「思うようにやっておけ」「良いように対処しておけ」といった意味合いの表現です。 現代ではほぼ使われることはなく、時代劇などで身分の高い人が低い人に対して使っています。
「どうぞよしなに」と言われた場合は、なんて返事をしたら良いのでしょうか? 挨拶として「よしなに」と言われた場合は「こちらこそ」を使うのが良いでしょう。 ビジネスシーンで依頼を受けた場合の返事としては「かしこまりました」「承知しました」などが適切になります。
「こちらこそ」は、自分からも相手と同じことを伝える際に使用する表現になります。 目上の人から言われた場合は、「こちらこそよろしくお願いいたします」「こちらこそよしなにお願いいたします」と丁寧に返事をすると良いでしょう。
「かしこまりました」は、「命令・依頼などを受け入れる意を表す丁寧な言い方」です。 「かしこまる」という言葉には、身分の高い人の前で、謹みを表すという意味合いがあります。 そのため「かしこまりました」は、目上の人など、相手が言ったことに対して「かしこまって、承知する」という場合に使用します。 上司や、目上の人に「~をよしなに改善してください」といわれた時など、かしこまった返事として「かしこまりました」を使用します。 その他、上司などに「企画書をよしなに作成しておいてほしい」などと言われた場合、「かしこまりました」と答えることで、「謹んでお受けいたしました」ということを伝えられます。
「かしこまりました」と同様に、相手の命令や依頼などを聞き入れる場面で「承知しました」も使うことができます。 「承知しました」の意味は、「内容を理解して、聞き入れること」です。 「承知しました」は「わかりました」の謙譲語ですので、上司や取引先・顧客など目上の人に対し敬意を払うことができます。
「適宜」は<てきぎ>と読みます。 「適」は音読みだと「テキ」、訓読みだと「かなう」と読みます。 「適」は「ある所を目指していく」「ぴったり当てはまる」を意味しています。 「宜」は音読みだと「ギ」、訓読みだと「よろしい」と読みます。 「宜」は「程よくかなっている」を意味しています。 つまり「適宜」は、「その場合・状況にぴったり合っていること」「その場の状況に応じて各自がよいように行動するさま」を意味しています。 「適宜」は、「指示を受けなくても自己の判断で、臨機応変に対応する」というニュアンスで、自分がその場に適していると思う行動を起こすことを表すときに使用します。
例文
「然るべき」は、「適当な」「ふさわしい」「当然である」を意味しています。 「然」は音読みだと「ゼン」「ネン」、訓読みだと「しかる」と読みます。 「然」は「ほかでもなく、そうなっている」「その通り」を意味しています。 「べき」は、推量の助動詞「べし」の連体形で、「当然の成り行き、あるいは、そうなるはずの事柄を述べる」「義務づける」ことを意味しています。 「然るべき」は、「然るべき対応を取らせていただきます」「然るべき処置をとる」といったように使うことが多いです。 「然るべき」は、少々堅い表現なので、ビジネスシーンで使用されることは少ないです。
例文
「適切」は、「よく適合していること」「ぴったり当てはまること」を意味しています。 「適」は音読みだと「テキ」、訓読みだと「かなう」と読みます。 「適」は「ある所を目指していく」「ぴったり当てはまる」を意味しています。 「切」は音読みだと「セツ」「サイ」、訓読みだと「きる」と読みます。 「切」は「心を込めてするさま」「差し迫った事情にあるさま」を意味しています。 「適切」は、「適切な判断」「適切な表現」といったように使うことが多いです。 ビジネスシーンでも「適切」は使用することが多いです。
例文
「適正」は、「適当で正しいこと。また、そのさま」を意味しています。 「適」は音読みだと「テキ」、訓読みだと「かなう」と読みます。 「適」は「ある所を目指していく」「ぴったり当てはまる」を意味しています。 「正」は音読みだと「セイ」「ショウ」、訓読みだと「ただしい」と読みます。 「正」は「間違いがなくただしい」「ちょうどその状態である」を意味しています。 「適正」は「何かに対してちょうどよくただしいこと」というニュアンスになります。 「適正」は「正当であること」「適当でただしいこと」について使用し、少々堅い表現になります。
例文
「よしなに」は英語で表現するのがとても難しい日本語の1つです。 「何卒よしなに」「よしなに頼みます」は、
などと表現するのがよいでしょう。 職場で英語が必須な方や海外留学を検討している方など、本気で英語を学びたい人にオススメの英会話教室、オンライン英会話、英語学習アプリを厳選した記事を書きました!興味のある方はぜひご覧ください。↓
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「よしなに」について理解できたでしょうか? ✔︎「よしなに」は、「よいように」「うまい具合に」という意味 ✔︎「よしなに」は、挨拶として、お願いをするときに使用することができる ✔︎「よしなに」は、曖昧な表現のため、目上の人にはなるべく使用しない方が良い ✔︎「よしなに」の類語には、「適宜」「然るべき」などがある
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