「貴賎(きせん)」とは「尊いことと卑しいこと」「身分が高い人と低い人」を意味します。「どんな仕事に就いている人でも人間的価値に違いはない」という意味で「職業に貴賎なし」などと使いますが、「職業自体に違いがない」という意味で誤用しないように注意しましょう。ちなみに「貴賎をつける」だと「優劣をつける」という意味になります。
「貴賎」の読み方は「きせん」です。 「賎」は音読みで「せん」「ぜん」と読み、訓読みでは「いやしい」「いやしめる」などと読む漢字です。
「貴賎」の意味は「身分の高い人と低い人」です。 また「貴い(とうとい)ことと卑しい(いやしい)こと」を表す言葉です。
「貴賤」の語源は意味が対になる漢字の組み合わせです。 「貴」は訓読みで「とうとい」と読み、「身分が高い、価値が高い」といった意味です。 「貴族」「貴婦人」などと使われています。 「賎」は「いやしい」で「身分が低い、品が悪い」といった意味です。 「貧賎」「軽賎」などと使われています。
「職業に貴賎なし」の由来は、江戸時代の思想家石田梅岩(ばいがん)の教えです。 「職業や仕事内容によって差別すべきではない」といった意味合いで用いられています。 「士農工商(武士・農民・職人・商人と順位付けた社会階級)の階層は、社会的職務の相違であり、人間価値の上下・貴賎に起因しない」といった意味です。 梅岩は「武士が治め、農民が生産し、職人が道具を作り、商人が流通させる。士農工商は世の中を治めるのに役立ちます」と言い、これが「職業に貴賎なし」という言葉の由来となっています。 「職業の差がない」といった意味ではないので注意しましょう。 しかし最近では「合法的であれば仕事に良いも悪いもない」という意味で使われ、夜のお仕事をしている人を擁護する時に使われる傾向があるが、元の意味は「職業の階層はあるが、それは人間的価値には基因しない」という意味です。 さらにネット上では、安い賃金で働いていることから「職業に貴賎あり!」と言われていることも多いのですが、これも本来の意味とは異なっているため違います。
例文
「職業に貴賎なし」などと、逆説的に「貴賎あり」と嘆く時に使うことがあります。 主に、
などが言われています。 人々は不平等であり、人間の価値が高い人も低い人もいるということを指しています。
例文
「貴賤の分かつところは行いの善悪にあり」の意味は「人の尊さや卑しさは、その人の行いの善悪によって決定することであり、身分や地位によって決まるものではない」です。 これは中国の思想家である「荘子」が著書である文献『荘子』に載っています。 職業や地位で偉い人が、本当に尊い人なわけではないということです。 身分だけで人を見下したりすることは出来ない、ことを表しています。
「貴賎」が用いられている言葉には「道を行うには尊卑貴賤の差別なし」というものがあります。 これは『南洲翁遺訓』に由来しています。 意味は「道を開くには、身分の差はない」となります。 どんな人でも、道を開くことは出来るといった教えです。 「南洲翁遺訓」は西郷隆盛の遺訓集です。
「貴賎」は、「身分差に関係なく」といった意味の言葉でも使うことが多くなっています。
などと使われています。 「貴賤上下」の意味は「身分の高い人と低い人」が転じて「ありとあらゆる人」もあります。 「身分や階級は関係なく誰でも」といった意味で使われています。
例文
「貴賎をつける」の意味は「優劣をつける」となります。 物事などに対して、価値に優劣をつけることを指します。 「○○に貴賎をつける」「なぜ貴賎をつけたがるのか」などと使います。
例文
「筋肉の喜びに貴賎はない」の意味は「筋肉が付けばとにかく嬉しい」です。 どれだけの筋肉であろうと、付けば嬉しいに変わりはないということです。 マッチョ界でも、マウントが存在するのでしょう。 筋肉がついても上には上がいて喜べない人や、筋肉のすごい人に「まだその程度か」と言われて悲しむ人の心を救う、素晴らしい明言ですね。 ここから派生して様々な言葉を用いて「○○の喜びに貴賎はない」と使われています。
「貧富貴賤」は「貴賤貧富」とも言います。 「貧しい人と富める人、身分の尊い人と賎しい人」のことを指し「身分や収入に関わらずすべての人」といった意味です。 「老若貴賤」は「貴賎老少」とも言います。 こちらも「老いた人と若い人、身分の尊い人と賎しい人」のことを指し「年齢や身分に関わらずすべての人」といった意味です。 「貴賎都鄙」は「きせんとひ」と読みます。 「都鄙」の意味は「都会と田舎」であり、「都会に住む人と田舎に住む人」を表します。 「貴賎都鄙」も上二つと同じで「住居や身分に関わらずすべての人」といった意味です。
例文
「貴賤結婚」は身分の違う男女間の結婚のことを指します。 所属する社会的・経済的階層ないし、法的身分という観点から見た場合に大きく上下の隔たりが存在することを指します。 日本では古来より一夫多妻制だったことから、正妻以外の妻は家柄を重視されるとは限らなかったので「貴賤結婚」の例は多くあり、「貴賤結婚」という概念自体がなかったと言えます。 ただ皇族の婚姻相手に関しては1947年に施行された皇室典範で規制がなくなり、明仁親王が美智子様と結婚をしました。
「貴賎笠(きせんぼ)」は和歌山県知事指定の伝統工芸品である「笠」の名前です。 産地の名をとり「皆地笠(みなちがさ)」とも言われています。 平安時代、身分の高低に関係なく広く愛されたことから「貴賎笠」と呼ばれています。 今でも熊野本宮の特産品となっています。
「尊卑」の意味は「身分の高いものと低いもの」です。 「尊卑」は「尊い=とうとい者」と「卑しい=いやしい者」を表します 「貴賎」も「とうとい者といやしい者」であり、漢字と読み方は違いますが意味は同じになります。 一般的にはあまり用いられていません。
例文
「優劣」の意味は「優れていることと、劣っていること」です。 また「優りと劣りを判断すること」といった意味も持ちます。 主に「優劣をつける」「優劣がない」などと使います。
例文
「序列」の意味は「順序を付けて並べること」「決まりによって並べられたもの」です。 「行政機関における様々な階級の人々の組織」といった意味もあります。 身分の順番といった意味合いもあり「序列の低い」とした場合は、「身分の低い」といった意味になります。
例文
「雲泥」の意味は「天にある雲と、地にある泥」です。 「二つの間に大きな差異のあるたとえ」であり、「天にある雲と地にある泥ほどかけ離れていること」を表します。 主に「雲泥の差」と使われています。
例文
「貴賤」の英語は「rank」になります。 「regardless of rank」で「貴賤に区別なく」という意味になります。 ただし「貴賤」は文脈によって、さまざまな英語表現が考えられます。
Rich and low, high and low united for democracy.
貧富貴賤関係なく民主主義のために力を合わせた。
Every profession is important in its own way.
職業に貴賤なし。
いかがだったでしょうか? 「貴賎」について理解できたでしょうか? ✔読み方は「きせん」 ✔意味は「身分の高い人と低い人」 ✔「職業に貴賎なし」は誤用に注意 ✔類語は「尊卑」「優劣」など