「好きこそものの上手なれ」とは「誰でも好きな事には熱心になるし、工夫を凝らすので上達が早い」という意味のことわざです。芸事は無理して嫌々やっても成長はないの意。「好きならば必ず上手に違いない」という解釈は誤りです。「こそ」は強調の係助詞。「なれ」は断定「なり」の未然形で、「こそ」に応じた係り結びです。
「好きこそ物の上手なれ」の読み方は「すきこそもののじょうずなれ」です。 「上手」は「うわて」「かみて」ではなく、「じょうず」となります。
「好きこそ物の上手なれ」の意味は「誰でも好きな物事に対して熱心になるので上達が早い」です。 人は、好きなことであれば積極的に取り組み努力し続けることができるので、自然と上達していくものであることを表した言葉です。
「好きこそ物の上手なれ」の「物」は平仮名にして「好きこそものの上手なれ」とも表記されます。 特に意味や使い方の違いはありません。 ですが、好きなことが物質ではない場合がありますよね。 例えば歌などがそうです。そのため対象となるものが物質ではない場合は「好きこそものの上手なれ」と使われることが多くなっているようです。
「好きこそ物の上手なれ」を読む際のアクセントは「そ」です。 また「の」にもアクセントを付ける場合もあります。
「好きこそ物の上手なれ」の意味を「好きならば必ず上手だ」「好きならば上手でなくてはならない」は誤用です。 「必ず上手である」ではなく「好きだと上手になっていく」といった意味であり、「嫌だと思いながらやっていたら、どんなに努力をしても成長はない」といった意味も含みます。 「好きであること」が「上達の近道」であることを表した言葉です。
「上手なれ」の「なれ」の文法は正しいのか?と思う人もいるかもしれませんが、「なれ」は「なり」の未然形で、「こそ」に応じた係り結びであるため、文法的に正しい言葉となります。 ちなみに「係り結び」とは内容を強調したり疑問を表すために用いるものです 「こそ」以外にも係助詞の「ぞ」「なむ」の3つが強調を表し「や」「か」が疑問を表し、文中にこの5つが出てきたら、文末の活用形が「連体形」や「已然形」になるのが決まりとなっています。 品詞分解をすると、「こそ」は係助詞であり已然形と結びついて強調を表すため、「なれ」は動詞「なる」の已然形となります。
ことわざの多くは、七五調などが使われています。 俳句は五七五ですが、ことわざは「七五調」「五七調」「七七調」「五五調」になっていることが多くなっています。 「好きこそものの上手なれ」のリズムは七五調です。 「好きこそものの」が七、「上手なれ」が五となっています。 他にも「仏の顔も三度まで」などがあります。
「好きこそものの上手なれ」は古い教えが由来となっています。 古い書物や歴史上の人物の名言などではなく、昔から言われていることがそのままことわざとなりました。 どんなことでも、技術や知識を身につけるには「好きになること」「強い関心を持つこと」が大事だと言われています。 興味を持てないことには精が出ませんよね。 上達しよう!という気持ちがなくても、好きでいるとどんどん深堀りしていき気が付くと人並み以上の技術や知識が身についてしまうものです。 そのため、上達するにはまず好きになることが大事だと言う古くからの教えとなっています。
ただ「之を知る者は、之を好む者に如かず」といった言葉は論語に残っています。 論語とは中国の思想家である孔子とその弟子たちの対話を集めた書物です。 これは「物事を理解し知っている人は、それを好んでいる人には及ばない」といった意味になります。 理解している人よりも好きでいる人の方が勝っているということです。 そしてこの言葉には続きがあります。 それは「之を好む者は、之を楽しむ者にに如かず」です。 「好んでいる人は、それを楽しむ楽しんでいる人には及ばない」ということになります。 好きなだけではなく、それを行い楽しんでいる人が勝っているということです。
「好きこそ物の上手なれ」はビジネスや勉強に対して使うと2つのニュアンスがあります。 それは、
です。 「まず好きにならないとダメだよ」は、物事に対して関心を持ちましょうということです。 仕事をするにしても、勉強をするにしても、そのすべきことを嫌々やっていても仕方がないということです。 好きになるって難しく感じるかもしれませんが、好きになれるところを知ろうとすることも大事だということです。 そして「好きなものにのみ特化すべきだよ」は、好きなことにとことん集中したらいい!ということです。 嫌々やるくらいならば、やらなくていいということです。 好きだと思えることや関心のあることに時間や労力を使い、どんどんと上達していくと良いということです。 一つの好きなことに特化していれば、探究心も衰えずに技術を身に着けていくことが出来ます。
例文
「好きこそ物の上手なれ」は人を褒める時にも使います。 この場合は、誰かが好きでやっていることで成果が出ている時に使います。 特に本人が努力しているわけではない時や、好きでやっているだけで成果を気にしていない時に使います。 ゲームが好きでやっていたら大会で優勝してしまったとか、誰かに練習しろと言われたことがないのにピアノが好きで弾き続けていたらコンテストに出ることになったとか、そういう場合に用いられることが多くなっています。 もちろんビジネスシーンでも使われています。 好きな分野の市場調査を頼まれた際に、上司や先輩たちよりも詳しく分かりやすい資料を作り上げた人に対して「好きこそものの上手なれだね」などと使います。
例文
「好きこそものの上手なれ」は座右の銘や名言としても人気です。 やはり誰かに強いられるわけではなく、自主的に物事に取り組み楽しみながら成果を上げられるということになるため、ポジティブな言葉として人気が高くなっています。 仕事においても勉強においてもそうですが、「やらされている」「やらなければならない」という気持ちはストレスになったりモチベーションが上がらない要因となります。 しかし自分が好きでやっているのであれば、やれる環境に感謝が出来てモチベーションを保つことが出来ます。 「上達するには好きになることだ!」と、強制的にやらされることが良いわけではないといった意味も含まれます。
「好きは上手の元」は「好きであることは、上手になる理由」といった意味です。 「好きこそ物の上手なれ」と同じ意味を持ちます。 ただ「好きは上手の元」は、「好きになることを推奨する」意味合いが強くなっています。 そのたえ「好きな人は上達が早いよ」ということよりも「上手になるには好きになることだよ」といった意味合いで使われることが多くなっています。
「道は好む所によってやすし」は、「好きなことであれば、自然と上手になれる」という意味です。 「好きこそものの上手なれ」と同義になります。 ここで言う「やすし」は「容易だ、簡単だ」といった意味になります。 「道」は上達への道のりのことを指しています。 「好奇心を持っていれば、道を極めるのは容易である」ことを表しています。
「好きこそものの上手なれ」といった意味の四字熟語はありません。
「好きこそ物の上手なれ」の対義語は「下手の横好き」です。 意味は「下手なのに物事を好き好み熱心なこと」です。 「本人が、好き好んで一生懸命取り組んでいることなのに、上達していないで成果が表れていない」という意味で使用される言葉です。 つまり簡単に言い表すと、「下手だけど好きでやっている」ということです。 「全く向いていないのに懲りずにやっている」というような馬鹿にしているニュアンスで使用されたり、自分のことを謙遜する場面で使用されます。 基本的には、「下手だけど好きだからやる」という主に自分に対して使用する言葉であり、他人に使用すると相手を馬鹿にしていることになりますので、使用する場面には十分注意してください。 他に、
といった言い回しもあります。 意味は同じです。「下手の横好き」がよく使われている表現です。
「下手の考え休むに似たり」の意味は「下手な人がいくら考えても何も浮かばず、時間を浪費するだけで休むのと変わらない」です。 主に囲碁や将棋などで、下手な人が次の手を長く考えていることを「いくら考えても時間の無駄だよ」とからかって言う言葉です。 他にも、
といった言い回しもあります。
「好きこそ物の上手なれ」の英語は、
What one likes, one will do well.
です。 「one」は「1」という意味ではなく「人」です。 特定の人を示さずに、一般論をいう場合に使います。 口語では「you」「we」を使うのが一般的です。 「well」の代わりに「best」を使ってもOKです。
「好きこそ物の上手なれ」の英語は、
Do what you love and the money will follow you.
という表現もアリです。 直訳すると「好きなことをやれ、そしたらお金は付いてくる」です。 「お金」は比喩で、「好きなことを極めれば、結果は自ずと付いてくる」というニュアンスです。
いかがだったでしょうか? 「好きこそものの上手なれ」について理解できたでしょうか? ✔意味は「誰でも好きな物事に対して熱心になるので上達が早い」 ✔「好きならば必ず上手だ」という意味で使うのは誤用 ✔人を褒める時にも使うことが出来る ✔類語は「好きは上手の元」、対義語は「下手の横好き」