「泡沫」という言葉をご存知ですか?歌詞や曲のタイトルなどにも使われる言葉です。今回は「泡沫」の本来の意味や使い方を漢字の語源から詳しく解説していきます。
「泡沫」の意味は「水面に浮かぶ泡」または単に「泡」です。 「泡」と「沫」はどちらも「あわ」を意味する漢字です。
「泡沫」の読み方は「うたかた」または「ほうまつ」です。 「うたかた」が濁音化して「うたがた」と読む場合もあります。 また極稀に「みつぼ」と読む場合もあります。 基本的には「うたかた」と「ほうまつ」の2つの意味があると覚えておきましょう。 もともとは「うたかた」という古代日本語が先にあり「水の上に浮かんでいる泡」という意味で使用していました。 後に「泡」を意味する古代中国語「泡沫」が日本に流入し、それを「ほうまつ」と音読みしました。 その後、古代日本語の「うたかた」と古代中国語の「泡沫」は意味が似ていることから、「うたかた」の当て字として「泡沫」を使うようになりました。 したがって、厳密には、「うたかた」と読むと「水の上に浮かんでいる泡」、「ほうまつ」と読むと「泡」という意味になります。 「うたかた」のような古代日本語は俗に大和言葉といわれ、趣のある美しい日本語とされています。 森鴎外の書籍の中にも『うたかたの記』 という短編小説があります。
古代日本で、「水の上に浮かんでいる泡」のことを「うたかた」というようになった由来には諸説あります。
など多くの説があり、どの語が「うたかた」の語源となったのかは不明です。
日本語の漢字には訓読みと音読みがあります。 音読みは中国語のままの発音であるのに対して、訓読みは中国から流入した漢字をその意味に相当する和語(大和言葉)で読んだものです。 和語を漢字表記するのは基本的に当て字ということになります。 「泡沫」の「うたかた」は訓読み、「ほうまつ」は音読みです。 「泡沫」のように、漢字二字、三字などの熟語を訓読することを熟字訓(じゅくじくん)といいます。 熟字訓は、1946年の当用漢字制定により、かな書きで表記する方針となったため、「うたかた」はひらがな表記が正しいということになります。
「泡沫」の漢字を、☓「泡末」とするのはよくある間違いなので注意しましょう。 また、「泡沫」は古く「沫雨」と書いていましたが、現在では使用されません。 ちなみに「雨沫」だと「しぶき」と読み、「飛び散る細かい水」という意味です。 「雨沫を浴びる」の形で小説などに稀に使われます。 この意の「しぶき」は本来「飛沫」と書きます。 「飛沫」は現在「ひまつ」という読みで、「飛沫感染」の形でよく使われています。
「水面に浮かぶ泡」はあっという間に消えていってしまうことから、「泡沫」は「消えやすく儚(はかな)いもののたとえ」という意味で使います。 「泡沫の夢」「泡沫の恋」などが定型句です。 なんとも切ない、物悲しい響きのある表現です。 「泡沫の如く消える」「泡沫のよう」「泡沫的な」という言い回しもあります。 また、「泡沫」は古語で「少しの間」といった意味の副詞としても使われています。 『源氏物語』などで用例が見られます。 現代ではこの意味で使うことはありません。
「泡沫」の例文
「泡沫」は他の二字熟語と組み合わせて使うこともあります。 「泡沫」を他の熟語と組み合わせて使う場合は「ほうまつ」と音読みします。 「泡沫会社(ほうまつがいしゃ)」は、できてはすぐに潰れてしまう会社を指します。 資本金の準備を怠ったことですぐに倒産してしまう会社を指します。そもそも最初から創業する必要のない、というニュアンスがあります。 「泡沫候補(ほうまつこうほ)」は、当選する見込みが極めて薄い選挙立候補者を指す政治用語です。 「泡沫景気(ほうまつけいき)」は、バブル経済のことで、実態経済から離れて投機によって株価や不動産価格が上がることを指します。 「泡沫夢幻(ほうまつむげん)」は、儚いことのたとえです。 「夢幻」は「泡沫」の同義語で、同じ意味の熟語を組み合わせた強調語です。特に人生が儚いことをいう語です。 「泡沫風灯(ほうまつふうとう)」も、儚いことのたとえです。 「風灯」は「風前の灯」を略した語で、危機が迫っており今にも命が絶えようとしているたとえです。 「泡沫人(うたかたびと)」は、はかなく消えてゆく人を指します。 人間の命の短さや出会いと別れのむなしさを表した語です。 「泡沫細胞(ほうまつさいぼう)」は心臓発作および脳卒中のリスク増加させる細胞を指す医学用語です。
「泡沫」の同義語は「水泡」です。 「水泡」は訓読みで「みなわ」、音読みで「すいほう」です。 「みなわ」は「みなあわ」が変化したものです。 「水泡」の漢字は「水沫」とも書きます。 「水泡」も「水の中にできる泡」を意味する語であり、同じく儚いことのたとえとして使います。 慣用句「水泡に帰(き)す」で、今まで努力してきたことが無駄になるという意味になります。 ちなみに「あわ」の俗な言い方に「あぶく」があります。
「露(つゆ)」も儚いもののたとえとしてよく使われる語です。 日本文学でも「露のように」「露のごとく」などよく出てきます。 「露の身」「露の命」などの言い回しがあります。 「草露(そうろ)」も「草についた露」のことで儚いことのたとえとして使います。
「仮初め(かりそめ)」とは一時的、その場限りであることを意味します。 「仮初めの恋」「仮初めの命」「仮初めの住まい」「仮初めの病気」「仮初めの約束」などと使います。 「仮初め」は「泡沫」よりも広く使うことができ、必ずしもはかないという意味ではありません。 「仮初め」には、いいかげんなことをいう意味もあり、「人の好意を仮初めにする」などと使います。 「仮初めにも」は「間違っても」という意味で、「仮初めにもしてはいけない」などと使います。
「泡沫夢幻」という四字熟語をすでに紹介しましたが、同じく「夢幻」を使った四字熟語に「夢幻泡影(むげんほうよう)」があります。 「夢幻泡影」は仏教用語で、人生や世の中の物事は実体がなく、非常にはかないことのたとえです。 「夢幻泡影の世」などと使います。
「蜻蛉(かげろう)」は、とんぼに似ているが羽や体が弱々しく、ひらひら飛ぶ昆虫です。 成虫は寿命が数時間から数日と短いため、はかないもののたとえにされます。
「泡」を意味する語は「bubble」です。 「水面に浮かぶ泡」を英訳すると「bubbles floating on the surface of the water」となります。 英語「bubble」は儚いことのたとえとしては使いません。 「経済バブル」の「economic bubble」だけはこの意味で使います。
「消えやすく儚い」という意味の英語は、形容詞「ephemeral」です。 「短くてはかない」を意味する語には「short-lived」もあります。 「一時的」を意味する「temporary」も使うことができるでしょう。
Why do so many people crave for ephemeral fame?
たくさんの人がうたかたの名声を切望するのはなぜか。
I had a few relationships at college, every one of which was short-lived.
大学で何回か恋愛をしたが、その全てが泡沫の恋で終わった。