「補填」という言葉をご存知ですか?なんとなく足りない物を補うような場面で使用する言葉だということはわかっても、正確な意味や使い方は曖昧だという人は多いのではないでしょうか。今回は「補填」の正しい意味や使い方を例文付きで解説します。また、「補充」「補給」といった類語との違いも合わせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「補填」は「ほてん」と読みます。 「補」は音読みで「ホ」、訓読みで「おぎなう」と読みます。 「填」は音読みで「テン」と読むことができる漢字です。
「補填」の意味は「不足分をおぎなって埋めること」です。 「補」は「欠けた所をつぎ足してうめる。足りない所をおぎなう」 「填」は「欠けたものをおぎなう」を意味します。 したがって、「補填」は壊れてしまったり、欠けていたりと損失が発生したときに埋め合わせる場合に使います。 「補填」は、お金が不足している時に主に使われます。 しかし、「補填」自体に「不足」という意味がありますので、「不足を補填する」という表現はクドい言い回しになってしまいます。 「赤字を補填する」「損失の補填」などと具体的に不足しているものを目的語として置くの自然です。 また「売上を補填する」という表現は誤りとなります。 補填する対象は不足分・損失分なので、「売上で損失を補填する」は正しい日本語ですが、「売上を補填する」は誤用です。 稀に「欠席補填」などと人や物に対して使うことがありますが、一般的ではありません。 補填する性質があること意味する「補填的」という表現も存在しますが、こちらもあまり使用されない表現です。
「填」は「塡」の俗字です。 公式な場で用いられてきた標準的な「正字」に対し、主に世間一般で用いられてきたとされる異体字のことを「俗字」といいます。 「塡」も音読みで「テン」と読むことができ、「ふさぐ・ふさがる」「うずめる・はめる・みたす」という意味があります。 「填」と「塡」はどちらも常用漢字ではなかったので、かつては「補てん」と表記されていました。 その名残りで、現在でも国税庁のウェブサイトなどでは「補てん金」などと記されています。 現在では「填」と「塡」は常用漢字なため、「補填」「補塡」「補てん」のどれでも正しい表記とされています。
意味の箇所でも触れましたが「補填」は
などの形で使います。 ○○には不足分・損失分がきます。 「補填」はビジネスシーンで広く使用される熟語です。 また、お客様にご迷惑をおかけした際に、それを埋めるために無料でなにかを配ったり、ポイント増量して付与したりすることも「補填」といいます。 つまり、何か穴を空けてしまった場合の穴埋めをすることでお詫びをするという場合です。 穴があいた分何かで補填をすることで誠意を見せることができるので、よく使用されます。
例文
「損失補填」は文字通り「損失分をうめておぎなう」という意味ですが、これは証券会社で使用される金融用語でもあります。 「証券会社などのブローカーが顧客から受託した有価証券の売買などについて損失が生じた場合に、財産上の利益を提供すること」を指します。 かつては「損失補てん」と書かれていました。 「損失補填」は、損失を負担すると勧誘することで自己責任がなくなり、投資家が安易な取引をすることでかえって投資家に不利益を招く恐れがあるなどの理由から、昭和40年の法改正において禁止されています。 なので、今では損失に対して「損失補填」をするということはありません。
病気や怪我で入院した場合、保険に加入していれば入院にかった費用を補填してもらうことができます。 保険用語として
などを、「保険金で補填される金額」といいます。 またその金額を「補填金」といいます。 また、地震などの自然災害やウイルス感染爆発など未曾有の事態が発生した際に、国が国民に現金を給付することも「補填」といいます。 2020年のコロナウイルスで国が店舗経営者に対して営業自粛を要請した際には、「補填なくして要請なし」などという言葉も使われました。
「補填」と「填補」は全く同じ意味ですが、業界によって「填補」を一般的に使う場合もあります。 例えば、「損害填補」は保険用語ですが、「損害補填」とは言いません。 その他にも「填補賠償」といった保険用語があります。 「填補賠償」とは「本来の履行が不能になった場合の損害賠償」のことです。 例えば借りていたものを損失してしまった場合に、その自価金額を賠償することを「填補賠償」といいます。 「填補・塡補(てんぽ)」は保険用語として使用するのが一般的であるということを覚えておきましょう。
例文
「補充」の意味は「不足をおぎないみたすこと」です。 定量が定まっているものが減ってしまって足りないものをおぎない元の状態に戻すことを表します。 「補」は「欠けた所をつぎ足してうめる。足りない所をおぎなう」、「充」は「足りないところに詰めこむ」を意味します。 「補充」と「補填」の違いは、 「補充」が「完全に満ち足りている状態に戻すこと」という意味で使用される言葉であるということです。 例えばトイレットペーパーが3つなくなったから、3買ってくるということです。 「補填」は、「不足分をおぎなう」という意味で使用される言葉なので、若干ニュアンスの違いがあります。
例文
「補償」の意味は、「損害・費用などを補いつぐなうこと」です。 「補償」は、「償」という漢字が使用されていることからもわかるように「償う」という意味の強い言葉であるという点が「補填」との違いです。 何かを壊してしまったり傷つけてしまうなど、なにかマイナスのことが起きてしまった場合にお金で償うことを「補償」と言います。 「補填」も何かが不足したときに使用する言葉であり、「損害」や「損失」にも使用することができます。 しかし、「補填」はあくまでも「穴埋めをする」という意味であり「償う」という意味はありません。
例文
「補完」の意味は「足りないところをおぎなって完全にすること」です。 欠けているところや不十分なところをおぎなって完全なものにすることを表します。 「補」は「欠けた所をつぎ足してうめる。足りない所をおぎなう」、「完」は「やり遂げる。全うする」を意味します。 「補填」との違いは、「補完」は単におぎなうだけではなく完璧なものにするという場合に使う言葉であるということです。 「補填」には「完璧にする」という意味はありません。
例文
「補間」の意味は「前後のデータを参照し、その中間の値を演算から推測しておぎなうこと」です。 「補」は「欠けた所をつぎ足してうめる。足りない所をおぎなう」、「間」は「二つの時点のあいだ」を意味します。 「補間」は分かっている数値の情報から、欠けている数値を予測し補う場合に使用する言葉であるという点で、「補填」とは大きな違いがあります。 例えば、雨が降っているとします。今現在、降水量は2mm程度です。これから2時間後に降水量は6mmになっていたとします。ではこの場合、1時間後では降水量はどのくらいだったでしょうか。 知っている情報としては、「初めの降水量は2mmだった」「2時間後には降水量は6mmになっていた」ということです。 このことから、1時間後には降水量は4mmだったと推測することができます。 このように、分かっている数値から欠けている数値を推測しおぎなうことを「補間する」と言います。
例文
「補給」の意味は「消費したり、損失した部分を補うこと」です。 「補給」は、必要や求めに応じて不足を補うことに対して使用する言葉なので、「補填」とは違い「穴埋めをする」というニュアンスとは異なります。 「水分補給」「栄養補給」というように、足りていない部分を同じもので補う場面で使用するのが「補給」という言葉になります。
例文
「相補」は「補填し合う」という意味になります。 お互いに、両者が足りない部分を補填し合う関係を「相補関係」などと言います。 「補填」には「互いに」という意味はありません。
例文
「補足」の意味は「不十分なところを補いたすこと」です。 「補」は「欠けた所をつぎ足してうめる。足りない所をおぎなう」、「足」は「十分にある。たりる」を意味します。 「補足」は足りない部分や不十分なところを付け加えることで、改善するような場合に使用する言葉であるという点で「補填」とはニュアンスの違いがあります。 例えば、「彼の説明にはもう少し補足する必要がある」といった場合は「彼の説明では不十分な点があるため、もう少しだけ付け加えることが必要だ」という意味になります。 「補填」には、「補うことで改善する」というニュアンスは含まれません。
例文
「増補」は、「補って増やすこと」です。 足りない部分に、新しいものを加えて不足を補うことを「増補」と言います。 「補填」には足りない部分を補うという意味はありますが、新しいものを加えるというニュアンスはありません。 「増補」は、どちらかと言うと「補填」よりも「補足」に近いと言えるでしょう。
例文
「充当」は、「その事に当てる」という意味で使用される言葉です。 主に「ある目的のために人や物を補う」という場面で使用されるという点で、「補填」とは異なります。 何か目的に対して、「◯◯を◯◯に充当する」といった形で使用するのが「充当」です。 「補う」というよりは「割り当てる」という意味に近い言葉なので、「補填」とはニュアンスの違いがあると言えるでしょう。
例文
「弁償」は、「他人に与えた損害を金や品物で償うこと」です。 例えば、人から借りている物を壊してしまったときに
などで、相手に償うことを「弁償」と言います。 「弁償」は、「金品で埋め合わせをする」という意味でしか使用されません。 さらに、「償う」という場面で使用される言葉なので「補填」とは意味合いが異なると言えるでしょう。
例文
「賠償」は、「他に与えた損害を償うこと」です。 「損害賠償」という言葉で耳にすることが多いのではないでしょうか。 「損害賠償」とは、相手に与えた損害に対して慰謝料などを払うなどして損害を埋めることを意味します。 「賠償」も「弁償」と同じように「償う」という意味で使用されるので、類語ではありますが「補填」とは意味合いが異なると言えるでしょう。
例文
「穴埋め」は「足りない所を補うこと」という意味で使用されます。 元々、字の通り空いている穴を埋めて平らにすることを意味しています。 そこから転じて「不足を補う」という意味で使用されるようになりました。 「補填」と「穴埋め」は同義であると言えるでしょう。 「穴埋め」は、「赤字」や「賃金」だけではなく「空いてしまったスケジュールの穴埋めをする」というように日常的にもよく使用される言葉です。
例文
「カバー」の意味は「足りないところを補うこと」です。 「カバー」は、欠点や足りていない部分を覆いかぶせるように見えなくすることで補うというイメージで使用されます。 例えば、「部下のミスを部長がカバーしてくれた」といったように使用します。 したがって「補填」とはニュアンスが異なるということがおわかりいただけると思います。
例文
「欠損」の意味は、「欠けて不完全になってしまうこと」です。 「一部が欠けてしまうこと」に対して使用される言葉ですが、決算上の損失を指す言葉でもあります。 「欠損金」など、会計上で使用することが多い言葉です。 決算上の足りない部分や赤字出すことを「欠損」というので、赤字を埋める場合に使用する「補填」の対義語であると言えるでしょう。
例文
「不備」の意味は、「足りない部分があり、十分に整わないこと」です。 例えば、「書類に不備がある」は「足りない部分があって十分でない」ということです。 「不備」の対義語は、「完全に揃っている」という意味の「完備」です。 なので、厳密に言えば「不備」は「補填」の対義語とは言えないでしょう・・・ ただ、「補填」は足りない部分を補うという意味で使用する言葉ですが、「不備」は「行き届かず不完全な状態」を指す言葉です。 なので、「足りてないこと」「足すこと」というニュアンスで見れば対義語にあたると言えるでしょう。
「欠落」の意味は、「あるべきものが欠けること」です。 本来あるべき必要なものの一部分欠けてしまっていることを「欠落している」と言います。 「補填」は、欠けている部分を補うことを意味する言葉なので、対義語になります。
例文
「補う」を意味する最も一般的な英語は「make up for」です。 「make up」だけだと「化粧をする」という意味になります。 前置詞「for」を必ず使うようにしましょう。 「make up for」で「(遅刻や失念などの失態)を埋め合わせる」という意味でも使います。
We need to make up for the loss last month.
先月の損失を補填する必要がある。
I want to make up for being late last night.
昨夜遅刻しちゃったの、埋め合わせしたいんだけど。
Nothing will make up for her lost child.
亡くなった子を埋め合わせるものは何もない。
「make up for」の代わりに「cover」を使うこともできます。 「保険でまかなう」という意味で「cover」が使われます。
This travel insurance doesn't cover me for the hospital fee.
この旅行保険は入院費用は補填してくれない。
「補填する」と同じように堅い英語表現には「compensate」があります。 「compensate」は他動詞して使うこともありますが、「make up」と同じく、「compensate for」の形で使うのが一般的です。
いかがでしたか? 「補填」という言葉について理解していただけたでしょうか。 ✓「補填」の読み方は「ほてん」 ✓「補填」の意味は「不足分をおぎなって埋めること」 ✓「補填」の漢字は「補塡」と書くこともできる ✓「○○を補填する」「○○の補填」とビジネスで使う ✓「損失補填」は金融・不動産用語でもある など