「便宜上」という言葉をご存知ですか?「便宜上〜とする」といった表現で耳にすることがあるのではないでしょうか。少々硬い表現で、なかなか使用するのが難しいですよね。今回は、「便宜上」という言葉の正しい意味と使い方を例文付きで解説します。また「便宜上」の類語表現や英語表現も合わせて紹介しますので、是非参考にしてください。
「便宜上」は「べんぎじょう」と読みます。 すべて音読みで「便」は「ベン」、「宜」は「ギ」、「上」は「ジョウ」と読みます。 「便宜」は「びんぎ」と読むこともありますが、「びんぎじょう」とは言いません。 「便宜上」は、「便宜」と「上」という2つの言葉を組み合わせてできています。
「便宜上」とは「その時々に応じたやり方で」「その方が都合がよいので」という意味です。 「便宜」の意味は、 ①都合がよいこと。便利なこと ②手紙、たより ③適宜の処置 の3つで、現代で使う場合はほぼ3つ目の意味です。 「上」とは「...においては」を意味し、組み合わせて「便宜上」で副詞的に使います。
「便宜上」は、「便宜上〜...」の形で副詞的に使われることが多いです。 例えば、「◯◯は便宜上〜....としている」といった使い方で、「◯◯は〜...したほうが都合がいいからそうしている」といったニュアンスになります。 その他には
といった言い回しがあります。
例文
「便宜上の理由」は「本当ではないが、相手を納得させるために都合のよい理由」といった意味で使用されます。 簡単に言えば、相手が疑って余計な詮索をしないように、簡単に話を付け加えたり、言い方を変えたりするといったことです。 例えば、どちらかの浮気が原因で恋人と破局してしまった人が、別れた理由を聞かれて「性格の不一致で...」と答えるのは、「便宜上の理由」と言えます。 その他にも、組織の中にいる人達を混乱させないために、理由を言い換えるといった場合なども「便宜上の理由」と言えるでしょう。
例文
「便宜上」は「分かりやすくするために」という意味合いで論文でも頻出する熟語です。 複雑なことを説明する際、読者が理解できないことを避けるために、単純化したり、具体例を上げることの「断りを入れる」ニュアンスを持つのが「便宜上」です。 論文には必ず読み手がいますから、読み手に書き手と同じような専門的知識がなくても理解ができるような表現をする必要があるのです。 例えば、「〜は便宜上ここでは〜と表記しています」といった言い回しです。 これは、わかりやすいように◯◯と表記していますよというニュアンスになります。
例文
「便宜上」は、「便宜上のもの」といった使い方をすることもできます。
といった言い回しで、「〜としているのは都合上です」という意味になります。 また、「あくまで便宜上のものだ」などと使うこともあります。 「あくまで〜です」という表現を使用すると、「都合上では...、〜となっていますが」という、範囲を限定させる意味になります。
例文
「便宜的に」としても「便宜上」と全く同じ意味になります。 「便宜上」と同じように、「物事を本質的ではなく、その場の都合に良いように処置を施して一時をしのぐ」といった場合に「便宜的に」という表現を使用します。 例えば、
といった言い回しがあります。 「その場ではそうしたほう都合がいい」といったことを、堅く表現したものが「便宜上」「便宜的」です。
例文
「便宜」という熟語は「便宜を図る」という形で使うのが最も一般的です。 「便宜を図る」とは、「相手にとって利益になるように、または都合よく物事を運べるように、特別な計らいを行う」という意味です。 「便宜を図る」は賄賂や汚職、不正などネガティブなことに対して使うことが多いです。 上述してきた「便宜上」「便宜的に」といった表現は、「相手にとってもわかりやすいように、便利なように」という意味で使用されていますが、 「便宜を図る」はマイナスイメージを伴う言葉なので注意が必要です。 ただ、「便宜を図る」はポジティブな意味で使うこともできます。 「利用者の便宜を図り、電車のダイヤ改正を実施する」といったように、配慮を必要としている人に、適当な対応をするという意味で用います。 しかし、「便宜を図る」はどちらかというとあまり良くない印象がある表現なので、特に目上の人に対して使用するのは避けたほうが良いと言えるでしょう。 「便宜を与える」という表現もあります。 「便宜を与える」は、「相手に対して特別な計らいをする」という意味で使用されます。 相手の事情を汲み取って、相手にとって都合のいいようにしてあげたり、特別扱いをするといったニュアンスで使用されます。
例文
「都合上」は、「つごうじょう」と読みます。 「都合上」は、「事情により」といった意味で使用されます。 「便宜上」のように、「そうしたほうが具合がいいので」といったニュアンスでも使用されますが、一般的に、「物事をするにあたっての事情」に対して使用する言葉なので、「都合上」の方が意味が広く、悪い意味でも使うことができます。 よって、「便宜上」はすべて「都合上」に置き換えることができますが、「都合上」は「便宜上」に必ずしも置き換えることができません。
例文
「便宜」と「利便」は非常に似た熟語ですが、微妙に意味合いが異なります。 「利便」の意味は、「都合がよいこと・役に立つこと」です。 「利便」という言葉自体は、「利便性の向上」「利便性に優れている」「利便性が高い」などと使います。 つまり、「利用する人にとって都合が良い」といった意味で使用される言葉が「利便」ということになるため、 「利便上」は「利用する人にとって都合がよい」 「便宜上」は「都合がいいこと」 といったニュアンスの違いがあることがわかります。 「利便上」は、良い意味だけではなく「利便上、悪い」というようにマイナスの意味で使用することもできます。 逆に「便宜」は「便宜上悪い」という使い方をすることはありません。
例文
「形式上」は、「形の上では」という意味で使用される表現です。 「形式上◯◯ということになっているが、本当は◯◯だ」といったような使われかたをします。 形だけで実質の伴わない場合に使用される表現です。 都合上、「形式上◯◯ということにしている」という使い方をする場合もありますが、「形式上」という言葉自体は、「便宜上」とは全く違う意味の表現です。
例文
「暫定的に」は、「ざんていてきに」と読みます。 「暫定」の意味は、「本式に決定せず、しばらくそれと定めること。臨時の措置」で、「暫定的に」という使い方をすると、「とりあえず行った一時的な対応で、次に正式な対応があること」という意味になります。 「便宜上」は、「とりあえず、〜ということにしておく(そうしたほうが都合が良いので)」という意味で使用されますが、その後に正式な対応や説明があるとは限りません。 「暫定的に」は「一時的に」というニュアンスが強い表現になります。 さらに、「〜そうしたほうが都合が良い」という意味は「暫定的」という言葉にはありませんので、そういった点が「便宜上」という言葉とは違いがあると言えるでしょう。
例文
「好都合」も「便宜上」と同じ意味であるように感じますが、微妙なニュアンスがあります。 「好都合」は「都合がよいこと・具合がいいこと」という意味で使用される言葉ですが、「好都合」は、「自分にとっては都合がいいから」という感情を挟んでいる場合に使用されます。 つまり、「〜のほうが好都合なので」言ってしまうと「自分にとっては都合がいい」という私情を挟んでいるような印象になります。 「便宜上」だと、「自分にとっても、あなたにとっても良いと思うので」というニュアンスになるので、「好都合」よりも「便宜上」のほうがビジネスシーンなどかしこまった場面で使用するのには向いています。
例文
「その場しのぎ」は、「その場をうまく乗り切るためだけの行動や言動」です。 「その場しのぎ」は、例えば何か起きたときに、先のことまでは考えずに、その場を乗り切るためだけの行動や、言動をして、なんとかその場を乗り切ろうとすることを言い表している表現になります。 「便宜上」は、「便宜上〜で、」というように副詞的に使用する事が可能ですが、「その場しのぎ」は副詞的には使うことはできません。 「その場しのぎの◯◯」の形で使います。 厳密には「その場しのぎ」=「適宜」で、「その場しのぎのやり方で」=「便宜上」であると言えるでしょう。
例文
「便宜」の対義語は「不便」です。 「ふべん」と読みます。 「便利でないこと」「都合が悪い事」という意味があります。 例えば、「不便な◯◯」と使用することで、「使いにくい」「〜をするのには都合が悪い」といった意味になります。 副詞的に使う「便宜上」の反対語として使うならば「不便なので」という言い回しが使えます。
例文
「不都合」は、「ふつごう」と読みます。 「不都合」の意味は、「都合がわるいこと・具合が悪いこと」です。 「都合」という言葉に「物事をするにあたっての事情」という意味があるので、打ち消しの意味のある「不」を頭につけた「不都合」は、「事情が悪い」「都合がわるい」という意味になります。
例文
「不自由」は、「ふじゆう」と読みます。 「不自由」の意味は、「思うようにできないこと」「不便なこと」です。 「自分の思うままにできる」という意味のある「自由」に、打ち消しの意味がある「不」をつけているので、「思うようにできない」という意味になります。 「便宜」は、「都合の良い」という意味ですが、「不自由」は「自分の都合の良いようにできない」ということなので、「不自由」は「便宜」の対義語になります。
例文
「便宜上」を和英辞典で調べると
がよく出てきますが、これは直訳的でネイティブはあまり使いません。 もっとシンプルに、
の形で使います。 「for convenience」は「都合がよいので」と訳した方がわかりやすい場合もあります。
Just for convenience, I've decided to put all together for now.
便宜上、今のところ全て一つにまとめておくことにした。
「便宜上」には「分かりやすくするために」というニュアンスもあります。 「to make it simple」で、「シンプルにするために」という意味になります。
To make it simple, I'll call him Mr. A.
便宜上、彼をAさんと呼びます。
いかがでしたか? 「便宜上」という言葉について理解していただけたでしょうか。 ✓「便宜上」は「べんぎじょう」と読む ✓「便宜上」の意味は「その時々に応じたやり方で」 ✓「便宜上」は、「便宜上、」の形で副詞的に使う ✓「便宜上の理由」は「相手を説得するのに都合のよい理由」 ✓「便宜を図る」が定型句だが、マイナスな意味合いを含むので注意 など