「否めない」という言葉をご存知ですか?「〜なのは否めない」や「〜感は否めない」といった表現を歌詞で耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?今回は、「否めない」という言葉の正しい意味と使い方を例文付きで解説します。「否めない」の類語表現や対義語、英語表現も合わせて紹介しますのでぜひ参考にしてください。
「否めない」の読み方は「いなめない」です。 「否めない」は、「否む」という言葉に可能を表す「る・れる」がついています。 「否む」は「いやむ」「いなむ」の2つの読み方があります。 「いやむ」と読む場合、「憎む」「嫌う」という意味になります。
「否めない」の意味は、「否定できない」です。 元になる「否める(いなめる)」には、「そうではないと否定する」という意味があります。 「否めない」は、「否める」に否定の意味がある「ない」をつけているので ・そうではないと否定することができない という意味になるのです。 「そうなる可能性がない」とはっきり断言することができないという意味で使用される言葉です。
「否めない」は可能性・推量を意味します。 どういうことかというと、否定することができないわけなので「〜である可能性がまだある(可能性)」「〜かもしれない(推量)」のニュアンスになります。 例えば、「彼がバカなのは否めない」とすると、「彼がバカである可能性は否定できない」という意味なので、「彼はバカな可能性がある」「彼はバカかもしれない」と解釈することができます。 このように、「そうなる可能性があって、完全に否定できない」という場面で「可能性・推量」を表す言葉として使用されます。
例文
「否めない」はビジネスシーンでは批判・非難する時の単なる遠回し表現の場合もあります。 例えば、「彼のアイデアが時代遅れなのは否めない」などと使います。 これは「彼のアイデアは時代遅れだ」と断言するのを避けているだけで、推量しているわけではありません。 推量表現を使うことで遠回しに表現しているだけです。 「否めない」をより遠回しにした表現に「◯◯感は否めない」があります。 「感」はネガティブな意味をもつ◯◯を和らげる役割を果たしています。 口語で主に使い、文語ではあまり使用しません。 「〜なのは否めないが、ーーだ」と「ネガティブな部分もあるがポジティブな部分もある」という表現でも使います。 「否めない」が推量なのか婉曲なのかは文脈や話者の心情で判断するしかありません。 「否めない」を敬語変換すると「否めません」になります。 「否めないと考えられます」「否めないと思われます」「否めないと存じます」などと表現することもできます。 ただ、「否めません」と言い切るよりも「否めないと思われます」「否めないと存じます」といったほうが柔らかい印象になります。 特に目上の人に対して使用する場合は「思います」をつけたほうが、失礼のない言い方になると言えるでしょう。 「否めなくもない」は「否定できないこともない」で「ひょっとしたら否定できるかもしれない」という意味になります。 これはポジティブな内容を否定するときの婉曲表現になります。
例文
「否めない」は日常会話で使用頻度がそこまで高くないため、詩的な響きのあり、歌詞などでもよく使われる言表現です。 「否めない」は聞き慣れない表現なので方言ではないか?と思う人がいるかもしれませんが違います。 「否めない」は標準語です。 「否めない」を歌詞で使っている代表的なのが髭男の「Pretender」という曲です。 Pretenderのサビの部分では、 「君の運命の人は僕じゃない 辛いけど 否めない でも離れ難いのさ」 と歌詞に「否めない」という言葉を入れています。 「大切な人の運命の相手が自分ではない」という辛い事実を断言したくないから「否めない」という表現を使っているのではないでしょうか。
「否めない」の原型「否む」は「辞む」とも表記し、「否定する」以外に「承知しない。ことわる」という意味もあります。 よって、「否めない」で「断ることはできない」という意味にもなります。 「否めない」以外にも「否むわけにはいかない」の形で使います。 ちなみに「否定できない」の意味の「否めない」は「否みがたい」としても同義です。 例えば、「せっかくの休みだが部長の誘いなら否めない」といった使い方をします。 部長という目上の人からの誘いを断るわけにはいかないという意味で「否めない」という言葉を 使用しているのです。 しかし、日常生活で「否めない」を「断れない」という意味で使用する人はあまりいないと言えるでしょう。
例文
「ないかもしれない」は、「ある」の打ち消しである「ない」+「かもしれない」という言葉がついています。 「かもしれない」は、副助詞の「か」に係助詞の「も」をつけた「かも」に動詞の「知れる」の未然形である「知れ」と助動詞の「ない」をつけています。 「かもしれない」は、「可能性はあるけど確かではない」という意味です。 したがって、「ないかもしれない」は、「かもしれない」に打ち消しの「ない」をつけているので、「〜しない可能性がある」「〜していない可能性がある」という意味になります。 「〜の可能性がある」という「可能性・推量」の意味で使用されているので「否めない」の類語になると言えます。
例文
「あるやもしれない」は、「ある」と「やもしれない」という言葉を組み合わせてできています。 「ある」は、「可能」を意味しています。 「やもしれない」は、副助詞の「や」に係助詞の「も」と動詞の「知れる」の未然形に打ち消しの「ない」とつけています。 「やもしれない」は、上述した「かもしれない」と同義です。 したがって「あるやもしれない」は、「断定はできないけれど、可能性がある」という意味で使用される言葉であるということがわかります。
例文
「あながち」は、「一方的に物事を決定できないさま。必ずしも。一概に。まんざら」という意味がある副詞です。 主に「あながち」は「あながち◯◯ではない」といったように、下に打ち消しの語を伴って「断定することはできない気持ち」と表現することができます。 「あながち」を使用することで断定するのではなく、婉曲的に否定あるいは肯定することができるので「否めない」の類語であると言えるでしょう。
例文
「否めない」の対義語には2種類あります。 一つは「否む」であり、「否定できる」です。 婉曲表現の「否めない」の反対語は「断定できる」になります。
「否めない」は、元々「否む」に「ない」という打ち消しの言葉をつけているので反対語は「否む」となります。 「否む」は「否定をする」という意味で、「彼の言っていることは真実ではないと否定できる」といった使い方をすると「彼の言っていることは絶対に真実ではないと言える」という意味になります。 反対に「否めない」を使用して「彼の言っていることも否めない」とすると、「否定することはできない」という意味になるので、「否めない」と「否定できる」は対義語になるということがわかります。
例文
「否めない」は、「〜である可能性もある」という推測から「断定はできない」というニュアンス でも使用される言葉です。 したがって、はっきり「こうである」と「はっきり判断を下すことができる」という意味のある「断定できる」という表現は対義語になります。
例文
「否めない」の最もシンプルな英語表現は「cannot deny(否定できない)」です。 「deny」は他動詞なので、目的語を伴って「can't deny...」で「...を否めない」という意味になります。
の形で「...ということは否めない」とすることもできます。 「can no longer deny」で「もはや否めない」となります。
We can no longer deny that Japanese pension system is already broken.
日本の年金システムがすでに崩壊していることはもはや否めない。
「deny」の形容詞形「deniable(否定できる)」に、否定を意味する接頭語「un」を付けて「undeniable」とすると「否めない」を意味する形容詞になります。 「an undeniable fact」で「否めない事実」という意味になります。 「undeniable」の類語には「incontrovertible(議論の余地がない)」があります。 「an incontrovertible evidence」で「明白な証拠」という意味になります。
「deny」を使ったイディオムに「there's no denying that...」があります。 「...ということは否めない」という意味になります。
There is no denying that 2020 has been a difficult year for my company.
弊社にとって2020年が厳しい年であることは否めない。
「否でも(いやでも)」は「不承知でも」という意味です。 「応でも(おうでも)」は「承知でも」という意味です。 したがって「否でも応でも」は「不承知でも承知でも」という意味になり、「何が何でも」というニュアンスで使用されます。 それの強調表現が「否でも応でも」です。 「否が応でも」でも同じ意味になりますが、「否でも応でも」が本来の正しい言葉です。 「否も応もない」だと「有無を言わせず」という意味になります。 「否も応もなく◯◯をさせられる」「否応なしに◯◯をする」というように副詞的に使います。 「否も応も」は「否も諾も(いなもおも)」としても同じ意味です。
例文
「否というほど」は、「もうそれ以上はいらないというほど」「嫌になってしまうほど」という意味で使用される表現です。 例えば、何かを与えられすぎているような状態で、「十分すぎて嫌だと感じてしまうほど...」というニュアンスで「否というほど」という言葉を使用します。 また、「ひどく」「はなはだしく」という意味もあります。 現代では「もうこれ以上はいらないというほど〜」という意味で使用することのほうが多いです。
例文
「否や」は古語では「いやいや」という拒否の気持ちや「これはこれは」という驚きなどの意味がありますが、現代では「〜するや否や、」の形で使います。 「〜するや否や」で、「〜するとすぐに」「〜すると同時に」という意味になります。 例えば、「家に帰宅するや否やトイレに駆け込みました」だと「家についてすぐにトイレに向かったこと」を意味しています。
例文
「否否三杯」は、「いやいやさんばい」と読みます。 「否否三杯」の意味は「進められるままに何杯も飲んでしまうこと」 ついついお酒を進められるがままに飲んで飲みすぎてしまうことを言い表しています。 また、「遠慮は口先だけで何杯も飲む厚かましさ」を表現する言葉でもあります。
例文
いかがでしたか? 「否めない」という言葉について理解していただけたでしょうか。 ✓「否めない」の読み方は「いなめない」 ✓「否めない」の意味は「否定できない」 ✓「否めない」で可能性・推量を表す ✓「◯◯感は否めない」ではビジネスで批判する時の婉曲表現になる ✓「否めない」には「断れない」の意味もある など