「剣呑(けんのん)」とは「危ないさま。また不安を覚えるさま」を意味する言葉です。「険難(けんなん)」の「けわしくて困難なさま」という意味が語源です。「けんなん」の音が変化して「けんのん」という言葉が生まれました。「剣呑」はどちらもの漢字も当て字です。
「剣呑」の読み方は「けんのん」です。 「けんどん」などと読むのは誤用となります。
「剣呑」の意味は「あやうく、不安を感じるさま」です。 今自分がいる状況や周囲に対して「危険な感じがする」「危機が迫ってくる感覚がある」「不安を覚える」という心落ち着かない様子になることを表します。
「剣呑」は「険難(けんなん)」が音便化したものです。 「険難」の意味は「けわしくて困難なさま」です。 それが転じて、「危なくて不安を感じる」という意味になりました。 そして「けんなん」が「けんのん」に音変化し、「けん」には「剣」、「のん」には「呑」という漢字が当てられて「剣呑」となりました。 よって「剣呑」は当て字となります。 小説などでは「険難」と書いて「けんのん」と読む場合もあります。 「険」と「剣」の漢字の混同に注意しましょう。 「剣呑(けんのん)」「険難(けんなん)」は正しい日本語ですが、「険呑」という日本語は存在しません。 一方「剣難(けんなん)」は「刀などで殺傷される災難」という意味の言葉になります。占いなどで「火難」「女難」「盗難」と一緒に注意項目として紹介されることが多いです。
「剣呑」は「けんのみ」とも読むことができます。 この場合は意味が変わり、「荒々しく人に叱りつけること」といった意味になります。 強く人に当たったり、怒鳴ったりすることを表します。 これは「剣突(けんつく)」と同義で、「剣突」の方が良く使われています。 主に「剣突を食わせる」の形で使われています。
「剣呑」は、「危険や不安を感じる」といった意味合いです。 実際に危険かどうかは分からないけど、危険な感じがする状況で使います。 そのため、明らかに危険な場合は使うことが出来ません。 ソワソワ、ヒヤヒヤする感情の時に使います。
主な「剣呑」の言い回しは
です。 「剣呑な雰囲気」は「今にも戦争や争いが始まりそんな雰囲気」を表し、 「剣呑な表情」なら「何か危険を察知して不安そうな表情」を表します。 「剣呑至極(けんのんしごく)」は小説などでたまに見かける表現です。 「剣呑至極」は「この上ないほど危ない」という意味で、「剣呑」単体とは違い明らかに危険な場合も使うこともできます。 「険難至極」と書いて、「けんのんしごく」と読ませることもあります。
例文
「剣呑」を繰り返して「剣呑、剣呑」と使うことがあります。 これは、なんだか物騒だなと感じた際に注意喚起をしたり、危険回避したりするときに言う表現です。 これも明確に危険を認知している時には使いません。 あくまで「物騒だな」と漠然と感じた時に「危険ですよ〜不安な感じがするよ〜」といった感情を表現するときに言います。
「剣呑性(けんのんしょう)」とは「何事にも不安を感じる性格のこと」です。 「剣呑性」を言い換えるなら「心配性」「臆病」などになります。 ちなみに「剣呑症」は誤りです。 「症」という漢字だと精神疾患というニュアンスが強くなってしまいます。 例えば「不安症」などと使います。 読み方はそのままで「険難性(けんのんしょう)」とするのが一般的です。 「険難」は先ほども言ったとおり読み方も意味も同じの熟語です。
例文
「剣呑を食わす」だと「叱りつける」の意味になります。 これは先ほども説明したように「剣呑」を「けんのみ」と読んだ場合です。 「剣呑(けんのみ)」だと「荒々しく叱ること」といった意味になり、「剣呑を食わす」で相手に叱りつけることを表します。 「剣呑(けんのみ)を食う」の場合は「叱られる」といった意味になります。
「剣呑」の言い換えには
などがあります。 「きな臭い」の意味は「戦争や物騒なことが今にも起こりそうな気配がするさま」です。 元々は「紙や布などが焦げるようなにおいがするさま」を表します。 そこから「何かが起こりそうな気配がするさま」という意味と「なんとなくあやしい、うさんくさい」とった意味も持つようになりました。 「風雲急を告げる」の意味は「事態が急変して今にも大事件が起こりそうな気配がすること」です。 「風雲」は「世の流れ、情勢」を表す言葉です。
「剣呑」の反対語は
となります。
「危ない」を意味する代表的な英語は「dangerous」です。 「dangerous」は害を及ぼす物事全般に使える英語です。
That's such a dangerous story.
それはかなり剣呑な話だ。
「risk」の方が「剣呑」の意味合いに近いです。 「risk」は日本語でも「リスク」といいますが、「悪いことが発生する可能性があること」を意味します。 完全に危険を察知しているわけではなく、漠然と不安な印象を抱くというニュアンスの「剣呑」にピッタリな英訳です。
You should not take that kind of risk.
そんな剣呑なことはすべきではない。
「剣呑な雰囲気」を英語で表現する際は、「tense(張り詰めた)」「hostile(敵対的な)」なども使えます。 「hostile」はかなり直接的な表現なので、「tense」の方がニュアンスが近いです。 「unfriendly」などもよいでしょう。
The atmosphere at the negotiations has gradually become tense.`
交渉が徐々に剣呑な雰囲気になってきた。
「剣呑」は「けんのん」と読み、「危険なさま。不安を覚えるさま」を意味します。 漠然と危ない雰囲気を感じて、不安を覚える心の動きを表します。 語源は「けわしくて困難なさま」を意味する「険難(けんなん)」が音声変化したもので、「剣呑」は当て字です。