自尊心や誇りがあることを表す「矜持」という言葉。「矜恃」とは何が違うの?と思っている方もいるのではないでしょうか。現代では同じ意味だと一般的に言われてきている2つの言葉ですが、本来は違った意味を持ちます。「矜持」と「矜恃」の正しい意味について解説しています。
「矜持」は「きょうじ」と読みます。 慣用読みで「きんじ」とも読まれますが、厳密には誤読です。 慣用読みとは、間違った読み方が広く使われ、定着したものを指します。
「矜持(きょうじ)」とは、「自分の能力に誇りを持つこと」を意味する熟語です。 他人からどう思われても、自分自身がすぐれていると信じ、それを頼みとして胸を張ることを指します。 「矜持」は自分をエリートだと思い込むあまり、人に対して尊大な態度を取るというネガティブな意味で使うことが稀にあります。 しかし、ほとんどの場合、ポジティブな意味合いで使われます。 「矜持」は文章語で、口語ではあまり使用されません。
「矜持」が「自分の能力に誇りを持つこと」という意味になったのは、「矜恃」と混同されたのが理由です。 「矜持」という言葉はもともと「自分をおさえつつしむ」という意味でした。 「矜」は「つつしむ」、「持」は「ただす」という意味があり、「自分をただして、つつしむ」という意味です。 一方、「矜恃」は「自分の能力に自信をもつ」という意味です。 この場合の「矜」は「ほこる」、「恃」は「たよる」という意味で、「自分の誇りを頼りにする」=「自分の能力に誇りを持つこと」です。 「矜持」と「矜恃」はもともと全く別の意味の語でしたが、読み方が同じ、漢字が似ている、「恃」が常用外漢字などの条件が揃い、混同されて使用されるようになりました。 現在では「矜持」も「矜恃」の意で使うのが正しいとされています。
「矜持」は、
などの形で使われます。
「矜持」の例文
「矜持」のその他の例文
「矜持を正す」「矜持を見失う」という表現が使われることがありますが、不自然な日本語です。 「正す」は「正しくないことを正しくする」「乱れているところを整える」という意味です。 「それまでの態度を改めて、気持ちを引き締める」という意味なら、「襟(えり)を正す」が正しいです。 「矜持を見失う」も不自然な日本語です。 「自分を見失う」とした方がよいでしょう。
「矜持(きょうじ)」と「プライド」はどちらも「自分の才能に自信を持つこと」を指しますが、微妙に意味合いが違います。 「矜持」は他人からの評価は気にせず自分の能力を信じることを指しますが、「プライド」は自分の優位性が正当に評価されることを求める気持ちが含まれます。 そのため、「プライド(pride)」は「うぬぼれ。高慢」とも訳され、ネガティブなニュアンスで使われることが多いです。 「矜持」の方が意味的にも(漢語なので)語感的にもカッコいいと感じる人が多いようです。
「プライド」の例文
「自負」は「じふ」と読みます。 「自負」の意味は「自分の才能や仕事に自信や誇りを持つこと」です。 自分の能力・学問・仕事などに自信をもっていることを言い表します。 「矜持」と「自負」の意味は全く同じで、完全な同義語といえます。
「自尊心」は「じそんしん」と読みます。 「自尊心」は、「自分を尊び他人からの干渉を受けずに、品位を保とうとする心理」を指します。 「自尊心」は、「矜持」「自負」よりも意味が強いです。 自分に誇りをもっているだけではなく、自分自身に尊厳を抱いているからです。
「自任」は「じにん」と読みます。 「自任」の意味は
です。 2つ目の意味で「矜持」の類語であるといえます。
「唯我独尊」は「ゆがどくそん」と読みます。 「唯我独尊」の意味は「世の中に自分ほどすぐれているものはないと、うぬぼれること」です。 「唯我独尊」は「天上天下、唯我独尊」の略です。 「唯我」は「ただ自分だけが」、「独尊」は「一人だけ尊い」という意味です。 本来は、生まれながらに備わる人間の尊厳を言い表した言葉でした。 現代では、自分がすぐれた人間であるとして自分のことしか感心がない様子を言い表す四字熟語として使用されています。 自分に能力があると思っていることを言い表すので「矜持」の類語です。
「自惚れ」は「うぬぼれ」と読みます。 「自惚れ」の意味は「実際以上に、自分を優れていると思い得意になっている状態」です。 例えば、実際はそんなことはないのに「自分には魅力があり、異性はみんな自分のことを好きになる」と思い込んでいるという状態を「自惚れ」といいます。
「天狗」は「てんぐ」と読みます。 「天狗」の意味は「自慢したり、自惚れること」です。 自分の得意な学識や芸能を自慢する人を「天狗になっている」などと言い表します。 「鼻が高くなっている様子」を深山に住み、鼻が高くて自由に飛行をする想像上の怪物にたとえています。
「鼻にかける」は「はなにかける」と読みます。 「鼻にかける」の意味は「自慢する」です。 他よりも優れていることを、とかく人前に見せびらかすことをいいます。 これ見よがしに鼻先にぶら下げるという意味から「得意になっている様子」を言い表す言葉として使用されるようになりました。 「かける」は「掛ける」または「懸ける」と書くことも可能です。 ただし、「賭ける」と書くのは誤りです。
「矜持」に最も近い英語は「self-esteem」です。 「self-esteem」は「自尊心」と約されることが多いですが、「自分の能力と価値に自信をもつこと」という意味なので、まさに「矜持」です。
He has very low self-esteem.
彼には矜持がほとんどない。
「矜持」の英語には「pride」もあります。 日本語でもある「プライド」の由来は英語「pride」で、意味は同じです。
He has too much pride to ask for any help.
彼はプライドが高すぎて、誰にも助けを求めることができない。
The country's national pride has been damaged by its Olympic games failure.
オリンピックの失敗によって、その国のプライドは傷つけられた。
Some Japanese people maintained pride as samurai.
日本人の中には侍としての矜持をまだ保っている人もいる。