コンビニやファミレスなどで「こちらがコーヒーになります」「あちらがお手洗いになります」などと聞いたことがある人が多いのではないでしょうか?「なります」はバイト敬語と言われ間違った敬語と指摘されることが多いですが、一概にそうとも言えません。「になります」には3つの意味があり、それぞれ別の使い方をします。どれか1つに当てはまらないからといって、「になります」を誤用扱いするのは無理があるでしょう。今回は敬語「になります」の意味と使い方を徹底解説していきます。最後に「となります」「でございます」との違いも説明します。
「になります」の1つ目の意味は、状態変化を表す「なる」です。その「なる」に丁寧語「ます」が付いた形が「になります」です。 「状態変化」とは、「ある状態から他の状態へ変化する」という意味です。 ちなみに、これから紹介するどの意味でも「なる」の漢字は、「成る」または「為る」と書きます。 さっそく例文を見てみましょう。
[例文の解説] 「唐揚げ定食とさば味噌煮定食で、合計1500円になります」という例文は、「唐揚げ定食」または「さば味噌煮定食」がなにか他の物へ変化するわけではありませんが、それぞれの金額が合計されることで違う金額へ変化することを示しています。 「あなたのお言葉はいつも励みになります」は、「あなたのお言葉」が私にとっては「励み」へと変化しています、という趣旨の例文になります。 「お世話になります」は分かりにくいと感じる人が多いのではないでしょうか?「お世話」は「人の面倒をみること」という意味とは別に「面倒をかけること、手数」という意味もあります。つまり、「お世話になります」は「私はこれから面倒をかける存在へと変化します」というのが元々の意味になります。なので「お世話になります」の「になります」も状態変化を意味します。
「になります」には「ある時期に至る、ある時間に達する」という意味もあります。 この意味の「になります」では、具体的な時刻や日数などが使われることが多いです。 この意味の「になります」は、1つ目の意味との違いが不明確だと感じる人もいるかもしれません。 かなり厳密に言えば、1つ目の意味は2つ目の意味を内包します。ある時間に達する、ということはある意味ではある状態へ変化している、と考えることができるからです。 「になります」は「これからある状態に達する」という意味であり、未来に対して使います。 例文です。
[例文の解説] 「商品の到着は来週以降になります」の例文では、「商品の到着は」は「商品の到着の時期は」の「時期は」が省略されています。つまり「商品の到着の時期は来週以降に達してしまう」という意味になります。 「次回の打ち合わせは来月になります」という例文も同じです。「次回の打ち合わせの日時は」という意味で、打ち合わせの日時が来月に至る、という意味になります。
「になります」の基本的な意味は上記の2つです。 巷ではコンビニやファミレスで使われる「になります」の使い方はバイト敬語と言われ、誤用とされています。 例えば、「こちらがコーヒーになります」は、ある何かがコーヒーへ状態変化したわけではないのだから、誤用だといわれています。しかし「これらがコーヒーになります」という表現を聞いてもあまり不自然な印象は受けませんよね。。 また、すでに息子が5歳であるにもかからわず「私の息子は5歳になります」と説明することってありますよね?これから5歳へ成長するわけではないのに、なぜ「になります」が使われるのでしょうか? 「になります」のもう1つの意味を知れば、これらの疑問がすべて解決します! 実は「になります」には、「〜に相当する、〜にあたる、〜に匹敵する」という意味もあるのです。 この意味は広辞苑にも記載されており、正しい意味になります。
「になります」を「〜に匹敵する」という意味で使う場合の1つ目は、「あなたはそう思っていないかもしれないが、実は◯◯なんだ」という風に意外性のある話をするときに使います。 下記の例文を見てみてください。
[例文の解説] 「私の息子は5歳になります」は、息子がこれから5歳に成長するという意味だけではなく、息子がすでに5歳のときも使いますよね。この場合は、「あまり時間が経ってないように感じるかもしれませんが、実は私の息子はもう5歳になっているんです!」という聞き手にとって意外な話題であるという前提で話がされています。 「こちらが新商品になります」という例文も、新商品なので相手はまだ見てないものに決まっていますよね。つまり新商品には意外性があります。なので、「になります」が使われています。 「彼女が私の義母になります」も意外性を表現しています。この場合は、聞き手は「彼女」が「私の義母」であることを知らないことが前提になります。
バイト敬語で誤用とされている言い回しに下記のような例文が考えられます。
[例文の解説] これらの例文は一概に誤用とは言えません。 「になります」は「〜にあたります、〜に匹敵します」という意味ですから、相手が想像できない商品を提供するときにはこの使い方は正しいと思われます。 「なにか別のものがランチセットに変化してる」という意味でないのは明らかですよね。 例えば、「ランチセット」という名前だけではどんな料理なのかお客さんは明確にイメージできません。そしてランチセットを運んできたタイミングで「こちらの料理がランチセットに相当します」という解説は不自然ではありませんよね? なので、相手が想像できない商品を提供するときに「になります」を使うのは正しいという見方が自然です。
誤用とされている「になります」の使い方には下記のような例文もあります。
[例文の解説] 「合計で1000円になります」の「になります」はこの記事の冒頭でも解説した「に達する」という意味なので問題ありません。 「お釣りは500円になります」はどうでしょうか?お釣りもお客さんが支払う金額によって変化するものですから、「に達する」と解釈しても無理はないと思われます。 よって、これらの表現は誤用とは言えないと思われます。
それでは、これらの例文ではどうでしょう?
[例文の解説] お客様がオーダーしたコーヒーを出す際に「こちらがコーヒーになります」と言うのはどうでしょうか? 「コーヒー」は基本的にはお客様が簡単に想像できる商品なので、「になります」は誤用である感じもします。 しかし、「あなたはもっと豪華な商品を期待していたかもしれませんが、こちらが当レストランが提供している商品です」という意味で「〜にあたります、〜に相当します」を使っていると想定することも可能です。つまり、この「になります」は日本語独特の謙譲表現と捉えることもできるわけです。 「あちらがお手洗いになります」はどうでしょうか?「もっと広くて綺麗なお手洗いを期待しているかもしれませんが、あちらが当レストランにあるお手洗いになります」と捉えることも可能です。 なので、これらの「になります」を完全に誤用であるとするには少し無理があるのではないか、と思います。 しかし、これらの表現を誤用として、カフェやファミレスのマニュアルから排除する傾向があります。職場のルールとして使わないのであれば、使用を避けるしかありません。
バイト敬語が実際に誤用と考える方が自然な場合もあります。
[例文の解説] 「こちらが領収書になります」の「になります」は誤用とするのが普通でしょう。「領収書」は相手にとって何も意外性はありませんし、相手が想像できないものでもないでしょうし、相手が期待をするものでもないからです。 「こちらがお釣りになります」も不自然です。「お釣り」も「領収書」と同様で、意外でもなく、想像ができないわけでもなく、期待をするものでもないからです。 それでは、「になります」の代わりにどんな表現を使えばいいのでしょうか?
上記のように「になります」を使うのが明らかに不自然な場合は、「でございます」または「です」を使えばよいでしょう。 「でございます」は、補助動詞「〜である」の丁寧語になります。 「ございます」の意味と使い方に関しては、下記の記事を参考にしてみてください。
「でございます」はただ「である」と物の存在や状態を説明しているだけなので、「領収書でございます」「お釣りでございます」は正しい表現になります。 「です」は、助動詞「だ」の丁寧語になります。助動詞「だ」の意味は「断定」になります。よって、「領収書です」「お釣りです」も正しい表現になります。
「になります」と「となります」の違いを理解するには、「なります」の前にある「に」と「と」の違いに注目する必要があります。 「に」と「と」はどちらも格助詞になります。
上記の例文2つを比べると、ほとんど違いがないように思いますよね。。。 格助詞「に」は、「後に続く動詞の向かう方向」を示します。 「なる」は状態の変化を表す動詞なので、「になる」「になります」という言い回しはとても自然です。 一方、「となります」の格助詞「と」は、「結果」を示します。「〜となります」は、「何かの結果◯◯という状態へ変化する」というニュアンスになります。 よって、「明日は休業日になります」はとても自然な文章ですが、「明日は休業日となります」という文章は何かの結果明日が休業日になる、という意味合いになります。例えば、災害が発生したり何かトラブルが発生した結果、明日は休業日になる、という意味かもしれません。「明日は休業日となります」という一文だけでは何が起きたのかは分かりませんが、何かが起きたことは確実です。 このように、「になります」は日常的で極普通の流れとしての状態変化を意味しますが、「となります」は何かが起きた結果として、意外性のあるアブノーマルな状態変化が起きていることを示します。
「になります」の意味と使い方はご理解いただけたでしょうか? 「になります」はバイト敬語と言われ誤用だと思われていますが、必ずしも間違っているわけではない、ということがご理解いただけたかと思います。 会社によっては「になります」の使用を全面的に禁止しているところもあるので、解釈によって正しいからといって、使ってもよいということにはなりません。注意してください。
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