商談のときや、政治家のインタビューでよく使われる「善処」という言葉。 政治家のインタビューでは、「善処する」と言ったのに結局どうなったの?なんて思うことも多いと思います。 今回はその「善処」について、説明していきます。
「善処」は「ぜんしょ」と読みます。 「よいところ」「よいしょ」とは読まないので注意してください。
「善処」の意味は「物事をうまく処置すること」です。 「善処」という漢字をひとつずつ見ていくと、 「善」は、「正しいこと、道徳にかなったこと、ほどよいこと」という意味です。 「処」は、「処する」という動詞であり「身を置く、とりさばく、はからう、定めて行う、処置する」などといった意味があります。 要するに、「善処」は文字通り「状況に応じて適切に処置すること」という意味になります。 「善処」は堅い言葉なので、日常生活ではほとんど使用せず、ビジネスシーンで使用することがほとんどです。
「善処」は仏教用語で「来世に生まれてくる善い場所」という意味もあります。 この意味の場合、漢字は「善所」と書くことが多いです。 「善い場所」とは、人間界と天上界(空の上、神々が住み世界)を指しています。極楽浄土(死後の世界、苦しみのない安楽の世界)を表す場合もあります。 法華経には「現世安穏後生善処(ぜんせあんのうごしょうぜんしょ)」という言葉があります。 これは「法華経を信じる者は、現世では穏やかに過ごすことができて、来世では善い世界に生まれる」ことを意味しています。 この「来世で生まれる良い世界」がまさに「善所」です。
ビジネスシーンで上司や顧客、取引先など目上の立場の人間から依頼やお願いをされたが、その場ではすぐにイエスかノーか決断できないときに「善処します」を返事として使います。 お客様からのクレームに対して使うこともあります。 「前向きに検討する」「努力していく」という意味の場合もあれば、「不安な点があるので決定は先送りにする」「一旦保留にする」という後ろ向きな意味で使われることもあります。 最初からきっぱりと断ると相手に不快感を与えてしまうので、それを避けるために「ノー」の婉曲表現として使う人もいます。 どちらのニュアンスなのかは、相手や状況で判断するしかありませんね。日本独特の習慣といえます。 「善処」という言葉自体は敬語ではないので、丁寧「ます」を付けて「善処します」の形で用います。 「いたす」という「する」の謙譲語を使い、「善処いたします」とするとより丁寧な敬語になります。 「善処してまいります」も謙譲表現にあたります。 その他の表現には、
などがあります。 「尽くす」とは「ありったけのものを全て出し切る」という意味です。全力で対処するという場合は「善処を尽くす」を使うことができます。
例文
「善処いたしかねます」は「処置することはできない」とキッパリ断るときに使います。 「善処できない」など直接的すぎるので、「善処いたしかねます」をビジネスシーンでは使用します。 「善処いたしかねます」の前に「申し訳ありませんが」「大変恐縮ですが」というクッション言葉を添えると、相手に丁寧な印象を与えることができます。 「いたしかねます」とは、「する」の謙譲語「いたす」+「兼ねる」+丁寧語「ます」で成り立っています。 「兼ねる」は「〜することができない」「〜することが難しい」という意味です。 「ご善処いたしかねます」とするとより丁寧な謙譲表現になります。
例文
恋愛相手に「善処します」と言われた場合は、「期待しないでください」「無理です」とネガティブな意味だと思って間違いないです。。。 恋愛における「善処します」は、間接的にノーと言っていることになります。 例えば、男性をLINEで食事に誘ったときに「善処します」と返信がきたらほぼ脈なしです。
という場合も少なからずありますでの、絶対脈なしというわけではありません・・・! そもそも「善処します」というビジネスで使う堅い表現を使ってる時点で恋愛対象ではない可能性が高いです。 それでも恋愛対象の女性にも「善処します」を使う堅い男である可能性は残ります。。。 気になる相手に「善処します」と言われたら、相手の性格を見極めて判断をしましょう。
「前向きに善処」と使っている人がたまに見受けられますが、これは少し不自然な日本語です。 「前向きに」とは「積極的に」「建設的に」を意味します。 「前向きに善処」という使い方は「前向きに検討」と混同していると思われます。 「前向きに検討」とは直訳的には「積極的によく調べて考える」という意味で、ビジネスで依頼されたときに「承諾できるように手はずを整えるので少々お待ちください」というニュアンスです。 しかし、「前向き検討」も「間接的なノー」である可能性はありますので注意です。 「善処する」とは「適切に処置」です。 よって「前向きに善処する」とは「積極的に適切に処置する」という意味になります。 「適切に処置する」ことに積極的も消極的もありません。「適切に処置をする」ということは「適切に処置をする」ということです。 したがって、「前向きに善処する」は文法的には誤りではありませんが、意味的にやや不自然な日本語ということになります。 ちなみに「適切に善処する」も誤用です。 なぜなら「善処する」が「適切に処置する」なので「適切に善処する」は二重表現にあたります。
「善処してください」は一般的に目上の人が目下の者に対して使う言葉であり、問題等があった際に「何とかしてください」「何とかしろ!」といった言葉を柔らかくしたものになります。 例えば、「同じミスを繰り返さないよう、善処してください」などと使います。 「〜してください」は相手に行動を促す命令表現なので、目上の人に使うことはできません。 他にも、
というような使い方があります。
例文
「善処します」と言われた場合は、「よろしくお願いします」と返します。 より丁寧に表現したい場合は「どうぞよろしくお願いします」「何卒よろしくお願いいたします」「心よりお願い申し上げます」を使います。 「善処します」を相手がどういう意味合いで使っているかはわかりませんので、その場に具体的なことに言及するのは避けた方がよいでしょう。 一旦「相手が適切に処置してくれたらよいな」くらいの気持ちで受け止めましょう。
「ご善処いただく」は「(目上の人に)適切に処置してもらう」という意味になります。 「ご善処いただきたい」とすれば、目上の人に対して「適切に処置してほしい」ことを丁寧に希望する表現になります。 「いただく」は「もらう」の謙譲語です。 接頭語「ご」は、文脈により尊敬語、謙譲語、丁寧語のどれにでもなりますが、「ご〜いただく」でセットの謙譲表現となります。(二重表現だと主張する人もいますが、慣習的に広く使われているため許容とする見方が大半) より丁寧な表現には、
があります。 「ご善処いただきありがとうございます」は適切な対応をしてくれた相手に対して、感謝の気持ちを述べる場合に使います。
例文
「善処する」は「事態に応じて適切に処置する」と意味ですが、「一旦保留にする」と後ろ向きな意味でも使います。 状況や話者の感覚次第でどちらの意味でも取れるので曖昧な表現です。 こちらが「間接的な断り」として「善処します」を使っているのに、相手が「対応してくれる」と勘違いしてしまう可能性があります。 そのため、絶対的に対応が不可な場合は「善処いたしかねます」などとちゃんと断る必要があります。 「善」という漢字に「ほどよく」という曖昧な意味があるため、「善処」という熟語には不明瞭な響きがあります。 時代劇などで殿様が家来などに向かって「善きに計らえ」と言ったりしていますが、これも「よろしくやってくれ」「ほどよく対応してくれ」という曖昧な言葉です。 言葉の曖昧さはヨーロッパ系の言語にはない、日本語独特な語感です。
それでも、商談中にその場で「善処いたしかねます」と言いづらいときってありますよね。 対応不可だとわかっていても「善処いたします」と使ってしまうシチュエーションもあることでしょう。 その場合は、なるべく早い段階で断りのメールや電話を入れましょう。 その日のうちに返すのはあまり検討していないと思われる可能性があるので、翌日または翌々日あたりが無難でしょう。 その際に、なぜ処置できないのかという理由をちゃんと伝えることが大切です。
ビジネスシーンで依頼してきた相手に対して実際に処置するつもりで「善処する」と答えたならば、具体的な方法や時期を伝える必要があります。 商談中にその場で伝えられる場合は、すぐ伝えましょう。 不確実性が残る場合は、その場では伝えずに後から連絡します。 こちらの連絡は早ければ早いほどいいでしょう。
逆に「善処します」と言われた場合は、返事は一旦「よろしくお願いいたします」にとどめておいた方がよいでしょう。 相手がどのような意味合いで使っているかわかりませんのので、後からメールがくるのを一度待ちましょう。 一週間ほど経過しても何も連絡がない場合に限り、進捗状況をメールで質問すればよいでしょう。
「対処」は「ある事柄や状況に対し、適当な処置をすること」という意味があります。 出来事や変化・問題などに「その物事や個々のケースに対し適したふさわしい処理をすること」となります。クレームやシステムエラーなどそれらの内容によって検討するわけではなく、決まった対応方法や処置がある際に使われます。 それに対して「善処」には問題が生じた時に間違いを正して処理を行い、方向性や相手によって「最良の処置」をするという意味があります。 そのため、仕事上のミスや商談における相手の要望に対しては「対処します」と使いません。 同じような意味合いで使ってしまう「善処」と「対処」ですが、意味に差異がありますので注意して使いましょう!
例文
「対応」の意味は、
です。 「善処」の類語としては、3つ目の意味を用います。 その時の状況や相手に応じて物事をすることを表します。「対応」はプラスなことに対しても、マイナスなことに対しても使います。 ビジネスシーンでは「ご対応」という形で用います。自分が対応する場合は、「ご対応させていただきます」「ご対応いたします」などと使います。 すぐに対応する、という場合は「迅速な対応」「早速の対応」などと言います。 「対応」は他にも、「対応する二つの角」「人気と実力が対応する」などと使うことができます。
例文
「対策」は「相手の出方や状況の変化によって、進める手段や方法」を意味します。 相手の態度や、事件の様子など、状況によって立てる処理の手段や方法を表します。 「対策を立てる」「対策を講じる」「対策を練る」「◯◯対策」などと使います。 例えば、「対戦チームの対策を立てる」ならば「対戦チームに勝つために、どのような方法をとるか考えること」を意味します。
例文
「努力」の意味は「ある目標を達成するために、一生懸命力を尽くして励むこと」です。 目的を達成するために努めることを表します。「努力する」「努力を重ねる」「努力が報われる」「努力が実を結ぶ」などと用います。 「努力」はビジネスシーンでも使うことがあります。 例えば、自分の前向きな姿勢や考えを、目上の人に伝えたい場合に「今後も努力してまいります」「精一杯努力してまいります」などと言います。 また、目上から目下に対して、「頑張りなさい」という気持ちを込めて、「努力しなさい」などと使うこともあります。
例文
「改善」の意味は、
です。 「改善」とは、悪い部分や好ましくないことを直すことを表します。 「体質を改善する」「待遇を改善する」などと使います。抽象的なものに対して用います。 日常会話で使うことが多い表現ですが、ビジネスシーンでも使うことがあります。例えば、「サービスを改善して、利用客を増やしたい」などと言います。
例文
「おざなりにする」とは「その場しのぎのいい加減な行動をすること」です。 今の状況を逃れるために、適当に物事に対応することを表します。 例えば、「お客様からのクレームをおざなりにした」という使い方をすると、「お客様からのクレームに対してその場しのぎの対応をした」という意味になります。 「おざなりな対応」「おざなりな扱い」という使い方もします。 「御座形にする」と表すこともできます。
例文
「なおざりにする」は「いい加減にしておくこと」を意味します。 この場合の「いい加減に」とは、「いい加減にほっておくこと」であり、「何もしないこと」です。 例えば、「なおざりな対応をする」という使い方をすると、「適当にほっておいてる」ということになるので、むしろ「何も対応をしていない」ということに近いということです。 何もせずに放置することを表した場合は「なおざりにする」を使います。 「等閑にする」と表すこともあります。
例文
「いい加減に」の意味は、
です。 「いい加減」には三つ意味があります。 「善処」の対義語としては、二つ目の意味を使います。 「いい加減」は「徹底しない、不十分なこと」という意味で使います。 物事を最後まで行わないで途中で断念したり、無責任に放り出すことを表す場合に「いい加減なやり方、いい加減に行う」と表します。 この場合の「いい加減」はマイナスなイメージを伴って使います。 「いい加減」はネガティブな意味合いで使うことが多いイメージですが、「いい加減のお風呂」「パンをいい加減な大きさに切る」などとポジティブな意味としても使うこともあります。
例文
「善」の対義語の「悪」を用いた「悪処(あくしょ)」といった言葉もありません。 「悪処する」「悪処します」などと使わないようにしましょう。 「悪所(あくしょ)」という言葉があります。これは「好ましくない場所、山道や坂道など進むのが難しくて険しい場所」という意味で使われます。 「悪所へ行く」「悪所に通う」「悪所へ進む」などと用います。
「善処する」=「適切に」「処置する」なので、 「適切に」=properly, adequately, appropriately 「処置する」=deal with, cope with と英訳し、組み合わせます。
I would like the president to deal prudently with this matter.
この件につき社長の善処を臨む。
「deal with」は様々な意味と使い方があるので、下記の記事を参考にしてみてください。
「対策を講じる」を意味する英語表現に「take measures」というものがあります。 「適切に」という意味を加えるために、「take proper measures」などとする英和辞典がありますが、このような言い方はネイティブはあまりしません。 「take measures」で1つのイディオムだと覚えておきましょう。
We'll take measures to prevent such a thing from recurring.
再発防止に善処します。
最もフランクな表現は「do what I can do about it」です。 直訳すると「それに関してできることをする」という意味です。 日本語の「善処する」はかなり堅い言葉なので、この英語表現とは釣り合いません。 「do what I can do about it」は「どうにかする」という和訳がぴったりです。
「善処」について理解できたでしょうか? ✔物事をうまく処置することという意味 ✔曖昧な表現方法 ✔依頼された時の返答と依頼する時とどちらでも使用できる 商談や取引の際に、よく使われる言葉です。 しっかりと身に着け社会人として適切な言葉を使いましょう!