「茫洋」という言葉をご存知ですか?「茫洋たる大海原」というように、自然を表現する言葉として使用されたり、「茫洋とした人」」というように人の性格を表さすこともできます。今回は、「茫洋」の正しい意味と使い方を例文付きで解説します。また、類語表現や対義語、「茫洋」の英語表現も合わせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「茫洋」の読み方は「ぼうよう」です。
「茫洋」の基本的な意味は「広々として限りない様子」です。 そこから転じて「つかみどころがない。見当がつかない」という意味で使用されるようになりました。 例えば、「海」を想像していただけるとわかりやすいかと思います。 海って果てしなく続いていて、先がぼんやりと見えないですよね。 広すぎてどこまで続いているかなんて考えても検討がつかないのではないでしょうか。 そういった広々としていて果てしなく続く風景や、とらえどころのない人を、「茫洋」という言葉を使用して表現することができます。
「茫洋」の語源は、「茫洋」の漢字をそれぞれ見てみるとわかります。 「茫」は「とおい・ひろい・果てしない」という意味がある漢字で、 「洋」は「広いみちみちたさま」という意味のある漢字です。 つまり、どちらも「広い」という意味で、同じ意味の言葉を2つ重ねて意味を強調しているということがわかります。 したがって、「ただ広いというよりも遥かにレベルを超えた広さ」を表現しています。 「茫洋」の漢字は「芒洋」と書くことも可能です。 「芒」という漢字にも「広々とした」という意味があるので、「芒洋」と書いても同じ意味の言葉です。
同じく「茫」という漢字を使った熟語には
などがあります。 どの熟語にも「広々として果てしない」という意味があるので、すべて同義語であると言えるでしょう。
なんにも考えずに放心しているという状態を「ぼーっとしている」という表現を使うことがありますよね。 この「ぼーっとしている」の「ぼー」は「茫」が語源です。 「茫」は「広々としている」から転じて「つかみどころがない。ぼんやりとしている」というニュアンスがあるためです。 ただし、「茫とした」と漢字表記することはほとんどありませんので注意してください。
「茫洋」の同音異義語に「亡羊」があります。 「亡羊」は漢字が似ているので当て字か何かかな?と思われる方もいるかもしれませんが、違う意味を持つ言葉です。 「亡羊」は、「逃げて見失ってしまったひつじ」という意味の言葉です。 そっから転じて「戸惑う・迷う」という意味で、四字熟語「多岐亡羊」や「亡羊の嘆」、「亡羊の感」などの言い回しで使用されます。 四字熟語「多岐亡羊」を「多岐茫洋」と誤用している場合が多々見受けられますので注意してください。 四字熟語「多岐亡羊」の意味は「方針が多すぎてどれを選べばよいか迷う」です。 羊を追いかけているうちに、道が分かれていて、羊を見失った故事が由来です。
映画「人間失格」で中原中也がつぶやく言葉に「前途茫洋」がありますが、これは造語です。 「後の人生が大きく開けていて、希望に満ちあふれているさま」という意味の「前途洋々」の対義語として作られた言葉です。 どちらも「洋」という漢字が使われていて韻が踏まれており、「茫洋(はっきりしない)」と「洋々(水が多い→希望にあふれている)」の反対の意味を持つ言葉でとてもおもしろい表現です。
「茫洋」で自然の壮大さを表すことができます。 例えば、
などの言い回しがあります。 広々とした景色が思い浮かぶような表現です。 「茫洋たる」は形容動詞「茫洋たり」の連用形です。 少し古めかしい響きがあり、あまり日常生活では使用しない表現です。小説などにたまに見かけます。
例文
「茫洋」は、「掴みどころのない人間性」を表す言葉として使用することもできます。 例えば、
などがあります。 人間性を表す語に対して上述した「茫洋たる」といった表現を使っても全く問題ありません。 ただし、「たる」の方が強意的で、物理的に広いことを強調した言葉なので、自然に対して使う方が適当です。 人の性格や人柄に対して「茫洋とした」を使う場合、「心が広い」「包容力がある」「おおらかだ」というプラスの意味で使用する場合と、「ぼーっとしている」「ハッキリしていない」というマイナスの意味で使う場合の2通りがあります。 相手に誤解されないように、褒め言葉の場合は「〜なところが茫洋としていて素敵ですよね」と具体的に伝えましょう。
例文
「茫洋」は「広々として限りない様子」から、「見当もつかない」といったような不安を表す言葉としても使用することができます。 例えば、 茫洋とした未来・・・どうなるかわからない未来への不安 茫洋とした喪失感・・・とらえどころのない喪失感 などと使用されます。 これらは比喩表現です。 先が見えないほど広く掴みどころがないという状況は、不安を募らせるものですよね。
例文
「茫洋」には、「広々としている」という意味がありますが、「茫洋とした」を「幅広い」や「様々な」という意味合いで使うことはできません。 したがって「茫洋とした仕事」といった使い方をしても「幅広い仕事」という意味にはなりません。 誤用がたまに見受けられますが、「幅広い仕事」「茫洋とした分野」などと使用するのは避けましょう。
「鷹揚」は、「おうよう」と読みます。 「鷹揚」の意味は、
となります。 「鷹」は「鳥の名。タカ」、「揚」は「高く上がる。上げる」を意味します。 ゆったりと振る舞うこと・余裕があって目先の小事にこだわらないことを表します。 「茫洋」も「広い」という意味では、おおらかな性格を表す言葉であるので、類語と言えます。 しかし、「茫洋」の場合、「つかみどころがない」というネガティブなニュアンスが強く、「ぼんやりとしている人」といったマイナスなイメージを含みます。 「鷹揚」は、心に落ち着きがってゆとりがあり上品だ、というプラスなニュアンスをのみを持つ言葉で、ネガティブな意味合いを含みません。
広いという意味の類語は「広大」「 宏大」 「雄大」「無限」などがあります。 ・広大/宏大 「広大/宏大(こうだい)」の意味は「ひろく大きいこと」 限りなく広々としている様子を表す言葉です。
例文
・雄大 「雄大(ゆうだい)」の意味は、「規模が大きく堂々としていること」 主に「雄大な景色」など視覚的な感覚で感じることができるものに対して使用される言葉ですが、男性の名前などにもそのまま使用されていることが多いです。
例文
・無限 「無限」の意味は、「どこまで行っても果てがないこと」 主に、数量や程度に限度がないことを「無限」と言います。 反対に、限りが有ることを表す言葉は「有限」です。
例文
不確かという意味の類語は「漠然」「不明瞭」「朦朧」「胡乱」などがあります。 ・漠然 「漠然(ばくぜん)」の意味は「ぼんやりとしていてハッキリしないこと」 例えば、何を目的に、どこまで向かっているのかわからないという、非常にぼんやりとした感覚で歩いていることを「漠然を歩く」と表現することができます。 「広くてはっきりしない」という意味で使用されることもあります。
例文
・不明瞭 「不明瞭(ふめいりょう)」の意味は、「はっきりとしないこと」です。 ぼんやりとしていて、ハッキリとしたことが言えないような状態を「不明瞭」と言い表すことができます。
例文
・朦朧 「朦朧(もうろう)」は、「かすんでいてはっきりしない様子」です。 意識がぼんやりとしていてハッキリしなかったり、物事がハッキリしないことを意味する言葉です。つまり、ぼやっとしていてハッキリとしたことが掴めないという状態です。
例文
・胡乱 「胡乱(うろん)」の意味は、「不確実であること、不誠実であること、あやしく疑わしいこと、合点がゆかずに腑に落ちないこと」です。 主に「あやしくて疑わしいこと」を指す言葉として使用されています。 「胡乱な目」「胡乱な目つき」などと使われることが多いです。
例文
性格を表す類語は「天然」「マイペース」「フワフワした」です。 ・天然 本来の「天然」の意味は「人力が加わっていない事前のままの状態」です。 性格を表す言葉としての「天然」は、「人とはちょっと違う変わった感覚を持っている人」とった意味で使用されます。 色々なタイプの人がいますが、何を考えているかわからないような不思議な人を「天然」ということが多いです。
例文
・マイペース 「マイペース」は、「他人や環境に左右されず、自分自身に適した方法や進度を崩さないこと」です。 自分のペースをいつでも貫き通していて、ある意味掴めない人をマイペースと言います。
例文
・フワフワした 「フワフワした性格」は、「心の掴みどころがなく、何を考えているのはわからない人」を表現します。 性格だけではなく、なんとなくフワっとしている雰囲気があります。 雲を掴むように、掴めそうで掴めない感覚がある人をフワフワした人と言います。
例文
「茫洋」は、「広い」という意味を、「掴みどころがない」といった意味があるので、反対語は「広い」という言葉の反対語である「狭い」、「掴みどころがない(わかりにくい)という意味の反対語である「わかりやすい」になると言えるでしょう。 それぞれの意味の反対語をいくつか紹介します。
「狭い」という意味の対義語は「狭小」「窮屈」「狭隘」「有限」などがあります。 ・狭小 「狭小(きょうしょう)」の意味は「狭くて小さいこと」です。 「度量が狭小だ」というように、人の性格を表すこともあります。
例文
・窮屈 「窮屈(きゅうくつ)」の意味は、「狭苦しくて自由に身動きができないこと」 空間や場所にゆとりがないことだけではなく、思うようにふるまえず息がつまりそうな場合にも使用されます。
例文
・狭隘 「狭隘(きょうあい)」の意味は、「面積が狭くゆとりがないこと」 また「心が狭いこと」という意味でも使用される言葉です。
例文
・有限 「有限(ゆうげん)」の意味は、「限度や限界があること」
例文
分かりやすいという意味の対義語は「露骨」「あらわ」「剥き出し」などがあります。 ・露骨 「露骨」の意味は、「感情や本心を剥き出しに示すこと」です。 「露骨」は「骨をさらす」ということを表現している言葉で、普段お肉に隠れていて見えない骨が見えるように、思ったことを隠すことなく言葉や態度に出すことを「露骨」といいます。
例文
・あらわ 「あらわ」の意味は「隠さずはっきりを見えていること」「隠さずわざと見せること」です。 気持ちなどを隠さず公然と示す様子にも使用できる表現なので、「茫洋」の対義語であると言えるでしょう。
例文
・剥き出し 「剥き出し」の意味は「感情や欲望などを、隠さず言葉や態度に占めすこと」です。
例文
「広大」を意味する「茫洋」の英語表現は
などになります。 これらは文字通り「極度に大きい」を意味する表現です。 一つの英単語で表すならば、
などがあります。
Giraffes are running in the vast plain.
キリンたちが茫洋たる平原を走っている。
「つかみどころがない」の英語は「vague」があります。 「vague」は「漠然とした」を意味する形容詞で、人に対して使うことができます。 その他には、
などと表現することも可能です。
Yoko is a really vague person. She doesn't remember what she bought in the supermarket on the previous day.
陽子は茫洋とした人で、前の日にスーパーで何を買ったのか覚えていないんだ。
いかがでしたか? 「茫洋」について理解していただけましたか? ✓「茫洋」の読み方は「ぼうよう」 ✓「茫漠」「茫々」「茫然」「渺茫」「茫乎」はどれも同義語 ✓「亡羊」は同音異義語なので書き間違い・変換ミスに注意 ✓「茫洋たる大海原」「茫洋たる大海」で自然の壮大さを表す ✓「茫洋とした人柄」「茫洋とした性格」で掴みどころがない人間性を表す など