「僥倖(ぎょうこう)」という言葉の意味と使い方は理解していますか?「幸」という漢字が含まれており、なんとなく意味が分かっているが詳しくは知らない人が多いのではないでしょうか?今回は「僥倖」を徹底解説します。
公式戦29連勝という快挙を成し遂げた藤井聡太さんが「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」とおっしゃったり、漫画『賭博黙示録カイジ』の主人公が「僥倖」を何度も発言したりしているので、「僥倖」という言葉を知っている人は多いかもしれません。
「僥倖」は「ぎょうこう」と読みます。 「僥倖」の意味は「思いがけない幸せ。偶然訪れた幸運」です。 全く予想していなかった、とても嬉しい出来事のことを指します。 普通の生活をしていては、望んでも手に入ることのできないような幸運を指します。
「僥倖」は動詞「僥倖する」の形でも使います。 「僥倖する」は、「幸運を待つ。思いがけない幸せを願う」という意味です。
「僥倖」の同音異義語に「行幸」があります。 「幸」という字が使われており、どことなく意味が似ていると勘違いしている人も多いですが、全く別の意味の言葉です。 「行幸」は「天皇が外出すること」を指します。 「行幸」の類語には「お出まし」もあります。
「僥」は「願うこと。望むこと」を意味します。 「倖」は「思いがけない幸せ」を意味します。 この2つを組み合わせて「僥倖」です。 「僥倖」には天皇が行幸する所という意味もあります。 天皇が行幸する地は、人々が恩恵を受けるという意味から、生まれた語です。
「僥倖」の例文
「僥倖」は人を非難する時にも使います。 「僥倖に過ぎない」「僥倖だ」などの形で、実力があるわけではなく運がよかっただけだという意味合いになります。 逆に自分自身に対して使えば、謙遜を意味します。
「僥倖」の例文
何かを達成し叶えたいことがあるが自分自身ではこれ以上何も出来ず後は祈るのみ、というシチュエーションでも使用することができます。 まさに神頼みであり、深刻な状況で使います。 「僥倖を頼む」「僥倖を当てにする」などと使います。 この「頼む」は「たよりになるものとしてあてにする」という意味です。
「僥倖」の例文
「僥倖を願う」「僥倖を望む」「僥倖を待つ」という表現は厳密には二重表現です。 「僥倖」の「僥」は「ねがう。のぞむ」という意味だからです。 よって、「僥倖を願う」「僥倖を望む」「僥倖を待つ」などの表現は「僥倖する」と言い換えるのがベターです。 しかし、「僥倖する」という用法はあまり使われることがなく、広辞苑にも「思いがけない幸運」としか記載がないので、「僥倖を願う」などが誤用とは言い切れません。
「望外の僥倖」は完全に二重表現です。 「望外」とは「望んでいた以上によいこと」を指します。 「望外の幸せ」=「僥倖」です。 棋士の藤井聡太さんが「望外」と「僥倖」のどちらも使った語ですが、併用しないように注意しましょう。
「僥倖に存じます」が必ずしも間違っているわけではありませんが、「幸甚(こうじん)に存じます」と混同している場合があるので注意です。 「存じます」とは「思います」という意味です。 「幸甚」は「しあわせ」を意味する堅い語で、ビジネスシーンでは依頼表現で使用します。 例えば、「〜してくださいますと幸甚に存じます」などと使います。 このような場面で「僥倖に存じます」と使うのは誤用なので注意しましょう。
「僥倖」と完全に同じ意味の言葉に「零れ幸い」があります。 「零れ幸い」は「こぼれざいわい」と読み、思いがけずやってきた幸運を意味します。
「利運」は「りうん」と読みます。 「利運」の意味は「よいめぐり合わせ、幸運」です。 また、「利運」には、
という意味もあります。 「幸運」という意味では「僥倖」の類義語になりますが、「利運」のほうが意味が広いです。
「奇利」は「きり」と読みます。 「奇利」の意味は、「思いがけない利益」です。 また、普通では得られない利益のことをいいます。 「奇利」は、利益を得ることに対してのみ使用される言葉なので、「僥倖」より意味が限定的です。
「幸運」は、「こううん」と読みます。 「幸運」の意味は「運がよいこと、めぐり合わせが良いさま」です。 「幸運」は広く運がいいことを言い表す言葉ですが、一時的な状態についての場合が多いという点で「僥倖」とはことなります。
「付き」は「つき」と読みます。 「ツキ」を平仮名で表記されることも多いです。 「付き」は「何かをするときの(幸)運」のことです。 「付きが回ってきた」「付きに見放される」というような使い方をします。 「僥倖」は、「あてにしても得られないような思いがけない幸運」のことなので、「付き」とはニュアンスが異なります。
「ラッキー」の意味は「運が良いこと」です。 「ラッキー」は、主に偶然生じたできごとを評価するときに使用するくだけた言い方です。 「やったー!」のように、感嘆詞として使用されることも多いです。
「棚から牡丹餅」は「たなからぼたもち」と読みます。 「棚から牡丹餅」は「思いがけない幸運を得ること、労せずして良いものを得るたとえ」です。 略して「たなぼた」と言われます。 棚から落ちてきた牡丹餅が、ちょうど開いていた口に入ったことから、思いがけない幸運を得ることのたとえして使用されるようになりました。 思いがけない災難に合うという意味で使用するのは誤りなので注意しましょう。
「鰯網で鯨を捕る」は「いわしあみでくじらをとる」と読みます。 「鰯網で鯨を捕る」の意味は「予想せず大きな獲物や収穫を得ること」です。 鰯漁の網に鯨がかかることを表し、偶然の幸運や意外な収穫があったこと。また、鰯網で鯨が捕れるはずがないことから、あり得ないことのたとえとして使用されています。 「鰯網で鯨」ともいいます。
「奇禍」は「きか」と読みます。 「奇禍」は「思いがけずに降りかかる災いのこと」です。 思いがけない事故にあって、怪我をしたり死んだりすることをいいます。 「僥倖」は、「思いがけない幸運」という意味なので「奇禍」は対義語です。
「不運」は「ふうん」と読みます。 「不運」の意味は「運の悪いこと、予期していない災難」です。 不幸な運命、また物事のまわりあわせが悪く、うまくいかないことをいいます。 「僥倖」は、思いがけない運のめぐり合わせがあり、うまくいくことを言い表す言葉なので「不運」は対義語です。
「災難」は「さいなん」と読みます。 「災難」の意味は「不意に身に降りかかってくる不幸事」です。 突然身に起こる不幸なできごとをいいます。 思いがけず悪い出来事が起きてしまうことを言い表す言葉なので「僥倖」の対義語です。
「僥倖」つまり「偶然の幸せ」とピッタリ意味が同じ英単語はありません。 「幸運」というニュアンスであれば、
などと表現可能です。 「僥倖にも」は「by chance」が一番近いです。 「偶然に楽しいものを見つける」という意味の「serendipity / serendipitous」という単語があります。これは「僥倖」と全く同じ意味というわけにはいきませんが、少しニュアンスが近いです。
The project was successful by chance.
あの企画が成功したのは僥倖によるものだった。
I was lucky to have met him again the other day.
先日彼と再会したのは僥倖である。