「心許ない」という言葉をご存知ですか?「〜なのは心許ないですが」といった表現で耳にすることもあるのではないでしょうか。しかし、実際に意味を問われると答えるのはなかなか難しいですよね。今回は「心許ない」の正しい意味と使い方を例文付きで紹介します。また「心許ない」の類似表現や類語、対義語や英語表現も合わせて解説していきます。
「心許ない」は「こころもとない」と読みます。 「許」という漢字は、普段「許さない(ゆるさない)」や「許可(きょか)」といった形で主に使うので、「心許ない」だと読めない人も多いです。 しかし、「許」は「表外読み」といって常用漢字表にはない読み方で、「もと・ばかり」と読むことができます。 新聞など公的文書では「心もとない」と平仮名で書かれることが一般的です。
「心許ない」の意味は、「頼りなく不安に思うさま」です。 物事の成り行きなど、どこか頼りなさを感じて不安や心配になる気持ちを「心許ない」といいます。 また、先が見えないようなぼんやりとしていてハッキリしないという意味で「心許ない」という言葉を使用することもできます。 例えば、相手の発言の抽象度が高くよく理解できない場合に「心許ない発言」と言ったりします。 まれに「待ち遠しい」という意味で使用されることもありますが、これは古語になります。 古語「心許なし」の意味は後述します。
「心許ない」の由来を解説していきます。 「許」を「ゆるす」と解釈すると、「心がゆるさない」だとなんで「不安」という意味になるんだろう?と疑問に思いますよね。 しかし、「心許ない」の「許」は「ゆるす」の意味ではなく、「もと」という意味です。 「許」には「元」と同じ意味があり、「親元を離れる」の「親元」は「親許」と表記することもあります。 「心に元が無い」で「心許ない」です。 「元が無い」というのは「根拠がない」という意味です。 「根拠がない」から転じて、古語「もとな(元無)」では「(わけもなく)やたらに。しきりに」という意味があります。 よって、「心許なし」は「わけもないのに心が動き回って落ち着きがない」という意味になります。 「根拠がないのに」=「頼りない」、「気持ちが落ち着かない」=「不安」というニュアンスです。
「心許ない」は、古語では「待ち遠しい」という意味でも使用されていました。 古文で「こころもとなし」という言葉を使用されている代表的なものには、『更科日記』『奥の細道』『枕草子』などがあります。 「更科日記」は、平安時代に記されたもので「こころもとなくおもふ」と不安になる気持ちを表現しています。 「奥の細道」には、「心もとなき日数重なるままに...」という文章があり「待ち遠しい日々」という意味で使用されています。 「枕草子」では、「こころもとなうつきつめたれ」という使われ方をしていますが「こころもとなう」は「こころもとなく」と同じ意味です。 このように、「心許なく」は古くから使われいますが「待ち遠しい」という意味で現代で使うのはかなり稀です。
「心許ない」は「心許無い」と漢字表記することも可能ですが、漢字が重なると読みにくくなってしまうため推奨されません。 古語では「心許無し」と表記されていることもありますが、現代では「現代仮名遣い」という概念があり、昔の仮名遣いを現代の仮名遣いに変えたものが「心許ない」「心もとない」となります。
「心許ない」には大別すると「〜は心許ない」と断定する使い方と「心許ない◯◯」と名詞を修飾する使い方の2つがあります。 主な言い回しとしては、
などと使います。 さっそく例文で使い方を見ていきましょう。
例文
「心許ない」は、「心もとなくなる」で動詞になります。 「心もとなくなる」で「頼りなく不安になる」という意味です。
例文
「甚だ心許ない」「心許ない限り」で、頼りなく不安な気持ちを強調して伝えることができます。 「甚だ」は「物事の程度が普通を超えていること」を意味します。 簡単に言うと、「とても」「非常に」「大いに」などを丁寧にした表現です。 「限り」は、感情を表す形容詞や名詞の後につけると、その程度を強調します。 したがって、「心許ない」という気持ちを強調している表現になります。 堅苦しい表現ですが、ビジネスシーンで目上の人に対して使う場合などに最適です。
「心許ないが」を敬語変換するには、丁寧語「です」を使い、
などと表現します。 「心許ないですが」はビジネスシーンなどで目上の人に対して使います。
例文
「懐が心許ない」は、「お金が足りるか心配」という意味で使用される言い回しです。 「懐」とは衣服の胸の辺の内側部分を指します。 懐に所持金を入れて持ち運んでいた昔の様子から、 「懐が暖かい」=「所持金が沢山ある」「懐が寒い」=「所持金が少ない」 というように、「懐」という言葉が所持金やお金周りの状態を指す言葉として使用されるようになりました。 したがって「懐が許ない」で「お金が足りるか不安」というニュアンスになります。
例文
「心許ない言葉」「心許ない発言」「心許ない一言」を「不安な言葉」と解釈することも可能ですが、これらの用例ではおそらく「心許ない」を「心ない」と混同していると思われます。 「心ない」は、「思慮や思いやりがない」という意味です。 つまり、「心ない発言」は「思いやりのない発言」という意味になります。 「心許ない」=「不安」 「心無い」=「思いやりのない」 という意味の違いがあります。混同に注意です。
例文
「心許ない」と似た表現に「心許り」がありますが、意味が全く違うので注意しましょう。 「心許り」の意味は「ほんの気持ちだけを示すしるし」です。 人に贈り物をするときに謙遜して使う語です。 副詞的にも使用します。 「許り」は「ばかり」と読むのが難しいので、「心ばかり」と表記することが多いです。
例文
「心許ながる」とすると古語と同じ「待ち遠しい」という意味になります。 「心許ながる」は、形容詞の「こころもとなし」の語幹である「こころもとな」に動詞の接尾語「がる」をつけた表現で、待ち遠しく思ったりじれったい気持ちを言い表す言葉です。 これもかなり古風な言葉で、現代ではほとんど使用しません。
「気遣わしい」は、「気遣う」を形容詞形です。 「気遣わしい」の意味は、「事の成り行きが気にかかるさま」です。 心配だったり、気にかかっている様子を「気遣わしい」という言葉を使って表現することができます。 「不安」というよりは「心配」というニュアンスのほうが強い言葉ではありますが、「心許ない」を「気遣わしい」と言い換えても問題ないでしょう。
例文
「気がかり」の意味は、「あることが心配で、心から離れないこと」です。 不安や心配な気持ちで心が落ち着かない様子を言い表す言葉です。 「ミスをしていないか気がかりだ」というように、気がかりになる何かが明確にあったり、すでに何らかの具体的な兆候がある場合に使用されます。 ぼやっといしていて「何が」という明確なものが言えない場合は「不安」や「心許ない」という表現を使用されることが多いです。
例文
「心細い」は、「頼るものがなくて不安に思う様子」です。 例えば「一人で過ごす夜は心細い」などと使い、「心許ない」よりも寂しい気持ちを強調した言葉です。 しかし、「頼りなく不安」という意味では意味が非常に似ており、類語といえます。
例文
「覚束ない」は、「おぼつかない」と読みます。 「覚束ない」の意味は
です。 「覚束ない」は、様子がはっきりせず不安だったり気がかりであることを言い表す言葉でもあり「心許ない」を「覚束ない」と言い換えることもできます。 しかし、フラフラしている足元を「覚束ない」というように「しっかりしていない」という意味で使用されることが多く「不安」「心配」という気持ちを言い表す場合は「心許ない」を使用するほうが圧倒的に多いです。
例文
「頼りない」の意味は、
となります。 不安な気持ちや安心できない気持ちを言い表している言葉なので、「心許ない」と「頼りない」は同義になります。 「心許ない」を「頼りない」に言い換えても問題ありません。
例文
「危なかっしい」は、「どう見ても危なく見えること」です。 危なげな様子で、見ていてハラハラしてしまうような様子を「危なっかしい」と言い表すことができます。 危なっかしい人を見ていると「心配」「不安」な気持ちになりますが、「ハラハラしてしまう」というニュアンスが強いので「心許ない」とはニュアンスの違いがあると言えるでしょう。 しかし「危なっかしい」も頼りないと言えますし、心配になったり不安な気持ちになるのも同じなので類語であると言えるでしょう。
例文
「安心」は、「気がかりなことがなくて、心が落ち着いていること」です。 元々「安心」は「あんじん」と読む仏教用語です。「仏教の功徳によって迷いがないやすらぎの境地」を意味していました。 それが転じて、「引っかかる事がなくて、心が落ち着き安んじること」を表すようになりました。 「心許ない」は、不安な気持ちで心が落ち着かないことを言い表す言葉なので「安心」は対義語であると言えるでしょう。
例文
「心配無用」は、「心配はいらない」という意味の表現です。 「無用」には、様々な意味がありますがこの場合「いらない」という意味で使用されています。 したがって、「心配しなくていい」という意味で「心配無用」という言葉を使用することができます。 自分を気遣って心配してくれた人に対して、敬意を示しながら「心配はいらないですよ」ということを伝えることができます。
例文
「心強い」は、「頼りになるものがあって安心できること」 「彼がいてくれるだけで心強いです」というように、「頼りになる」ということを伝える場面で使用する言葉です。 したがって、「不安」「頼りない」という意味で使用される「心許ない」とは反対の意味であると言えるでしょう。
例文
「心許ない」の直訳の英語表現はありません。
の3つの意味合いに分けて、それぞれの英語表現を紹介していきます。
「頼りない」を意味する英語は「unreliable」です。 「rely」で「頼る」を意味する動詞です。 「reliable」で「頼ることができる」という意味の形容詞になります。 それに否定を意味する接頭詞「un」を付けて、「unreliable」となります。 口語では「can't rely on...」の形で使うことも多いです。
I can't rely on that guy too much.
あいつは結構心許ない奴だよ。
「確信がもてない」は、
などで表現できます。
I'm not sure if she will come on time today.
彼女が今日時間通りに来るか心許ない。
「不安、心配」を意味する形容詞には
があります。 be動詞またはfeelと併用します。
I feel uneasy about my three-year-old kid going to his grandmother's house all by himself.
3歳の息子がたった一人でおばあちゃんに行くのかと思うと心許ない。
いかがでしたか? 「心許ない」という言葉について理解していただけたでしょうか。 ✓「心許ない」の読み方は「こころもとない」 ✓「心許ない」の意味は「頼りなく不安に思うさま」 ✓「心許ない」は古語で「待ち遠しい」という意味でも使われていた ✓「〜は心許ない」「心許ない日々」「心許ない気持ち」などと使う ✓「心許ないですが」は「心許ないが」の敬語表現 など