「支障をきたす」は、「業務に支障をきたす」や「体に支障をきたす」といったように、日常生活やビジネスシーンでも使うことの多い言葉です。しかし、本来の意味や使い方について曖昧なまま使っている方も多いと思います。そんな「支障をきたす」について、類語、敬語表現、英語などと共に今回は詳しく解説していきます。
「支障」は「ししょう」と読みます。 「支障をきたす」とは「都合の悪い事が生じる。さしさわりのある状態をもたらす」という意味の慣用句です。 「支障」と「きたす」の意味は下記です。
「支障をきたす」の「きたす」の漢字は「来す」または「来たす」です。 公用文では「来す」が使われますが、日常的には「きたす」と平仮名表記する場合が多いです。 「期たす」「着たす」などは誤記なので注意です。 「来す」の原義は「来るようにする」で、それから転じて「結果として好ましくない自体を生じさせる」という意味になりました。
ビジネスシーンでは、物事の円滑な運行が妨げられることを「支障をきたす」といいます。 堅い語なので、日常会話ではあまり使われません。 言い回しには、
などがあります。 単にトラブルが発生したことを述べたり、問題が起こらないように努める意思を表明したり、迷惑をかけたことをお詫びしたりする時に使います。 「支障をきたす」の敬語には「支障をきたします」「支障をきたす恐れがございます」などがあります。
「支障をきたす」の例文
「支障をきたす」は業務だけではなく体調に対しても使います。 例えば、退職理由でなどで「業務が体に支障をきたすことがあり、〜」などと使ったりします。 また精神疾患の度合いに対しても、「生活に支障をきたすレベルの〜」という言い回しが使われます。
「支障をきたす」という表明は法曹界でも使用されます。 「会社運営に支障をきたす名誉棄損や営業妨害行為」などの言い回しで使用されます。
「支障をきたす」以外にも「支障」は、
などの言い回しがあります。 「支障」につく助詞は大体「が」「の」「を」です。 「支障」の前に「なんらかの」「どこに」などを付けることも可能です。 他にも「生活上支障」など助詞を入れずに、名詞を2つを並べた複合名詞として使われる場合もあります。 「支障なく」と「支障」を否定し、副詞的に使うこともあります。
「支障を及ぼす」という表現は間違いです。 「悪影響を及ぼす」「累(るい)を及ぼす」などが正しい使い方です。 正否の見定めが難しい言い方に「支障が起こる」があります。 「支障が起こる」は不自然な日本語ではありませんが、あまり使いません。「支障をきたす」に言い換えるのが無難でしょう。
「支障をきたす」だけではなく、「支障」「きたす」それぞれの言葉の類語についても紹介します。
◯万障 (意味:あらゆる障害) 「万障お繰り合わせの上、ご参加いただきますようお願いいたします」
◯万難 (意味:あらゆる難儀) 「このプロジェクトは万難を排して実行する」
◯差し障り (意味:物事の進行に具合の悪い事情) 「これ以上言うと差し障りがあるので止めておきます」 ◯差し支え (意味:何かをするのに都合の悪い事情) 「差し支えなければ、無くした理由についてお聞かせください」 ◯故障 (意味:物事の進行が損なわれるような事情) 「故障しない限りは参加します」 ◯不都合 (意味:都合の悪いこと) 「何か不都合がありましたら、お知らせください」 ◯障り (意味:物事の進行で妨げになるもの・邪魔になるもの) 「工事の騒音が勉強の障りとなった」 ◯不便 (意味:便利でないこと・勝手が悪いこと) 「駅が遠くて不便を感じる」 ◯足手まとい (意味:手や足にまとわりついて行動の自由を妨げること・また、そのようなものやさま) 「一緒に連れて行っても、かえって足手まといになるだけだ」 ◯妨害 (意味:邪魔をすること) 「彼の発言は、会議の進行を妨害した」 ◯邪魔 (意味:妨げとなるものやそのさま) 「私はあなたの邪魔をするつもりはありません」 ◯足枷 (意味:自由な行動を妨げるもの) 「その問題は今後の足枷になる」
◯招く (意味:好ましくない事態を引き起こす) 「彼女の発言によって誤解を招いてしまう」 ◯誘発 (意味:ある事が原因となって、他の事を引き起こすこと) 「その悪道が事故を誘発してしまう」 ◯巻き起こす (意味:ある事がきっかけとなって、ある状態を引き起こす) 「その行動は、周囲の人々に波乱を巻き起こした」 ◯引き起こす (意味:新しい事態を生じさせる・事件を起こす) 「ずさんな管理が、火事を引き起こした」 ◯生じる (意味:新しく何かができたり、起こったりする) 「その事件に対して疑念が生じる」 ◯もたらす (意味:好ましくない状態を生じさせる・ある状態を実現させる) 「彼は関わる人全てに不幸をもたらす」
◯頓挫する<とんざする> (意味:勢いが急に弱まること・計画や事業などが途中で駄目になること) 「マンション建設を計画していたが、近隣住民の反対のために頓挫してしまった」 ◯壁に突き当たる (意味:それ以上進むのが困難な状況になる・仕事や考えなどが行き詰まる) 「壁に突き当たって、記録が伸びないままでいる」 ◯(悪い)影響が出る (意味:物事の力や作用が他のものにまで及ぶこと) 「夜更かしをした影響が出てしまった」 ◯問題が発生する (意味:面倒なことが起きること) 「問題が発生した原因について説明する」 ◯障害となる (意味:物事の達成や進行の妨げとなること) 「軽い風邪だが、仕事の障害となる」 ◯勝手が悪い (意味:自分にとって都合の悪いさま) 「条件はいいが、どうも勝手が悪い」 ◯行き詰まる (意味:物事が進展しなくなる) 「あと少しのところで、交渉が行き詰ってしまった」 ◯迷惑をかける (意味:困ったり手間を取らせる負担を相手に強いること) 「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
どれも最初の段階では予想していなかったミスや事柄にあい、立ち止まってしまった場合に用いる言葉です。 ビジネスシーンでは「頓挫する」「影響が出る」などがよく使われますが、日常生活では「迷惑をかける」「行き詰まる」といった比較的簡単な表現が使われます。
「支障をきたす」に近いニュアンスの英語表現は、
などで、「...を妨害する、邪魔する」という意味になります。 ネイティブは日常生活では「interfere」を最もよく使います。その他の2つは結構難しい表現になりますが、ぜひ覚えておきましょう。 その他にも、
などの表現も使うことができます。 それでは例文を見ていきましょう。
Working overtime every day interfered with daily life.
毎日の残業が日常生活に支障をきたした。
Her absence was just about to cause lots of troubles for this new project.
彼女の不在が、この新しいプロジェクトに大きな支障をきたすところだった。
My computer gets slower and slower, which starts impeding my task.
パソコンがどんどん遅くなり、私の業務に支障をきたしはじめた。