「甘んじて」とは「仕方のないものとして受け入れて」「不本意ながら」という意味の副詞です。与えられたものに満足はできないが我慢するさまを表します。「甘んじて受け入れる」「甘んじて許す」などと使います。「謹んで」の意で誤用しないように注意されたい。
「甘んじて」の意味は「仕方ないものとして受け入れて」です。 満足しているわけではないが許容する、嫌だけど我慢する、妥協するしかない、といったニュアンスです。
「甘んじて」の語源は「あまみす(甘味す)」という言葉です。 「あまみす」が撥音(はつおん)化+濁音(だくおん)化して「あまんず」、その動詞形で「あまんずる」です。 「あまんずる」は「あまんじる」と表記する場合もあります。 「あまみす」「あまんず」の元の意味は「よいものとして味わう」という意味もあります。これが転じて、「仕方なく受け入れる」という意味が生まれます。 辞書によっては「あまんずる」の意味を「満足する」と書いている場合があります。 混乱しますが、これは「完璧ではないがよいものとして満足するようにする」という意味合いです。 「あまんずる」の上一段化したものが「あまんじる」です。 上一段化とは「起く」が「起きる」、「落つ」が「落ちる」などと口語に合わせて文語を変化させることを指します。 その連用形が「甘んじて」となります。
「甘んじて」は副詞的に使い、動詞を修飾します。 「甘んじて受け入れる」「甘んじて許す」「甘んじて従う」「甘んじて努力する」などと使います。 「甘んずる」自体に「(仕方なく)受け入れる」という意味があるので、「甘んじて受け入れる」は二重表現のような気もしますが、「甘んじて」は仕方なく受け入れるようすを表した副詞なので、「甘んじて受け入れる」としても問題ありません。
例文
「甘んじて」は「甘んじる」「甘んじている」といった動詞の形でも使います。 不満を言わずに受け入れることを表します。 例えば、「清貧に甘んじる」という表現があります。 「清貧」とは「富を求めず私欲を捨てているため、行いが清らかで貧しいこと」です。 「清貧に甘んじる」で「私欲を捨てて正しい行いをしているなら貧しくてもいい」という意味になります。 ただし、あくまでも「仕方なく受け入れている」のであって、自らミニマリストになったり、好き好んでシンプルライフを送っているのとはわけが違います。
例文
「甘んじて」を「甘えて」といった意味で使うのは間違いです。 例えば、「彼の優しい言葉に甘んじてしまう」などは誤用となります。 正しくは「彼の優しい言葉に甘えてしまう」です。 漢字は同じですが、「甘んじて」には「甘える」といった意味は一切含まれないので注意しましょう。
「甘んじる」という言葉を他人に使う場合は注意が必要です。 例えば「彼は薄給(はっきゅう)に甘んじている」といった場合、 「彼は本当は稼ぎたいのに稼げないでいる」というニュアンスになり、他人の能力や境遇を否定するニュアンスになります。 この表現は聞くだけでも人によっては嫌な印象を抱くので、使う際は注意しましょう。
自分が過ちを犯し他人に迷惑をかけている立場でありながら、「甘んじて」という表現を使うべきではありません。 例えば、「厳しいご批判も甘んじてお受けする」「どんな刑罰でも甘んじて受けます」などは避けるべき表現です。 これでは「自分が非難されていることに納得がいかないが、仕方ないので受け入れる」というニュアンスになってしまい、反省している様子が全く伺えません。 正しくは、対義語の箇所で紹介する「謹んで」を使います。
「仕方なく」の原形は「仕方ない」です。 「仕方ない」の意味は「他にどうしようもない」「必然的に受け入れざるを得ない状況」となります。 「仕方なくやる」とした場合、「それ以外の選択肢がないからやる」「他にどうしようもないからやる」という意味合いになります。 「甘んじて」はまだ許容しているのに対して、「仕方なく」は必然的にそれ以外の選択肢がないという意味になります。
例文
「安んじて」は「やすんじて」と読みます。 「あんじて」とは読みません。「あんじて」は「案じて」となります。 「安んじて」の原形は「安んずる」です。 意味は「完全に自分が望む形ではないが、その状態のままで満足する」といった意味になります。安らかになる、安心するといった意味もあります。 「安んじて」は「甘んじて」よりも、「これでよいんだ」という気持ちが強い点に違いがあります。
「甘んじて」の言い換えは
などがあります。
「甘んじて受け入れる」は「甘受(かんじゅ)する」と言います。 意味は「好ましくない条件なども仕方なく受け入れる」です。 他にも「受け入れる」といった意味の類語には
などがあります。
「甘んずる」の否定形「甘んじず」「甘んじることなく」とした場合、意味は「満足せずに」となります。 主に「現状に甘んじず」と用いられています。 これは「現状に満足せずに」という意味です。 もっと上を目指すべきであるという場面で使います。 特に、満足してもいい結果を出したけど、まだまだ努力をしていくべきだという場合に使います。
例文
「謹んで」は「つつしんで」と読みます。 意味は「うやまって、かしこまって、うやうやしく」です。 「かしこまって〜する」という意味で、敬意を示して礼儀正しく物事をするさまを表します。 「謹」という漢字は、「行動に注意してかしこまる」「相手に対して敬う気持ちを表す語」を意味します。 ビジネスシーンでは「謹んでお詫び申し上げます」と謝罪するときに使います。 また葬儀では「謹んでお悔やみ申し上げます」と使われます。
例文
「甘んじる」に最も近い英語表現は「accept as it is」です。 「(仕方のないもの)をありのまま受け入れる」という意味です。
She accepted the consequences of car accident as they are.
彼女は交通事故の結果を甘んじて受け入れた。
「settle for...」で「...で我慢する」「...で手を打つ」という意味になります。 この表現も「甘んじる」にとても近いです。
She had to settle for the second place.
彼女は次点に甘んじた。
「content」は形容詞で「現状に満足して、それ以上は望まない」という意味です。 「content」は「仕方なく受け入れる」ほどネガティブではありませんが、多くを望まないというニュアンスでは共通しています。 「content」は名詞では「内容」という意味で、coにアクセントがきます。 形容詞では、teにアクセントになります。
She is content with the current situation.
彼女は現状に甘んじている。
「甘んじて」とは「与えられたものは不十分であるが、仕方のないものとして受け入れて」という意味の副詞です。 「嫌々我慢する」という意味合いです。 「厳しい現実を甘んじて受け入れる」「安月給に甘んじる」などと使います。