「なし崩し」の意味は「物事を少しずつ完了させていく様子」を表す語で、「なし崩し的に」などの形で使います。「なあなあで悪い方向にいく」というネガティブな意味は本来なく誤用です。「なし崩し」は漢字で書くと「済し崩し」で、原義は「借金をちょっとずつ返済する」になります。それでは「なし崩し」の意味と使い方、例文、類語、対義語、英語表現を詳しくみていきましょう。
「なし崩し」は「なしくずし」読みます。 「崩」は音読みで「ホウ」、訓読みで「くずれる・くずす」と読みます。 「なし崩し」は「済し崩し」と表記されることもありますが、この場合も変わらず「なしくずし」と読みます。
「なし崩し」の意味は「物事を少しずつすませていくこと」です。 一気にではなく、少しずつ済ませて状況を変えていくことを「なし崩し」という言葉を使用して表現することができます。 例えば、
という意味で使用されます。 また、少しずつ形勢をしていって物事を進めようとする様子を表現することも可能です。
「なし崩し」の語源について解説します。 「なし崩し」の元々の意味は「借金を少しずつ返済する」でした。 「なし崩し」は漢字で「済し崩し」と書きます。 「済し崩し」では、「返済」の「済」が使われていますよね。 積み重なっている借金を、少しずつ返済することでなくすという意味で「なし崩し」という言葉を使用していました。 そこから転じて、「少しずつ片付けて状況を変える」といったニュアンスで「なし崩し」という言葉を使用されるようになりました。
「なし崩し」は頻繁に誤用される日本語の1つです。 「なし崩し」は「悪い状態のまま」「なあなあな状況を続けて」「曖昧に」「うやむやに」というネガティブな意味で誤用している人が非常に多いです。 例えば「国民の反対があり、なし崩しで法律を撤廃する」などと使い、「その時の一時的な状況のみで判断し、しっかりとした議論がされないまま」という意味合いで誤解している人が多いと思われます。 これは、「なし」を「無し」と勘違いしている人が多いのが原因だと考えられます。 「崩して無くしてしまうように」と解釈してしまうと上記のような誤用してしまいます。 元々は「徐々に借金を返済する」という意味なので、この「借金」という言葉が原因でマイナスなイメージが付いてしまった可能性もあります。 しかし「徐々に返済する」ことはよいことなのですよね。 「なし崩し」の誤用に注意してください。
「なし崩し」は、「なし崩しに」「なし崩し的に」と副詞的に使うことが多いです。
の形で「このまま徐々に物事を進める」「このまま物事が進んでいく」というニュアンスになります。 例えば、徐々に毎年昇格していっていたとして、その先も変わらず少しずつ昇格していくのであれば「なし崩し的に昇格する」と言えます。
例文
「なし崩し」は、「なし崩す」「なし崩しにする」で動詞の形になります。 「なし崩し」を動詞にした場合、ほとんどは「徐々に借金を返する」「徐々に借金を返した」という意味で使用されます。
例文
「なし崩し償却」は、「なしくずししょうきゃく」と読みます。 「なし崩し償却」は会計用語です。 無形固定資産という長期にわたり会社の収益力となる無形の資産は、原価配分の原則により残存価額を考慮しない定額法によって取得原価のすべて償却可能です。 「償却」は、借りたお金や投資などのつぐないとして返すことを指します。 この取得原価のすべてが償却可能であることを「なしくずし償却」と言います。
IT用語に「なしくずしの機能追加主義」という言葉があります。 これは「creeping featurism」の和訳で、ソフトウェアを作るときに全体像をイメージせずに、その場しのぎで思いつきで機能を追加していくことがよいとする考え方です。 ソフトウェアが肥大化してしまい機能性が落ちる、デザインの統一性がなくなるなどの悪影響があります。
「着々と」の意味は、「物事が停滞なく進行していること」です。 「着々と」も「なし崩し」も、「徐々に進行していっている様子」を言い表す言葉なので「なし崩し」を「着々と」に言い換えても問題ありません。 例えば、「着々と借金を返す」でも「少しずつ問題なく借金を返す」という意味になります。
例文
「着実」には、「危なげなく確実に物事を行うこと」という意味があります。 したがって、「着実に〜していく」で「確実に少しずつ〜していく」という意味になります。 「確実に」は、一歩一歩確実に前に進んでいくというイメージです。 「少しずつ確実に進んでいく」というニュアンスで使用される表現なので「なし崩し」の類語表現であると言えるでしょう。
例文
「一歩一歩」の意味は、「少しずつ確かに進めていくこと」です。 一歩ずつ歩みを進めていくように、着実に物事を進めていくという意味で「一歩一歩」という表現を使用します。 「一歩ずつ」なので「少しずつ」「徐々に」というニュアンスが強く、「なし崩し」の類語になります。
例文
「少しずつ」は、「微量でも複数回繰り返すことで進めていくこと」です。 「少しずつ」は、大きな変化はなくても数度にわたって繰り返すことで進捗・進行していく場合に使用される表現です。 徐々に物事が進んでいる様子を言い表す言葉なので「なし崩し」の類語になります。 「なし崩しに◯◯をする」を「少しずつ◯◯をする」に言い換えても問題ありません。
例文
「じわじわ」とは、「物事が確実に少しずつ進んでいく様子」を言い表す言葉です。 「じわじわ」は、ゆっくり進んでいる様子を強調する表現です。 「じわじわと◯◯をする」という副詞的な使われ方をします。 「じわじわ」という言葉自体に「進める」「済ませる」という意味はありません。
例文
「徐々に」の意味は、「ゆっくり進行する様子」「少しずつ変化する様子」です。 「徐」という漢字には、「ゆるやか」「おもむろ」という意味があります。 「々」で「徐」と繰り返すという意味になるので「徐徐」と同じ漢字を重ねて意味を強調している言葉であるということがわかります。 上述した「少しずつ」と同義になり「なし崩しに」を「徐々に」に言い換えることが可能です。
例文
「ネズミが引くように」は、「少しずつ確実に物事が進行していく様子」という意味で使用される表現です。 小さな物でも積み重ねることで大きなものになることを、ネズミが塩を引いて行っても少量ずつでしかないけれど、何度も繰り返すと多量になるということに例えて「ネズミが引くように」と言います。 「少しずつでも進行していくこと」を言い表しているので「なし崩し」の類語になります。
例文
「なし崩し」の対義語には、これといった表現がありません。 しかし、「なし崩し」が「少しずつ」「徐々に」というニュアンスで使用されることを考えると対義語は、「すぐに」というように物事の変化が急である様子を言い表す表現になるということがあると考えられます。 そうすると、「なし崩し」の対義語に当たるのは
などになるということが考えられます。
例文
「少しずつ」を意味する英語は
などがあります。
The money dried up little by little.
なし崩しにお金が枯渇した。
誤用されている「なし崩し」、つまり「なあなあのまま」の英語は「without discussion(議論なしに)」になります。
The bill was passed without any discussion.
なし崩し的に法案が可決した。
本来はポジティブな意味なのに、慣習的にネガティブなニュアンスで使用されている表現が日本語には多くあります。 その中から代表的なものを紹介します。
「御の字」の意味は、 1.最上のもの。極上のもの。結構なもの 2.ありがたい、しめたなどの意 です。 「御」は「天子の行為や持ち物に敬意を表す語」です。 「御の字」は「御」を付けたくなるほど、それに満足しているということを表します。 したがって、「御の字」は「非常に結構であること、望みが叶って十分満足であること」を意味して使用するのが本来の使い方です。 しかし、「御の字」は「一応納得できる」「まあま悪くない」「良くはないがそこそこ」という意味で使われていることが多いです。 例えば、あるイベントで「来場客50万人以上」「売り上げは前年よりも30%増加」などという目標があるとします。なんとか一つは達成したもののあと一つは未達成に終わった場合に、「一つは達成したから御の字だ」などと言います。 このように「御の字」を妥協を表す語として用いるのは間違いになるので注意しましょう。
例文
「煮詰まる」の意味は、
です。 元々「煮詰める」は料理用語です。 食べ物や飲み物を十分に煮込んで、水分が減った状態を表します。煮詰めることで、味の成分をギュッと詰めたり、味を染み込ませることができます。 そこから転じて、話し合いが行われて結論に達する状態も表すようになりました。 しかし、「煮詰まる」は「議論が煮詰まる」「計画が煮詰まる」といったように、「物事がそれ以上進まない」という誤った意味で使用されることが多いです。 本来の「煮詰まる」を使う場面は「物事が完成に近づいたり、最終的な判断を出せる状態を表す場面」です。 例えば、「議論が煮詰まる」だったら「議論が途中で進まなくなる」という意味ではなくて、「議論が終わりに近づき、結論が出そうな状況」を意味します。
例文
「斜に構える」の意味は、 1. 剣道で刀を斜めに構える 2. 改まった態度を取る。身構える 3. 皮肉で不真面目な態度で臨む となります。 「斜」は「傾いている・ななめ」、「構える」は「事に備えて、ある姿勢・態度をとる」を表します。 剣道での「斜に構える」から転じて「改まった態度を取る・身構える」という意味で使用されるようになりました。 例えば、「緊張するのは良くないけれど、斜に構えて堂々と発表するように」などと使うのが正しい使い方です。 しかし、「斜に構える」を「斜めから物事を見る」というニュアンスで受け取ってしまった人たちが「皮肉で不真面目な態度で臨む」というネガティブな意味で使用するようになってしまい、間違った使い方が広まってしまいました。 「斜に構える」は「皮肉で不真面目な態度で臨む」という意味で使われることがほとんどなので、本来の「改まった態度を取る。身構える」という意味で用いると逆に相手に伝わらない恐れがあるので注意が必要です。
例文
「あなたはうがった見方ばっかり。うんざりだ」といったように「うがった」は否定的な意味合いで使われることが多いですが、間違いになります。 「穿つ」の意味は、 1.孔をあける。穴を掘る。つきぬく 2.せんさくする。普通には知られていないところを暴く 3.凝ったことをする 4.中に体を通す。衣服、履物などを身につける となります。 「穿つ」が「疑う」に似ていることから、誤用されるようになったのだと思われます。 「穿つ」は「物事の本質を深く捉えている」という肯定的な意味なので、「穿った見方をするね」などと言われた場合は、「物事の本質を捉える見方をしているね」という意味です。 つまり、自身の考え方や洞察力といったものを高く評価してくれていることになります。 「うがった」には「疑う」「ひねくれている」「浅く考える」というマイナスな意味は含まれませんので注意しましょう。
例文
「気が置けない」は「気を使わない」という意味で使用される慣用句です。 逆に「気を使う」とは、相手の顔色を伺ってしまい一緒にいるとなんだか疲れてしまうというようなことをいいます。 つまり「気が置けない」は、「遠慮をする必要がない」といった「気を使うことなく、気楽に付き合える」というニュアンスで使用される言葉です。 「気が置けない」を「気を許せない・油断ならない」という意味で解釈するのは間違いです。 これは、「置けない」を「気をゆるすことができない」という解釈をしてしまっているよくある間違いで、「〜ない」という否定の言葉を使用していることからおこりやすい誤用であると考えられます。 本来は「気の許せる」という意味で使用される言葉になるため誤用に注意してください。
例文
「破天荒」の意味は「今まで誰もしなかったことをすること」「未曾有」「前代未聞」です。 前人のなし得なかったことを初めてするという意味で使用されるのが「破天荒」の正しい使い方になります。 しかし、「破天荒」は「豪快」「大胆不敵」「無茶なことをする」といった意味で認識されていることが非常に多いです。 「破天荒な女」「破天荒な奴」といった使い方は誤りになります。 テレビなどでもよく「破天荒芸人」などと使われていますが、誤用です。 無茶なことをしたり、わけのわからないことをするという意味で使用する言葉ではないので誤用に注意してください。
例文
「他力本願」は一般的に「もっぱら他人の力をあてにすること」という意味で使用されています。 読みは「たりきほんがん」となります。 自分の力ではなく、他人の力によって望みをかなえようとすること・事をなすことを表します。 ”自分で努力をしない・人任せ・甘ったれ”というマイナスな意味合いが含まれます。 しかし、本来の「他力本願」は、浄土教・阿弥陀信仰で使われる仏教用語で、意味は「阿弥陀仏の本願力・弥陀の本願の力に頼って成仏すること」です。 本来は「他力」=”阿弥陀如来の力を借りること”、「本願」=”人々が仏になろうとする願い”となります。 自身が修行を行い、その功徳で悟りを得るわけではなく、阿弥陀の本願によって救済されることを表します。 したがって、本来の「他力本願」は「他人の力を借りること」「他人に頼る」という意味はありません。 仏様にすがっているのだから「人任せでは?」と思うかもしれませんが、人々が仏様に対して『仏様、助けて!』と言っているわけではなく、仏様が『よし、皆を救う!』と言っているのです。
例文
「情けは人のためにならず」は、「人を手助けすると相手の成長を妨げてしまうことになるから助けないほうがいい」という意味で使用されることが多いことわざです。 しかし、本来の「情けは人のためにならず」は「人を助けてあげると、自分に良いことになって返ってくるから自分の為になる」という意味です。 つまり、「良いことをすれば良いことが自分に返ってくる」ということわざなのです。 なので、心を鬼にして相手を助けずに見捨てるような場面で「情けは人のためにならず」と使うのは誤用です。 「情けは人のためならず」と言って人助けをしてあげるのが、本当の使い方です。
例文
いかがでしたか? 「なし崩し」という言葉について理解していただけたでしょうか。 ✓「なし崩し」の読み方は「なしくずし」 ✓「なし崩し」の意味は「物事を少しずつすませていくこと」 ✓「なし崩し」の元の意味は「借金を少しずつ返すこと」 ✓「なし崩しに」「なし崩し的に」と副詞的に使う ✓「なし崩し的に」にネガティブな意味はないので注意