「拙い」といった言葉を知っていますか?謙遜の気持ちを表すのに、ビジネスシーンでもよく使われています。今回は「拙い」の正しい意味と読み方、そして使い方の解説をしていきます。
「拙い」は「物事に巧みでないこと」を意味します。 「拙い文章」「芸が拙い」などと使います。 「拙い」は人を指して「能力がない」という意味もあります。 「拙い者」などといいます。 単に人の技術や能力を非難する時にも使われますが、逆接で人を褒める時にもよく使われます。
「拙い」の例文
「拙い」には「運が悪い」という意味もありますが、現代ではこの意味で使うことはほとんどありません。 「武運拙く敗れる」などと使います。 古語「拙い」には「品がない」という意味もありましたが、この意味で現代では全く使いません。
「拙い」は難読な漢字の一つですが、「つたない」と読みます。 「拙」は高校レベルの常用漢字ですが、「拙い」を読めない人も多いため、ひらがな表記する場合も多くあります。 「拙い」にはもう一つ「まずい」という読み方もあります。 「拙い(まずい)」も、「つたない」と同じく「物事が劣っている」という意味です。 「まずい」という言葉には「食べ物の味がよくない」という意味もありますが、その場合の漢字は「不味い」と書きます。
「拙い」という言葉はビジネスシーンでは、自分の技術や能力を取るに足りないものだと謙遜して用いられます。 実際には能力が低くなくても使います。 一方、実際に自分の能力が劣っていて、申し訳ない気持ちを表現する時に使われる場合もあります。 これらに厳密な区分はなく、どちらとも取れる場合もあります。
ビジネスメールでは「拙い文章ですが〜」「拙い文章ではございますが〜」がよく使われます。 メールの文章の最後に添えて使います。 「拙い文章ですが」の言い換え表現には「末筆ながら」「略儀ながら」「取り急ぎ」などがあります。 「下手な文章ですが」「文章が劣っていますが」などと言い換えるのは不可です。 これでは謙遜に聞こえず、ビジネスでは不適切です。
「拙い文章」の例文
「拙い意見」は「拙い意見ですが〜」の形で、ミーティング等で目上の人に意見する時に使います。 目上の人に意見することを、二字熟語で「進言(しんげん)」といいます。 「拙い意見」の言い換えには「僭越ながら」「おこがましいですが」「差し出がましいですが」などと使います。
「拙い意見」の例文
「拙い説明」「拙い進行」は会議などのプレゼンテーションで使います。 自分の話が終わったあとの締め挨拶として用いられます。
「拙い説明」「拙い進行」の例文
自分自身を指して「拙い者」「拙い私」などという場合もあります。 異動や転職した時など新天地での挨拶で「拙い者ですがよろしく〜」などと使います。 「拙い私を〜」の形で指導者にお礼を言う時にも使えます。
「拙い者」「拙い私」の例文
「拙い知識」「拙い経験」という表現もしばしば用いられます。 「拙い」は「技術力がない」という意味なので、技術力を要することを修飾するのが正しい使い方です。 よって「知識」「経験」は技術と関係ないので、本来は間違った言い回しです。 「知識が巧みではない」「経験が巧みではない」というのは意味不明です。 また「拙い語彙力」も同じ理由で不自然な日本語です。「語彙力がない」または「語彙が乏しい」が適当です。 「知識や経験が乏しく、能力がない」という意味なら「浅学」「浅学非才(さいがくひさい)」などと言い換えた方がよいでしょう。 その他にも「青二才」「若輩者」「不束者」「不肖」などの類語があります。
「拙い知識」「拙い経験」の例文
「物事に巧みでないこと」を意味する最も一般的な語は「下手(へた)」です。 「下手」は日常生活でよく使われます。逆にビジネスシーンではくだけた印象があるので、あまり使用しない方がよいでしょう。 「下手」を強調した語には「空下手(からっぺた)」「下手くそ」などがあります。 「下手」を使った慣用句には「下手の横好き」があります。 意味と使い方は下記の記事を参考にしてみてください。
「拙い」の読み方は「つたない」以外に「まずい」があるとすでにお伝えしました。 「物事に巧みでない」という意味の「まずい」は、「つたない」とほぼ同義ですが、微妙に違いがあります。 「まずい」は、技術・能力に対して使うのではなく、手段・方法についていうことが多いです。 「教え方がまずい」などと使います。 「まずい絵」などと具体的な物の出来栄えに対していう場合もあります。 「食べ物の味がよくない」「不都合」という意味では「不味い」という字を当てます。
「稚拙(ちせつ)」は「子供っぽくて、つたない」という意味で、「拙い」よりも限定的です。 「拙い」は必ずしも「子供っぽい」わけではありません。 「稚拙な字」「稚拙極まりない」などと使います。 「拙い」の類語には、その他にも「不格好」「未熟」「不器用」「苦手」「不得意」「不得手」などがあります。
「上手(じょうず)」は「下手」「つたない」の反対語です。 「上手」も「下手」と同じく広く日常会話で使用されます。 「かみて」と読むと、「上座に近い方」「舞台の右側」という意味になります。
「拙い」の対義語には「巧い(うまい)」もあります。 厳密には「まずい」の反対語が「うまい」です。
「物事が巧みではない」という意味の「拙い」の英語は「poor」です。 「poor」は「貧乏」以外にも「下手」という意味があるので覚えておきましょう。
I'm sorry for my poor English.
拙い英語で申し訳ありません。
She is a poor painter, but somehow interesting.
彼女の絵は拙いが、どことなく興味深い。
「拙い」の英語には「clumsy」もあります。 「clumsy」の意味は「技術がない」の他に、「不器用」があります。
You always drop something - You're so clumsy!
君はいつも何か落とすよね。まじ不器用!
Some of the wording of the statement was a bit clumsy.
意見書の文章で拙い部分がある。